第7話 道具屋さん、犬の調教に成功する



「わ、ワン! ワンワン!」



 おぉ! なんと可愛いワンちゃんなんだろう!? 三秒どころか一秒数えるよりも早く従順になってくれるなんてっ!



「素晴らしいっ!! あなたは間違いなく忠犬ですよクルデルスさぁん。さて、改めてお聞きします。僕はこれから魔王と戦おうと思っているのですが……力を貸していただけますよね? 僕の邪魔をする全てを排除してくれますよね? 肯定するなら『ワン』と鳴いてください」



「ワン!」



 いやいやいやいやいや。なんと素晴らしい忠犬なんだろうかっ! 躾の必要が全くないなんて楽でいいじゃないか。

 ……と言っても所詮は獣。抑止力は必要だよねぇ。


「さぁ、それではクルデルスさん。このイヤリングをどうぞ」



 そう言って僕は懐から例のイヤリング型の小型爆弾を計五つ取り出し、クルデルスさんの目の前にそっと置く。



「……これは?」



「爆弾ですよ。それを身につけさせてください――あなた以外のそこの五人にね」



「な!? なぜ!?」



「なぜ? 犬がご主人様の考えを知る必要なんてない……世間一般ではそう言われていますが、それでは犬は成長しませんからね。僕は聞かれた事には出来る限り答えましょう。良いご主人様で嬉しいでしょう? ……さて、なぜ爆弾をあなたにつけさせるのか? でしたね。簡単な話ですよ。そうすることであなたの確固たる忠誠が得られると僕が思っているからです」



「ちゅう……せい?」



「ええそうですとも。あなたはこれから自分のお母様や仲間に爆弾をつけます。ああ、ご安心を。あなたが余計なことをしない限り爆破させるようなことはありませんよ? しかし、あなたが僕を裏切った瞬間、爆破させます。そうなった場合誰が悪いんですかねぇ? 爆弾を取り付けたのはあなた。そしてスイッチを間接的に押したのもあなた。つまりあなたのせいで皆が死ぬ……そうは考えられませんか?」



「……化け物め……」



「……今のは聞こえなかったことにしておきましょう。ああ、そうそう。僕が死んでも爆発するようにしてあるので僕を必死に守って下さらないとやはりあなたのお母様やお仲間はバァーーーンです。どうです? 理解出来ましたか? 理解できたのならばさっさとしてください。時間は有限ですよぉ! 一分一秒を無駄にしないように心がけましょう!」



 道具屋という商売をしていた僕は時間というものがどれだけ大事なものかを良く知っているからね。一秒だって無駄にしちゃあいけません!



「母さん……みんな……」



「分かってる……いいのよ。そうしないとマリアが……。ごめんなさいクルデルス。こんな事をあなたにさせてしまって……」

「クゥ……あなたにばかり背負わせてごめんなさい。裏切って……ごめんなさい」

「ごめんよぉクゥ兄ぃ。でも……俺にだって守りたいものがあるんだ」

「私は構わないから……言う通りにして? クゥ」

「いいから言うとおりにしてよぉ! もうあの人を怒らせないでぇ!!」



 クルデルスさんとそのお母様、並びに彼の仲間たちは互いを慰め、謝罪を繰り返している。その間もクルデルスさんは仲間にイヤリング型の爆弾を取り付けていく。お母様、そして仲間の方々へ一つ一つ取り付けている。



「なんと美しい親子愛! そして仲間愛でしょうか!? いいですねいいですよ素晴らしいですねぇ! 僕もこんなドラマチックなやり取りを親や友人たちとやりたかったものですよぉ。うぅ、泣けてきますねぇ。さて……僕は邪魔者でしょうし退散するとしますか」



 そう言って僕はその場を立ち去る……あっ! 言うのを忘れていたよ。



「そうそう、言い忘れていましたがそれらの爆弾は一度取り付けてしまえば外した瞬間に爆破します。どうやって外したかどうかを判別しているのかについては……面倒ですから説明はしません」



 ……というよりも下手に原理を説明して、それを攻略されちゃかなわないからね。まぁそう簡単に外せるものでもないんだけど。


 あれらの爆弾は全て誰かが身につけた瞬間からその人間の鼓動をキャッチする。

 どんな弱い鼓動だろうと過敏に反応する。そしてその鼓動の反応がなくなったとき――爆破するようにできているのだ。

 だから、身に着けている人間が息絶え、鼓動が途絶えた場合でも爆破はされる。悪逆非道にも見えるかもしれないけれど、これも必要なことなんだ。尊い犠牲っていうやつだね。


「それともう一つ。今回は仲間としてクルデルスさんをお迎えする予定だったのですが……犬という立場で満足だそうですからねぇ。いえいえ、人様の趣味をどうこう言う資格なんて僕にはありませんから何も言いません。ええ、言いませんとも。ただ……クルデルスさんの首につける首輪の準備が出来ていないんですよぉ。申し訳ありませんねぇ。次回山賊さんの誰かに持ってこさせるのでご了承ください」



「ぐっ……うぅぅぅぅぅぅ!」



 僕はそう言い残して本日整えた舞台から去る。これで我が軍にエースと呼ぶべき人たちが誕生した。魔物を使役するにはどうすればいいのかを聞き出せれば多くの魔物を引き連れた頼もしい一団になってくれるだろう。騎士団や山賊の人たちの訓練を見てもらうのもいいかもしれないね。それに、もしかしたら騎士団や山賊の人たちの中から魔法を使える人が発掘できるかもしれない。なんと強そうな軍団だろうか!? 自分でも怖くなってきたなぁ。ワクワクしちゃうね。


 さてさて、先ほど言ったようにクルデルスさんの首輪を用意しなければ。クルデルスさん達には聞きたいこともたくさんあるし……軍は大きくなっても忙しさは増えるばかりだなぁ。助手のような存在が欲しいね。あぁ、忙しい忙しい。




 その数日後、イービルの部下の山賊がクルデルスの下を訪れた。要件はもちろんイービルが作成した首輪をクルデルスへと届けるためだ。

 クルデルスは悔しさに涙を滲ませながら届けられた首輪を装着した。


「……つけたぞ」

「ああ、イービル様にはきちんと装着されていたと伝える。……その、大変だったな……。まぁ元の立場なんか忘れて仲良くしようぜ。イービル様にやられた被害者同士な」

「……そうだな」



 イービルの知らないところで部下たちの繋がりが強くなっていた。しかしそれはまた別のお話……。


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