第28話 道具屋さんは仕上げに入る

 魔王は討たれた。


 残りの魔族たちは魔王が死んだ為、敗走した。しかし、食料の不足している魔族たちはそう遠くないうちに餓死する運命だ。無理して今は追わなくてもいい。


 もう魔族側に隠し玉がないのも分かっている。その為に魔族の軍勢がここに攻めてきたとき、第一軍を捨て駒に使って人間という食料を提供したのだ。そうすることで敵に余裕を持たせ、籠城戦を長期間行えるようにした。



 その長期間の間に魔族領域の隅々まで調べさせたが、魔族の大半が今回の侵攻に参加していた。ゆえに、もう敵に策はないとみていいだろう。




「さぁて、後は後始末だけかな」




 そう、これで終わりじゃない。まだやるべきことが残っている。




「アリィヤ、行くよ」



「ええ」




 アリィヤはなんだかんだ言って使える。色々不審な点はあるけれど捨てるには少し惜しい。それに僕はこの玩具を気に入った。飽きるまでは大切にしようじゃないか。




「グン・シーさん。今回の戦いで手柄を立てた人の情報を後で僕の所に持って来てもらってもいいですか? 僕はグン・シーさんが貸してくれているお家に居ますから」




「畏まりましちゃぁぁぁぁぁん。さっすが我が君ぃ! しかししかし魔王を倒した勇敢な戦士たちは死んじゃいましてぇ。どうしますぅぅ?」



 どうしますというのは死んだ人間にどうやって褒美を与えるの? ということだろう。



「ああ、素晴らしい働きをした人たちですね。なぁに、心配いりませんよ。彼らは人類の為、そして彼らにとって大切な物を守るために戦ってくれたんです。だから、彼らが得るべきだった褒美は彼らの遺族や恋人に分け与えようと思います。それこそ一生遊んで暮らせるような財産とかでもいいですね」




「さっすが我が君ぃ! オオオレはぁ!? 頑張りましたよぉ! くすりクスリィィィ!!」




 ああ、やはり凄いねグン・シーさんは。




「もちろん用意してありますよ。今回は大盤振る舞いです。どうぞ」





 僕は数十回分の薬をグン・シーさんに投げて渡す。グン・シーさんはそれに飛びついた。まるで生者に群がる亡者のようだ。金貨に飛びつく乞食のようだと言った方がいいかな?




「ひゃひ、ひゃひひひひひ! いっぱぁいいぃぃぃぃぃぃぃ。おくすりたくっさんんんん。ぶひゃきひひゃふひひひゃははははははぁぁぁぁ」




 グン・シーさんはお薬に飛びつくやいなや、恍惚の表情でお薬に頬ずりしている。




「それじゃあ僕とアリィヤは行くので先ほどの件はよろしくお願いしますね。僕たちはグン・シーさんが貸してくれているお家で待っていますから」




「イービル、残念ながら聞こえていないみたいよ」




 アリィヤの言う通り、グン・シーさんはお薬に夢中で僕の話を聞いていないみたいだ。




「まぁいいか。それじゃあ行こうかアリィヤ」




 さぁ、最後の仕上げだ。




「…………」




 そうして去るイービルたちを静かにグン・シーは見つめていた。



 見つめていた。





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