第3話 道具屋さん、山賊さんを引き入れる



「さぁさぁさぁさぁさぁ!! やってきました遂にきましたきちゃいましたよぉ! じゃじゃーん! 山賊王のカフテルさん娘だというエルナちゃんでーーーーーっす! さてさて、お父さんを前にしてどんな気分ですかぁ?」


 エルナちゃんは全身を震わせながらその黒い瞳で地べたを這いずっているカフテルさんを見る。短い黒髪に少し日焼けした肌。ああ、どことなくカフテルさんの面影があるかな? 目元とかよく見ると似ているかもしれないね。

 



「パパァ、いや、イヤァッ!」


「エルナっ! く、クソ、離せ! わ、分かった。従う。てめぇに従うから……娘には手を出すなぁっ!」



 おぉ、やはり娘さんを連れてきたかいがあった! なんとなんとあのプライドの高そうなカフテルさんがこんなに簡単に折れてくれたよ! いやぁ、やはり肉親が目の前で犯されるのなんて見たくないよねぇ。むごいよねぇ。悲しいよねぇ。そんな悲劇、許されるべきじゃないよねぇ。



 でもさ



「さーあ、エールナちゃーーん。こっちにきて僕と遊びましょうかぁ? ちょーーーっと痛いかもしれないけど大丈夫ですよぉ。最後にはこっちの騎士さんにも手伝ってもらって気持ちよすぎて頭がおかしくなるくらい滅茶苦茶にしてあげますからぁぁぁぁぁぁ」


 僕の傍らには騎士団の中でもゲスな心を持った二人。この二人はこれまでの旅で僕が見出したゲスだ。いつからそうだったのかは不明だけど、彼らは自分の命さえあれば仲間なんてどうでもいいと思っている。一番最初に優先されるのが自分の欲望。そういう人間だ。そういう人間はとても――扱いやすい。


「イヤッ! 助けてっ! ヤダァっ! こんなのヤァッ!!」


「エルナァッ! て、てめぇ、話が違うだろうが! 俺が従えばエルナには手を出さねえって話じゃねぇのかぁ!?」



「カフテルさぁん。ねぇねぇちょっとちょっとちょっとぉぉぉぉぉ! だぁれがそんな事を言いましたかぁ!? 僕はあなたに魔王を討伐するのに協力してくださいと、山賊の皆さんの力を貸してくださいとお願いしましたよ。ああ、確かにボスであるカフテルさんが僕に従ってくれるというなら山賊の皆さんも喜んで力を貸してくれるでしょうね。でもね? いつ、だれがそれと引き換えに娘さんを助けるだなんていいました?」



 無論、言っていない。そんな事は言った覚えがない。



「て、てめぇ……」




「僕も鬼じゃないんですよ。そもそも、僕は勇者です。これは魔王を倒すために必要な正義の行いなんですよ。僕だって苦しいんです。あぁっ! なんという悲劇なんだ! こんな幼い娘が男たちにいいようにされるなんて悲劇、あってはならない! でも、そうしなければ山賊たちの悪の行いを無かったことになんて出来ない。罪もない一般人や僕たちを襲った罪を無かったことになんて出来るわけがありません! カフテルさんが死んで償う? とんでもありませんねぇ! 死は逃避です。僕はそんな物で責任を取っただなんて認めません。生きたまま、苦しんで苦しんで苦しみぬいた果てに……死ぬ。それで初めて責任を取ったと言えるんじゃないかって僕は思うんですよねぇ!! だぁから、娘さんにはカフテルさんの代わりに苦しんで貰わないといけないんです――――――そんな娘さんを見るのなんて辛いですよね? カフテルさん。娘さんを開放するためにはカフテルさん。あなたが罪を償うしかないんです。協力していただけませんか?」



「俺にどうしろってんだ!? てめぇに従うだけじゃ物足りねえってのかぁ!?」



「はぁ」



 僕はエルナちゃんを離し、騎士団の人に捕まえておくように言う。そして、ゆっくりとカフテルさんの元まで歩いていく。


「カーフーテールーさぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 僕は彼の髪を持ち上げ、その瞳を間近で直視する。


「ぐっうぅ――」


「物足りないのかですって? ええ、物足りませんともぉ!! さっき僕が言った事を覚えていますかぁ!? 僕はあなたのように強がってる方を跪かせたいんですよぉ! 精神的にも肉体的にもねぇ! だっていうのにあなたはさっきから上っ面で僕に従うって言ってるだけじゃないですかぁぁぁぁ!?」


「なっ――にぃ?」



「僕はね、カフテルさんが素直になってくれるなら何でもしますよ? 今日エルナちゃんを犯してもまだ無理ならまた明日。今度はエルナちゃんの爪を全部剥いでカフテルさんにプレゼントしましょう。それも無理ならエルナちゃんの皮を剥いでカフテルさんにプレゼントしましょう。それも無理なら大切な部下の方達に同じような目に遭ってもらいましょう。全部――ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜーーーーーんぶカフテルさんの目の前で行われる悲劇ですよぉ! あぁ! なんて罪深いんだろうカフテルさんはぁっ!! 素直になるだけで悲劇を回避できるっていうのに強情なんだからもおおおおおおおお」



「ヒッ――」



 突然怒鳴った僕に対して青い顔でただただ怯えるカフテルさん。山賊王の名が泣いているよぉぉぉぉぉ?


「という訳でまずは最初の悲劇の始まりですねぇ! 題して『父のせいで散る乙女』。特等席でカフテルには見てもらいましょうかぁっ!!」



 そう言って僕はゆっくりと立ち上がり、再びエルナちゃんの元へと向かう。



「ぐ、うぅぅぅぅぅぅぅぅ。うぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁっぁぁっぁぁっぁぁぁ。やめろ、やめろやめろ。やめてくれ、いや、やめてください――だ! し、従う。従いますからどうかエルナには手を――出さないでください」


 苦悩する声を上げたカフテルさんが素直になってくれた! その後もカフテルさんの言葉は続く。


「あなたに……従います。部下も説得します。奴隷にでも……肉の壁にもなります。ですからどうか……どうかエルナにだけは手を出……出さないでください……」


 カフテルさん、顔を俯かせて全面降伏。

 僕はそんなカフテルさんへと再び近づき、その肩をポンポンと叩く。


「――ひっ」


「そんな扱いをするわけがないじゃないですか。イヤだなあカフテルさん。僕をなんだと思ってるんです? これでも一応勇者なんですよ? 正義のヒーローですよ? そんな酷い事出来るわけがないじゃあないですか。ああ、考えるだけで吐き気がしそうですっ! 僕がカフテルさんやその部下の方々にそんなひどい扱いをするとでも? いえいえそんなまさかまさか。する訳が無いじゃありませんか。この騎士団の方たちと同様、これからは心を入れ替えて、魔王を倒す正義の軍隊の一員になって欲しいだけですよ? 僕はそう願っているだけなんですよ。…………もちろん、裏切れば娘さんも、部下も酷い事になるかもしれませんが……カフテルさん。あなたは僕を裏切らないですよね? 僕たち、仲間ですよね? 友達ですよね? 親友ですよね?」



「……はい」



「そうですよね! ああ、良かった良かった。これで一安心です。お疲れさまでした騎士さん。カフテルさんの拘束を外してあげてください。僕たちはもう仲間なんですから」



「マジかよ、そりゃねぇぜイービル様。俺たちはタダで犯れるっていうからついて来たのによぉ」



「わがままですねぇ。しかし、あなた方は僕のいう事をよく聞いてくれますし――いいでしょう。後でどんな女性が良いか希望を聞かせてください。可能な限り要望に合うような女性を見繕いましょう」


「ひゃっふーーー! さっすがイービル様だぜ、話が分かる! 勇者とは思えねえぜ」


「失礼ですねぇ。僕だって心が痛むんですよ? しかし、みんなの士気を高めるのも勇者の務め。そのために罪のない一般人さんが少し傷つくのは仕方ないと思いませんか? 魔王を倒すための尊い犠牲ですよ。仕方ない事なんです」


「へへ、物は言いようってか。ったく。道具屋をやってると聞いていましたがどんなアコギな商売をしていたのやら――」


「聞きたいですか?」


「いや、辞めとくぜ。寝覚めが悪くなるのも嫌だしな。それじゃあ頼みましたぜ、イービル様」


 そう言って騎士の二人は山小屋から出ていった。

 僕も続いて山小屋から出る。そして、外で見張りをしてもらっていた騎士の一人に声をかける。


「それでは後はお願いします。騎士団と山賊。相反する二つですけど喧嘩はしないようにお願いしますね? 僕たちは仲間なんですから。連携に関してなどはただの道具屋店主だった僕には分からないんでそちらで話し合って決めてください。それでは~」



 さて、山賊さん達が裏切らないようにお姫様につけてるのと同じイヤリングを用意しないと。こればかりは騎士団の人には任せられないよ。あ、男が付けるならイヤリングじゃないほうが良いかな? それとクズの方の騎士の要望にも応えないと。山賊さんに頼めば適当な女性を連れて来てくれるかな? ああ、忙しい忙しい。


「まぁ、上手くやろうじゃないか。被害者同士な」


「……そうだな」



 後ろから騎士の人の声とカフテルさんの声が聞こえてくる。うんうん、そうやって同じ境遇の人たちが結託するのはいい事だよね! 関心関心。



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