第8話 道具屋さんは指揮官が欲しい



 クルデルスさんたちを仲間に引き入れてから数日経った。

 あれからクルデルスさんたちの話を聞いて魔物をコントロール法を獲得しようとしたのだけど、どうもうまく行かなかった。聞いた通りの方法を試しても従順になってくれる魔物なんて現れなかったのだ。クルデルスさんたちが手なずけた魔物はレグルスちゃん一匹だけらしいし、レグルスちゃんが特別だと思ったほうがよさそうだ。


 それにそのレグルスちゃんだが……残念なことに僕には懐いてくれなかった。クルデルスさんが間に入ってもなお、僕に襲い掛かろうとする始末だ。

 なので、飼い主であるクルデルスさん自身に処理させた。戦力的に少し惜しい気もするけど、思い通りにならない力なんてあっても邪魔なだけだ。魔物を戦力に加えるというプランは捨てざるを得ないかな。



「おぉ、見えてきました」



 そうして歩いていると、魔族領域が見えてきた。



 魔族領域というのは文字通り魔族達が住む領域の事だ。その中でも人間も暮らしているが、家畜のような扱いを受けていると聞く。

 そして魔族領域の最深部に魔王が居るとのことだ。もっとも、そこまで辿り着いた者の情報は手に入らなかった。おそらく、多くの勇者が魔王と出会う前に朽ちているのだと思われる。



「聞いていた通り魔族領域の空は気味が悪いですねぇ。紫色の雲って何ですか。邪悪な臭いがぷんぷんしますよぉ」


 空を見上げれば前方に紫色の雲が見える。もうすぐで魔族領域に入るのだが……これでいいのかなぁ。

 確かに僕の魔王を倒すために作り上げた軍団は精強だ。クルデルスさんを仲間にした後は優秀な仲間を得られていないけど、それでも数にして一万程度。これだけ居れば並大抵の相手には勝利できるだろう。しかし……、



「魔王は並大抵の相手ではありませんからねぇ」



 それに、不安はそれだけではない。

 この軍団には優秀な指揮官というべきものが居ないのだ。作戦など考える事はあっても、それを決定するのは騎士団長と山賊のトップのカフテルさん、そしてクルデルスさんが話し合って最終的な作戦が決定される。しかし、その中の誰もが偏った軍団の知識しか持っていない為、実戦では使いにくかったりするのだ。


 例えば騎士団の人達が考える作戦は主に正道の物が多い。後は平地を前提としたものが多いかな。

 反して山賊の人達が考える作戦はどれも汚い。騎士団の人が眉をしかめるような物ばかりだ。更に、場所が山であるという事が前提となっている物が多いかな。

 そういう意味では幅広い作戦を立ててくれているクルデルスさんと彼のパーティーの仲間が素晴らしいのだけど……こちらは大人数での作戦になれていない為か、少人数で行う事が望ましい作戦案が目立つかなぁ。



 と、このようにバランスが悪い。もっと大軍を指揮することに長けている人物はいないかなぁ? そこら辺に軍師的な人が居れば一生懸命お願いするんだけどなぁ。

 それに前回も考えたのだけど、やはり助手的な存在が欲しいなぁ。最近忙しすぎだよ。

 裏切り者が出ないように様々な対策をしているけど、その対策をするのが僕一人なんだよね。正直、今はまだ何とかなっているけど忙しすぎるよね。もっとのんびりしたいなぁ。



「しかし、難しいですよねぇ」


 僕と同じことを求めるという事はその助手にはそれだけの権限を与えなければならない。正直僕はそれほど人間を信じていない。誰だって裏切る。油断なんて出来るわけがない。

 僕を絶対に裏切らない。そのような確信が持てる人にしかこの役目は任せられない。別に能力を求めているわけじゃない。どんなノロマだろうと愚図グズだろうと構わない。ただ一点……僕を裏切らない。そんな都合の良い人間がどこかに居ない物かな?

 

 爆弾で脅している騎士団や山賊、そしてクルデルスさんのパーティーの中から誰かを選ぶというのも手なんだけど……そうなると一つだけ怖い事がある。

 それは、優位性だ。


 仮に僕がクルデルスさん辺りにも爆弾の起動権を渡したとする。そうすると、クルデルスさんが騎士団や山賊よりも優位に立つことになる。そこまではいい。問題は彼らに仲間意識が出来上がっているという事だ。彼らは起動権を持ったクルデルスさんを恐れる事なく、仲間として受け入れてしまうだろう。しかし、起動権を持ったクルデルスさんが他の人たちより優位である事には変わりない。おそらくクルデルスさんは彼らのリーダー的存在になってしまう。この僕を外敵と認識したうえでだ。それはまずい。


 彼らだけに軍団を任せた場合、僕への反抗心がまた芽生える可能性がある。そういう方向で一丸となられても困るのだ。無論、そうなったとしても僕には切り抜ける自信がある。その為の保険は何重にも張ってある。しかし、その場合彼らの大多数には死んでもらわなければならない。それは、戦力の低下を意味する。歓迎できることではない。大体、僕を守ってくれる兵が居なくなってしまったら僕はこれからどうすればいいんだ。自慢ではないが争いごとになったら僕は弱い。今は勇者でも元はただの道具屋店主なのだ。そこらの賊と単独で接触するだけでも詰んでしまうだろう。


 そういう訳で、彼らの中から僕の助手的存在を選ぶことは出来ない。

 彼らと仲間意識を共有せず、なおかつ僕を絶対裏切らないと確信が持てる人間。……まぁ、そんな人間が居るわけないんだけど……。しかし、どうにかしないといつか僕は過労で倒れてしまうだろう。どうしたものかなぁ。



「イービル様……イービル様っ!」


「おおっと、申し訳ありませんお姫様。少し考え事をしていました。どうかしましたか?」


 どうやら考え事をしていたせいで周りが見えていなかったようだ。反省しないといけないね。


「見てください。前方に煙が上がっています。あそこは……防衛都市マリュケイカ!? そんな……まさか落とされたというの!?」



 防衛都市マリュケイカ。聞いたことがある。確か、魔族領域から度々攻めてくる魔族に対抗するための都市だったかな。優秀な兵士、魔術師、軍司……などなどが居ると風の噂で聞いた覚えがある。

 そこか落とされたという事は……魔族が魔族領域から流れ込んでくる?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る