外道鬼畜で最弱な道具屋が勇者になった結果~その勇者、まさに外道~
@smallwolf
第1話 道具屋さん、お姫様と騎士の方々を仲間にする
「イービル・デビル様。あなたに勇者の称号を与えます。魔王の討伐、よろしく頼みますね?」
目の前でこの国の唯一の王族、アレシア・フォン・タクトゥールがそう死刑宣告をこの僕に告げる。
対面したことは今までになかった。姿だけなら遠くから見た事はあるが、やはり美しいと思う。プラチナブロンドの長い髪。スラっとした手足。青い瞳が僕を見つめている――勇者という称号を僕に背負わせようとしている。
勇者。
それは魔王を倒す使命を帯びた者。
しかし、今まで魔王の所まで辿り着いた勇者はいない。魔王に挑むまでもなく、その配下である魔族に殺されてしまっているのだ。
たった今、自分は勇者の称号を貰ったが正直そんなものは要らない。というのも、今までこの称号を贈られた人は既に何人も居るのだ。そしてその人たちは全員単身で魔王を倒しに向かったが、魔王と相対する事すらなく死亡したという事が確認されている。魔王の配下である魔族に殺されているのだ。
なんで勇者が単身で行くのかって? そんなの当然だろう。誰が少人数で魔族に喧嘩を売ったりするだろうか? そんなもの、命を捨てに行くようなものである。だからこそ、勇者に付いて行こうとする人は皆無だ。それは勇者がどれだけ仲間を欲しがっても変わらない。
だからこそ、勇者の称号は誉れ高いものではなく、遠回しな死刑宣告の証という特色が強い。こんな称号をもらって嬉しがる奴なんてこの世に居ないだろう。
そもそも、勇者の本当の役割は魔王を倒すことではない。そんな事は国も期待していない。
国が勇者に期待しているのは、魔王を討伐しに行くというその行動のみなのだ。
要は、民衆に対して「僕たちは魔族の王様を倒すためにちゃんと活動してますよ~」とアピールしたいだけに過ぎない。勇者一人の命で多くの民衆の不満を抑えることができるのならば、安いものだというのが国の考えだ。仮に勇者が魔王の討伐に成功するのならば、それはそれで国にとってはありがたいのでぶっちゃけ損はしないのだ。
つまり――勇者は多くの民衆たちの不満を抑えるための生贄みたいなものだ。
そんな称号が僕に授けられようとしている……ただの道具屋店主であるこの僕に!!
「………………ありがとうございます」
最悪の予想が当たった。いや、こうなるだろうという予感はあったんだ。
朝、いきなり王城から遣わされたという騎士を見た瞬間からこうなる予感はしていた。ただの道具屋である自分は王城と何のかかわりもない。なのにいきなりの呼び出し。この時点で勇者認定される可能性はかなり高かった。もしかしたら商売に関することかもしれないとも思ったが、どうやらそんなに甘くなかったらしい。
「………………」
だが、逆を言えば早い段階から僕はこの状況を予見していたという事だ。
ならば当然、手は打ってある。正直あまりやりたくはなかったがこうなっては仕方ない。
僕はお姫様の前に跪き……彼女が僕に近づいた瞬間を見計らって立ち上がる。そして、
「動かないでください」
「きゃっ」
お姫様の背後へと回りこみ、その腕を抑え込む。
「貴様ぁ!! 姫様になんという無礼な」
お付きの騎士であるヒゲモジャのおっさんが腰から剣を抜こうとする。それだけじゃない。周りはおっさんを除く九人の騎士に囲まれており、彼らも遅れて腰から剣を抜こうと柄に手をかける。
「動かないで頂きたいですね。動けばお姫様の命はありませんよ?」
「ぐっ。ぬぅ」
騎士のおっさんが剣を抜きかけた剣を途中で止める。それを見た他の騎士たちが剣を抜くのをためらう。どうやらこのおっさんがこの騎士たちのリーダーという所らしい。
「ラスケル! この者は凶器の類を持ち込んでいないはずだな!?」
「無論です隊長! 我らが危険物を持った一般人を姫様に会わせるなどあり得ません」
「……勇者殿、姫様を離して頂こう。貴様が仮に姫様に害を加えてもその瞬間に我らの刃が貴様を貫く。一瞬で姫様の命を奪う手段がない以上、その行為は無駄だと知れ」
確かに凶器がない状態でお姫様の命を奪うとなると時間が一、二秒は欲しい。仮にこのままお姫様の首を絞めにかかっても窒息させるまで時間がかかる。後頭部を殴打するにも振りかぶらなければ威力は出ないし、何より確実性がない。そもそも、それだけの時間があればその間に騎士の人たちは僕の体を切り伏せることができるだろう。
しかし、
「まぁまぁ。そう慌てないでください」
そう言って僕は自らの耳に取り付けていたイヤリングを取り外す。そしてそれを……先ほどまでお姫様が座っていた玉座へと軽く放り投げる。
―――――――ドガァッ――――――――
響き渡る爆発音。
先ほどまでお姫様が座っていた玉座は粉々に砕け散った。
「な、なにっ!? 爆弾!?」
「その通りです。あまり範囲は広くはありませんが間近で爆発させれば人間一人を吹き飛ばす程度の威力はあります。これを……」
「な……なにをするのですか?」
怯えた表情を浮かべているお姫様。大丈夫だよ。ちょっと保険が欲しいだけだから。
僕は肩を震わせているお姫様の両耳に自作したイヤリングをつける。先ほど実演したイヤリング型の小型爆弾だ。
「これでよしです。今まですみませんでしたねお姫様」
僕は彼女の拘束を解いてお姫様を先ほどの騎士のおっさんの方へ突き飛ばす。
「あぁっ」
「姫様!」
騎士のおっさんは剣の柄から手を離してお姫様をキャッチ。
「ひ、姫様!! 大丈夫ですか?」
「え、えぇ」
「もちろん余計な傷はつけていませんとも。ああ、ただそのイヤリングは取り外さない方がいいと忠告しておきます。外そうとすればお姫様は――バァーーンです」
この国の唯一の王族であるお姫様。アレシア・フォン・タクトゥール様の命を蔑ろにしてまで僕を始末するという事はないだろう。もちろん、その可能性もゼロではないのでここから逃走する手段なら三ルートだけ確保しているが……
「くっ、何が望みなのです!?」
「……ああ、いいですね。話が早くて助かりますよお姫様。なに、簡単なことです。あなた達は僕を勇者として派遣し『さぁ、一人で頑張れ』というノリで危険な道へと送り出そうとしたのでしょう。そいつは頂けない。危険は共有するべきです。ということで……お姫様、並びに騎士の皆さん。魔王を一緒に倒しに行きませんか? ああっと、別に強制はしません。断ってくれても良いんですよ? ですが、僕の命が絶たれてもお姫様の身に着けているイヤリングは爆破されます。それだけは把握しておいてください。
「ぐっぬぅ」
こうして勇者である僕はお姫様と騎士団の人たちを仲間にした。
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