第19話 道具屋さんは勝利に酔う


「それで、こっちの被害はどれほどなのでしょうか?」



「さいっこうに微々たるものでっすよう!! こちらの戦死者は三千ほどで押さえられています」



「そうですか。それは何よりです」



 それは魔族との戦闘が終わった一週間後。


 僕は防衛都市マリュケイカのグン・シーさんのお宅(最早僕とアリィヤの活動拠点となっている)にてグン・シーから今回の戦闘での被害を聞き、満足する。三千もの死者が出たことは嘆くべきかもしれないけれど、相手は十万の魔族だったんだ。大金星って思っていいよね?





「それもこれもグン・シーさんのおかげですね。ご褒美をあげなければいけないでしょう」




「いーーーやっほう! 我が君みみッミミミみみぃぃぃぃぃ。オ、オレは『お薬』がもっともっとほっしいでっすよぅ!!」




 『お薬』をねだるグン・シーさん。しかし、残念ながらそういう訳にはいかない。



「残念ですけどこれ以上の摂取はお勧め出来ませんね。人格に影響が出るのは問題ありませんがグン・シーさんの知能にまで影響が及ぶ可能性があります。最悪死んでしまいますしね。そんな事は許容できません」




「えぇ~~~~~。それ以外のご褒美なんていら……いらいらいらいらいらイラッネエェでっすよぅ!!」




「本当によろしいのですか? 結構気に入っていただけると思ったのですけどねぇ。アリィヤ。彼をここに」



「もう連れてきたわ」




 そう言ってアリィヤは何かを床に放り投げた。




「殺し……あぁぁ……殺して……なんでも……言う」




 それは両手両足を失っていた。だが、失った部位から血が流れだすことはなく、生きている。


 それはかつてグロウスと呼ばれた魔族の指揮を取っていた者であった。




「まじょぉぉぉぉぉく!! 魔族許すまじぃぃぃぃぃぃぃ! キェェェェェェェイ」



「手を出すことは禁止ですよ。グン・シーさん」




 それが魔族だと認識した瞬間に殺しにかかろうとするグン・シーさん。それを予想していた僕は静止の言葉をかける。


 どうなるか不明ではあったけれど、きちんとグン・シーさんは僕のいう事を聞いて動きを止めてくれた。『お薬』の効果はやっぱり凄いなぁ。



「さて、紹介は不要かもしれませんが……この方は先日魔族側の指揮官を務めていたグロウスさんです。色々とお聞きしたいことがあったので僕の方でしばらく預かっていました。いやぁ、強情な方でしたよ。死んでも情報は売らないとか死など恐れないとか……。そんなことされたら僕は困るじゃないですか? 僕が尋ねたら洗いざらい全て話す。それが普通というものでしょう? それに死を恐れないなどと聞いてもいないのに何度も聞かされてさすがに少しイラっとしてしまいましてねぇ。だってそうでしょう? まるで死ぬのが一番つらいような言い方ではないですか? だからグロウスさんに体験して貰うことにしたんです。死ぬよりもつらい事の数々を。もったいないとは思いましたが治療の為に回復薬や治癒魔法が使える者を呼び出したりなんかもして治して――そして瀕死にまで追い込んでというのを繰り返しました。いやぁ、感情に任せて動いてしまうなんて僕もまだまだですねぇ」




「あぁ、思い出すだけでもこの一週間は素晴らしかったわ。まぁ二日目に来た子がグロウスの姿を見るなり失禁したのだけは腹立たしかったけれどね」




「まだそれを言うのかいアリィヤ? ちゃんと回復していってくれたんだからいいじゃないか。まぁきっと魔族を見た事がなかったんだと思うよ? 怖がって失禁するくらい許してあげなよ」




「絶対にそういう理由で失禁したんじゃないと思うけど……まぁいいわ」




 この一週間、グロウスさんに死ぬよりも辛い事を散々教えてあげていた。なぜだかアリィヤは僕がグロウスさんに何かするたびにうっとりとしていたけれど、なんでだったのだろう? それにグロウスさんを痛めつけるのに飽きた後はアリィヤを抱いたりもしたのだが、その時のアリィヤは心なしかいつもより激しかった気がする。




「おっと、すみませんグン・シーさん。話が逸れてしまいましたね。それでですね。グロウスさんにそんな事をこの一週間続けていたら彼はとても素直になってくれたんですよ。僕が聞いていない事までペラペラと喋ってくれました。、まぁもちろんすべてを信じるなんて愚かな真似をするつもりはないので裏を確認させにクルデルスさんたちには動いてもらっていますが……。おっと、今はグロウスさんの話でした。そういう訳で僕にとってこのグロウスさんは不要となったんですよ。なので、グン・シーさんの良いストレス解消の道具になってくれるかと思って差し上げようとしたのですけれど……褒美は要らないのでしたよね? 残念です」




「ままま待ってくださいよぅ!! 欲しい……ほっすぃぃぃぃぃぃぃでっすよぅ!」




 ああ、良かった。喜んでもらえないのかなと少し落ち込みかけたけど、とても喜んでくれているみたいだ。僕にとってはゴミでもグン・シーさんにとってはとても貴重な物らしい。うんうん。どんなものでも擦り切れるまで有効活用しないとね。




「それでは差し上げます。殺してあげてもいいですし、生きたまま嬲るのもグン・シーさんの自由です。あぁ、そうだ。間違って殺さない為の方法などグン・シーさんはご存知ですか? 僕も機嫌がいいですし、幸い時間もあります。よろしければご教授しますよ?」




「マッジでっすかぁぁぁぁぁ!? しゃしゃしゃさっすがぁぁ我が君ですっ! 是非に是非にお願いします!」




 この後、僕はグン・シーさんに生きたまま人を苦しめる方法を伝授した。きっと拷問などに役立ててくれるだろう。


 アリィヤには一度話した記憶があるのだけど、何故だか彼女も僕の話に聞き入っていた。


 そうして僕の話が終わると、




「ありがとうございました。ではではではでは早速今教わったことを実践したいと……ふぇふぇふぇふぇ。くふぇがありききゃきゃきゃははははははははは!」



「うぅ……うぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」




 グン・シーさんは笑いながら、手足を失ったグロウスさんにスキップで近づく。それを涙目で見ることしかできないグロウスさん。




「グン・シーさん。楽しむのならば別の場所でお願いしてもよろしいですか?」




「おぉっと申し訳ありませんでした我が君ぃ! しかしオレだけではこの魔族を運ぶのに苦労します。誰か使ってもよろしいでしょうか?」



「そうですね。それではアリィヤに協力してもらってください。いいかな? アリィヤ?」



「イービルがそれを望むなら。……でもその代わり、後でたっぷりかわいがってね?」




 そうしたやり取りを経て、アリィヤとグン・シーさんは手足を失ったグロウスさんを連れて出ていった。




「ふぅ、さて、これで魔族の戦力も大幅に削れたかな。次は本命……魔王かな。くくくくくくくくく」




 さてと、僕は魔王討伐に向けて色々と準備しないとね。これが最後の仕事だと思うと楽しくなってくるなぁ。くくくくくくく。



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