第4話 道具屋さん、凄腕パーティーを勧誘する





 そうして僕は騎士団と山賊の混成軍を率いて魔王が活発に動いている地域へと向かう。しかし、僕は思うんだよね。まだ……まだ足りないんじゃないかなと。


 鍛えられている騎士団と山賊。確かに素晴らしいかもしれないけれど、これで魔王を倒せるなら苦労は無いんじゃないのかな?


 もっと必要だと思うんだ! 英雄的な存在が。群を圧倒する個の存在。魔王を倒すにはやはりそういう人が欲しいなって僕は思うんだよ!




「そうは思いませんか? カフテルさん。それにお姫様」




「そうだな。い、いえ、そうですね」


「イービル様の仰る通りかと思います。軍に属していないフリーの凄腕の剣士や熟練の魔導士は何人も居ますし。ですが……そういう実力のある方は仕事を選ばれます。魔王討伐などという大仕事を受けてくれる方が果たして居るかどうか……」




「心配ありませんよお姫様。誠心誠意、真心を込めて一生懸命お願いすればなんとかなりますよ。それとカフテルさん……相づちを打つだけなら誰にも出来るんですよ。何か意見を出すとか無いんですか? いえいえ、責めている訳ではないんですよ? ただ、すこーしがっかりしちゃいますねぇ」




「――っ。す、すいやせん! そ、そうだ! 確かこの辺りではクルデルスっていう剣士が率いてる五人組の凄腕パーティーが活動してるはずですぜ。なんでも元はこの辺の村出身の奴らが集まって出来た自警団とかなんですがね。やたらつえー魔物に襲われて自警団は半壊。ですがクルデルスと他の四人が力を合わせてその魔物を屈服させ、今は従えているっつー話です」




「――へぇ。魔物を従えているんですかぁ。凄いですねぇ。便利そうですねぇ。これはもう念入りにお願いをしなきゃいけませんね。カフテルさん、それにお姫様。そのパーティーの情報が欲しいです。五人の名前。家族の有無。大事にしている何か。それと一日の行動パターン。最低でもこれらは調べて来てください。一週間と言いたいところですが……相手は凄腕のパーティーみたいですからね。一ヵ月あげましょう。出来ますか?」




「了解です」


「畏まりました」





 僕はそのパーティーを味方につけるための作戦を考える。もちろん作戦の詳細はそのパーティーの詳細な情報を聞いてからだけど……ああ忙しい忙しい。勇者っていうのも楽じゃないね。やりがいはあるけれどとにかく大変だ。道具屋の店主だったあの頃が少し懐かしく思えてくるぐらいだよ。




「わりぃな……俺も知らない相手に配慮できるほど優しくは出来ねえんだわ。まだ見ぬクルデルスさんよぉ」


「お可哀そうに……まだ見ぬクルデルス様。ご武運を……」




 ああ、忙しい忙しい。





 それから半年後……、




「さて、返事を聞きましょうか? クルデルスさん」



「何度も言わせるな!! 貴様のような悪魔との取引にオレが応じるとでも思っているのか!?」






 僕は対等な立場でクルデルスさんと交渉をしている。


 交渉を開始したのは今から五か月前。情報を集めきってから半月後に僕は行動を開始した。



「悪魔とは……傷つきますねぇ。僕が何をしたって言うんですか?」



「何をしただと……ふざけるのも大概にしろ!! 権力を振りかざして仲間にならなければ村の税収を上げる。仲間になるまでこの場を離れない。その間に仲間の山賊が暴れて村に被害が出るかもしれないとこちらを脅す……もうウンザリだ!! そんな貴様が勇者だと? 笑わせるな、この悪魔がぁっ! ここに並んだ豪華な食事の数々。それに辺りに散らばる赤黒い液体……貴様、どれだけボクの大切な人たちを傷つけてきたんだ!?」




 おやおや、どうした事だろうか? 交渉の場だというのにクルデルスさんは剣の柄に手をかけ、抜いてしまったじゃあないか! 怖い、怖いよぉ!



「貴様のような邪悪は生かしておけない。それがボクの大切な人たちを傷つけるような存在なら尚更だ。行くぞぉっ、みんなっ」




 クルデルスさんの後ろに控えた彼の仲間の四人。そんな彼らはクルデルスさんの声に応えるように動き出した。




「マリン、全体の攻撃補助の魔法を頼む。ルーカスは距離を取って奴を魔法で牽制。ウルズスはボクと共に……」




 クルデルスさんは仲間へと的確な指示を出していく。やはり、仲間というのはいいよねぇ。信頼、親愛、親密。仲間のことを良く知っているからあんな的確な指示が息を吸うように出てくるんだろうね。素晴らしい事だよ。




「それとエリーは……ぐあぁっ」




「おやおやおやおや、どうしちゃったんですかぁクルデルスさぁん。お仲間の四人に四肢を封じられ押し倒され……仲間割れですかぁ? いけませんねぇ。喧嘩は良くないですよぉっ!」





 可哀そうなクルデルスさん。信じた仲間に拘束され、押し倒され悪魔と罵った僕を前にして這いつくばっている。あぁ、いや、間違いだったね。善の象徴である勇者。その勇者である僕がなんと悪魔と罵られたんだっ! そんな僕の方が可哀そうに決まっている。



「くっ、離せ! 貴様っ! みんなに何をした!?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る