第29話 友人たちへ打ち明けよう

「そういえば、カナたちに打ち明けるの忘れてた……」


 マユと付き合うことになってから、自分たちの恋愛に必死で、大阪にいる幼馴染しんゆうたちに打ち明けるのをすっかり忘れてた。というわけで、マユに聞いてみる。


【あのさ。カナたちに僕らの関係打ち明けようと思うんだけど、どうかな?】

【なんやカナたちに打ち明けるのはむず痒いんやけど】


 マユから返ってきたのはそんな、少し渋い返事。


【なんで?】

【こないだ集まった時は、私は恋愛とかええよって感じやったやん】

【そういえば、そうだったね】

【それで、ユータとくっついたっちゅう報告するのはこう色々と……】


 なるほど。恋愛なんてと言っていた翌日に僕とくっついたとなれば、多少ばつが悪いだろう。


【じゃあ、止めとく?無理に打ち明けるつもりはないけど】

【いや、ええよ。どうせいずれはわかるんやしな】

【じゃあ、グループチャットで言うね】

【それでええよ。でも、なんて言われることか……】


 特にカナなんかは、からかってきそうなところがあるから、気持ちはわかる。とにかく、皆に知らせよう。以前からある、「チーム真田」(僕たちの出身小学校の名前を取ったのだ)チャットに流すことにする。


ユータ【あのさ。ちょっと、皆に報告したいことがあるんだけど……】

カナ【お。どうかしたんか?ユータにもついに春が訪れたか?】


 いつも通りのカナのからかいのメッセージ。しかし、それが当たってるんだよね。


ユータ【実は、まあ、そうなんだ】

 

 少し恥ずかしいけど、覚悟して、メッセージを打ち込む。


カナ【おお。ほんとに春が来たんやな。相手はどこの誰や?】

こーちゃん【うまく行ったんやね。おめでとさん】


 素直に祝福してくれたカナと対照的なのが、先日、既に僕の想い人を知っていたこーちゃんだ。


カナ【ん?こーちゃんは相手知っとんのか?】

こーちゃん【その辺は本人から聞いた方がええと思うで。な、マユ?】

マユ【……】

カナ【なんやなんや。まさか、ユータとマユがくっついたんか?】

ユータ【ま、その通りなんだよ。報告が遅れてごめん】

カナ【別にんなこと気にせえへんでいいけどな。にしても、マユがなあ……】


 含みを持たせた言い回しをするカナ。


マユ【なんやなんや。言いたいことあるならはっきりいわへんか?】

カナ【いや、こないだは恋愛なんて……と言ってた割には、なあ】

マユ【どうせ、私はちょっとした事で転ぶちょろい女でございますよ_| ̄|○】


 マユはまたくずおれる男なんて、古いAAを持ち出して……。


かおちゃん【とにかく、2人がくっついて良かったじゃない?おめでとう!】

ユータ【ありがと、かおちゃん】

マユ【かおちゃんは、ええ子や。近くにおったら抱きしめたいわー】


 というわけで、カナも、特に僕が絡んでいるということもあるのか、マユをさほどからかうこともなく、あっさり関係を伝え終わってしまった。


カナ【にしても、ユータとマユがっちゅうことは遠恋かいな。順調か?】


 カナは僕らのグループの中でとりわけそういう事を気にする方なので、気になるようだった。


ユータ【まあまあ、かな。先週も大阪に遊びに行って、マユと会って来たし】

カナ【ほう。ちゅーことは、ラブホでしっぽりとでもしてきたか?ん?】


 相変わらずカナは話を下ネタに持っていくの大好きだ。


ユータ【その辺はノーコメントで頼むよ】

マユ【あんまり問い詰めるならしばくからな】


 さすがに、その辺で弄られるのは勘弁なので、ノーコメントで防御だ。


カナ【しかし、遠恋はじめて日も経ってないのに、お熱いな。お二人さん】

ユータ【ま、僕は恋愛経験値がほとんどゼロだから】

カナ【マユはああ見えて初心やから、ユータ、大変やったやろ】


 カナはまた下ネタを……。


マユ【やから、そこら辺言うと、今度会ったときしばくよ?(#^ω^)】


 あえてスタンプを使わずに、顔文字を使うところに本気度が伺える。


カナ【まあ、その辺は冗談やけど。これはお祝いせんとな】

こーちゃん【ええな。賛成や】

かおちゃん【私も賛成ー!】

ユータ【ありがたいんだけど、ちょっと気が早いんじゃ?】


 皆で祝ってくれるのはとてもありがたいことだけど。


カナ【日が経つとお祝いの意味がないやろ。ユータ、来週、大阪来られるか?】


 さすがカナ。行動するのが早い。


ユータ【ええ、来週!?ちょっとスケジュール見てみる】


 スマホに登録されたスケジュールには、マユとのデート(仮)が入っているけど、まあ、皆でお祝いをするのだから、いいか。


ユータ【マユとのデートが入ってるけど。マユはどう?】

マユ【ど、どうって、どういうことや】

ユータ【いや、元々は二人でデートの予定だったからさ】

マユ【そんくらい気にせえへんでええよ。私もオッケー】

カナ【じゃあ、来週土曜で店予約入れとくからな】


 とだけ発言したかと思えば、10分程して、


カナ【よし。来週土曜、18:30で鶴橋つるはしの韓国料理屋予約しといたで】

ユータ【はやっ。カナはそういうの即決即断だよね。とにかく、ありがと】

カナ【親友たちのお祝いやしな。ユータにはいつも集まり設定してもらったし】

ユータ【あー、でも、電車賃が吹っ飛ぶなあ……】


 別に嫌なわけじゃないけど、大阪と東京の往復電車賃は安くない。


カナ【なんや、そんなこと気にしとったんか。俺らが割り勘でだすわ。それくらい】

ユータ【ええ?さすがに、そこまでしてもらうと悪いよ】

カナ【俺らが呼ぶんやから当たり前。ユータは気にせず、どーんと構えとけや】

ユータ【じゃあ、お言葉に甘えるよ。助かる。楽しみにしてるよ】

カナ【ユータとマユの惚気話、いっぱい聞かせてもらうから覚悟しとけよ?】

ユータ【ええ?それは勘弁してほしいんだけど】

マユ【下ネタは厳禁な】

カナ【わかった、わかった】


 と、ここまで、こーちゃんとかおちゃんの都合を聞いていない事を思い出した。のだけど、


ユータ【こーちゃんとかおちゃんは予定大丈夫?】

こーちゃん【俺は大丈夫やでー】

かおちゃん【私も大丈夫―】


 二人とも二つ返事で了解してくれた。ほんとに、皆義理堅いなあ。


 そして、皆に打ち明けた後のこと。僕はマユと二人でビデオチャットをしていた。


「なんか、いきなりお祝いってちょっとびっくりしたよね」

「カナはお祝いごと好きやしな。からかわれるんはちょい微妙やけど」

「まあ、そのくらいは我慢しようよ」

「下ネタさえ振ってこんかったらええんやけど……」


 マユが懸念しているのは下ネタの一点に尽きるようだ。確かに、僕もその辺をカナに明かすのは色々抵抗があるけど。


「とにかく。こないだからあんまり時間経ってないけど、楽しみだね」

「そやね。あ、来週は私の家に泊まって行かへん?」

「と、泊まり?」

「勘違いせんといてな。来週は妹も両親もおるからな」


 Webカメラの向こうだけど、ほんのりと頬が赤く染まっているように見える。


「了解。普通に泊まりに行くってことで」


 そういうわけで、凄い勢いで、僕らの付き合いをお祝いするパーティーが決定してしまったのだった。 当日は色々恥ずかしいことになりそうだけど、こうして祝ってくれる親友たちがいることに感謝だ。

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