第13話 道具屋さんはお薬に頼る


 魔族についてグン・シーさんから教えてもらった。もちろん、場所は移した。あんな荒れ果てた都市の真ん中でするような話じゃない。幸いにもグン・シーさんの住居はあまり被害を受けていないそうなので、そちらで話すことになった。


 グン・シーさんから聞いた内容をざっくりまとめるとこんな感じだ。



 ◆姿かたちは人間と大差ない。見ただけでは魔族と分からない個体も存在する。個体によっては翼や角が生えていたりするので、その場合は判別が可能。


 ◆魔法を得意とする個体が多い。近接戦闘にも積極的に魔法を取り入れている。


 ◆会話なども出来ることから、心はあると考えられる。


 ◆食料は人間である。


 ◆魔族にも階級のようなものが存在する。大きく分けて下級魔族、上位魔族の二種類。


 ◆確定情報ではないが、魔族にとっては幼い生命のほうが旨いらしい。そのため、誰が幼い生命を食べるかで度々(たびたび)争いが起こるらしい。大抵の場合、上位魔族へと譲渡される。




「ありがとうございますグン・シーさん。これで色々と作戦が練られそうです。それでですね……色々と相談に乗っていただきたいのですがよろしいでしょうか? 僕は勇者といってもあまり作戦を立てたりするのが得意じゃないんですよねぇ。協力していただけると幸いです」




「畏まりました」




「ああ、それと言うのを忘れていました。グン・シーさん。あなたに僕の軍の指揮を全て任せます。あなたの好きに動かして頂いて結構です」




「……よろしいのですか?」





「よろしいに決まってるじゃないですか。僕はあなたの事を高く評価しているんですよグン・シーさん。あなたの作戦で何度も魔族を返り討ちにしたのでしょう? それは凄い事です。それに僕たちの中ではグン・シーさんが一番魔族について詳しい。そんなあなたにこそ、軍の指揮を任せたいと思うのは当然じゃないですか」



「――分かりました。謹んでお受けします」




「ああ、よかった。引き受けてくれてありがとうございます。それで僕が考えた作戦なんですけどね――」




 僕は、グン・シーさんから魔族の生態について聞いて思いついた作戦を彼に語る。


 僕の作戦を聞いている内にグン・シーさんの顔は青ざめていった。どうしたのかな? 具合でも悪いのかな?


 そうしてすべてを語り終えた時、グン・シーさんは顔を真っ赤にしながら怒鳴った。



「ふざけるな!! あなたの事をゲスだとは思っていたがまさかこれほどとは……」



「ゲスとは酷いですねぇグン・シーさん。僕だってね? 苦しいんですよ。でも仕方ないじゃありませんか。この方法しか良い方法は思いつかなかったんですから。こちらの被害は軽微で魔族側の被害は甚大となるこの作戦。成功する確率も低くはないでしょうしリスクだってたかがしれている。そうは思いませんか?」




「確かにあなたの作戦は理には適っている。私の見立てでは八割以上の確率で成功するだろう。だがしかしっ! それだけではないか!! 人道に反している! 決して許される行為ではない!!」




「人道に反している? もちろん承知していますよ。ですがグン・シーさん。これ以上に被害を抑えることができ、魔族側へとダメージを与えうる作戦が他にあるのですか? もしもっと良い作戦があるのならばどうぞ僕の立てた作戦なんて無視してください。ですが他に良い作戦もなく、ただ否定しているだけというなら……そちらの方が人道とやらに反しているのではないですか?」




「なに!?」




「いえね? 仮に人道に反しておらず、僕の立てた作戦よりも効果が薄い作戦を実行したとしましょう。そうなればもちろんこちらの被害は大きなものとなり、魔族側へのダメージは軽微なものとなってしまうでしょう。つまりですよ? 僕の立てた作戦を実行するよりも人間が多く死んでしまうっていうことですよぉ!! そして生き残った魔族が多くなれば多くなるほど人間側への被害が多くなってしまうじゃないですかぁ! ああ、なんて酷いんだグン・シーさんは! 最適な手段が他にあるっていうのに自分に合わないからという理由で他の手段を選ぶなんて……それでも人の上に立つ人間ですか?」




「合う合わないの話をしているのではない!! これ以上は話し合っても無駄のようだっ! 出て行ってくれ! ワタシを殺すというのならばそうすればいい。あなたのやり方には絶対に賛同できない。復讐を果たすためだとしてもそんな非人道的な手段が許される訳がないんだっ!!」




「ふぅ、仕方ありませんね」




 うん、仕方ない。


 これだけ言っても理解してもらえないなら仕方ない。


 ああ、仕方ないなぁ。






「アリィヤ。グン・シーさんを拘束して」




「わかったわ」




 僕の言葉に従って今まで隠れていたアリィヤがグン・シーさんを拘束する。




「なっ!? なんのつもりだ!?」




 拘束されたグン・シーさんが声を荒げる。突然現れたアリィヤよりもこれから何をされようとしているのかがとっても気になるみたいだねぇ。




「いえいえ、大したことじゃありませんよ。ただ、僕はもっともっとグン・シーさんと【お話】したいだけですよ。ええ、僕の考えに賛同してくれるまでねぇ。あなたを殺す? あなたを手放す? 冗談じゃありません。僕はあなたを評価しているんです。あなたには役に立ってもらわなければなりません。僕の役に立って役に立って役に立って役に立って役に立って……魔王を倒した後にならば死んでくださって結構です」




「ふんっ! それが貴様の本性か。悪魔め。いいだろう。拷問でもなんでも好きにするがいい。だが、ワタシの意思が貴様程度のやつに変えられると思うなっ!!」




「拷問? いえいえいえいえいえ、とんでもない。言ったでしょう? 【お話】をするだけだと。痛い事なんて何もしませんよ。むしろとっても気持ちいいものだと聞いていますから楽しんでいってください」




 そう言って僕は懐から注射器を取り出した。ああ、希少な物だけど仕方ないなぁ。後で誰かに在庫分を取りに行かせないといけないじゃないか。あぁ、その分だけ兵が減ってしまうと考えるとやっぱりもったいないなぁ。でもなぁ、ここでグン・シーさんが離れていく方がもっともったいないしなぁ。仕方ないなぁ。




「なんだそれは?」




「とーーーーっても気持ちよくなるお薬ですよ? 使われるだけであら不思議。全能感に酔いしれてなんでもできるんじゃないかってくらい元気になる薬です」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る