第11話 道具屋さんはおもちゃを手に入れる
目の前で臣下の礼を取り、愛している。何をされても構わないと言う少女。しかし、僕はこの少女と会った事など無い……はずだ。
だからこそ、そこまで愛される理由が僕には分からない。
分からないが、だからと言って死ねとは言わない。
もし仮にだけれど僕が『死ね』と言って少女、アリィヤが死んだとしよう。確かにデメリットはない。僕は何も失っていないのだから。
しかし、メリットもない。アリィヤさんが僕のいう事を真に聞くというのならば……僕が求めていた助手となるのではないだろうか?
僕は勇者である前に、道具屋店主。つまりは商人だ。無料で仕入れることができ、且つ役に立つ道具を捨てるなんていう真似はしたくない。
しかし、それ以上に危険な真似もしたくない。まず、アリィヤさんが僕のいう事をちゃんと聞くのか……試してみるとしようかな。
「あぁ、そこまで想われるなんて光栄ですね。悪い気はしません。ではアリィヤさん。少し頼みがあるのですが、このイヤリングを受け取っては貰えないでしょうか? 僕からのプレゼントです」
僕は懐から在庫がまだまだ残っているイヤリング型の小型爆弾を取り出す。取り出した瞬間、周囲に居る騎士団の人たちの顔が強張った気がしたが、まぁ些細な問題だね。
「まぁ、嬉しい。ええ、もちろん受け取らせていただくわ。身に着けていいのかしら?」
「ええ、どうぞどうぞ」
なにも疑わずに身に着けるアリィヤさん。僕の考えすぎだったか?
「ああ、嬉しいわ。イービルを傍に感じる」
アリィヤさんは僕が渡したイヤリングを愛おしそうに撫でる。
「――あぁ、言い忘れていましたがそれは爆弾です。外したりしないでくださいね? 外した瞬間に爆発します。もちろん、僕を裏切った場合でも爆発します」
これでアリィヤさんの命を握ることができた。少しは安心というものだ。
と言ってもアリィヤさんにとっては絶望かもしれないけどねぇ! ああ、いいねぇ。やっと安心できそうだよ。
「もちろんよ。絶対に外したりしないわ」
「は?」
爆弾だと告げてもアリィヤさんは愛おしそうにイヤリングを撫でる。
なぜそんなことができるんだ? 演技? いや、演技する意味が分からないし、動揺がまったく見られないというのはおかしくないかな?
「イービル」
混乱する僕にアリィヤさんが抱き着いて来た。
まさか……この密着した状態なら爆発させられないと計算したうえでの行動か!?
クソッ、油断した。まさかこんな……こんな……。
「イービル。あなたには私の全部をあげる。体も、意志も、魂だって捧げるわ。だから、あなたの傍に居させて? ――その歪で凶悪で美しい輝きを私に魅せて?」
耳元でそれだけ言うとアリィヤさんはいたずらっ子のような笑みを浮かべながら離れた。
「これでもまだ信じられない? いえ、イービルが信じるだなんて事はないと知ってるの。だけど、私があなたの傍に控える事を許してほしい。その為ならばどんな仕打ちだって受け入れるわ。四肢を切断されても私はあなたを愛する。私にはもうあなたしか必要ないのだから」
もしかして――僕は手に入れたのではないだろうか?
「くっくく。くくくくくくく。ええ、ええ、いいでしょう。信じる事は難しいかもしれませんが、信じる努力はしましょう」
僕は自分だけの玩具を手に入れたのではないだろうか?
「念のために聞いておきますが、仮に僕がこれからアリィヤさんに似合いそうな装飾品をプレゼントするとします。アリィヤさんはそれを受け取り、身に着けてくれますか? もちろん、全て爆弾付きでです」
自分のいう事だけを聞く助手よりも素晴らしい玩具。
「もちろんよ。ただ――信じる努力をしてくれると言うのならばそんなつれない話し方はやめて欲しいわね。それと、私の事はアリィヤと呼び捨てにしてくれると嬉しいわ」
「ああ、そんな事でよろしければ――こほん。そんな事でよければ喜んで、だよ。アリィヤ。まだ準備は出来ていないけど必ずプレゼントするから楽しみにしていてね」
「ええ、楽しみだわ。うふふふふふふふふふふふふふふ」
「くくくくくくくくくくく」
こうしてこの日、僕は僕のいう事だけを聞く玩具を手に入れた。
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