8.久々の登校と殿下
わたくしが逆行転生してから初めて学園に通う日がやってきた。なぜだか朝から公爵邸の人間がものすごくバタバタしていたが、どうしてだろうか。
リリアに言われた通り、今日の髪は下ろした。シルバーのウェーブがかった髪はメイドたちの手によって艶々に磨かれ、花を模した髪飾りはキラキラと輝いている。「お嬢様には花が似合う!」と、リリアチョイスだ。
「そろそろ時間ね。馬車の用意はできているの?」
「もちろんですお嬢様」
リリアは本当に優秀だ。まあ公爵邸で働くには優秀であることは大前提なのだが、彼女はよく気がきくし作業が丁寧だ。前世でも唯一わたくしに進んで話しかけてくれた。
「流石リリアね」
わたくしがそう言うとリリアはパッと笑い、「さあ行きましょう!」と言った。
そうしてわたくしとリリアは馬車に乗り、学園へと向かった。
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馬車の窓から湖が見える。この湖はわたくしにとって思い入れがある場所。
────前世でのリリアを看取った場所。
普段は通学路に口を出しなんてしないが、何故かどうしても見たくなった。
相変わらず湖面が朝日でキラキラと輝く美しい湖だ。心が洗われるような、ずっと見たくなるような魅力がある。
美しい?
わたくしは自分に問いかける。わたくしは今確かに、湖を見て美しいと思った。今までそんなこと感じたことがなかった。
どうしてか分からない。分からないが、前世のわたくしと今世のわたくしは同じクローディアなのに何かが違う。というか変化している。以前は何事にも興味を持てなかった。全てはモノクロの景色で色なんてなく、淡々と映像を見ているようだった。
でも今は。景色にほんの少しだが色がついて見える。
「お嬢様、もうすぐ学園ですよ!」
窓の外を見る。
立派なレンガ造りの大きな建物が見える。かつて3年間通った建物が。
ふと前方の門に目を移せば、この数日見慣れた顔があった。
「…殿下?」
わたくしは馬車をおりた。すると、わたくしとリリアに気づいた殿下とアラン様が此方に歩いてきた。どうしてだろう。
―――前世ではこんなこと一度もなかったのに。
「おはようございます殿下。本日はどうして門に?どなたかを待っていらっしゃるのですか?」
「おはようクローディア。特に用はない。君を迎えに来たんだ。久々の登校で緊張しているかと思って」
緊張なんてしていないが、殿下には殿下のお考えがあるのでしょう。ですが婚約破棄をしたいのに朝からエスコートなんて。どうやら外堀から埋める作戦のようだ。
…殿下はどうしても王家と公爵家との繋がりを手放す訳にはいかないのね。
わたくしは断ろうと迷ったが、学園では身分は関係ないとは言え殿下は王族。貴族の本能で断れなかった。パッと手を取られ道をゆく。
「…クローディア、今日はいつもと雰囲気が違うね」
「分かりますか?」
「あぁ。君のことならどんな事でもわかる」
「…あら、嬉しいですわ」
分かりきったお世辞なんて何ひとつ嬉しくなんてない。それでも他人が今のわたくし達を見れば、皆は仲睦まじく思うだろう。
「ラベンダー…」
ふと、殿下がそう呟いた。
「素敵な香りでしょう?」
「あ、あぁ…」
わたくしがそう返すと殿下は何故か顔を赤くしながら答えた。
熱でもお有りなのかしら。
「殿下、お顔が赤いですが、体調が悪いのでしたら医務室へ行かれることをおすすめ致します」
「大丈夫だ。気にするな。体調が悪い訳では無い」
でも、耳まで真っ赤ですわ。やはり体調が悪いのでは…
「失礼します」
そう言うとわたくしは殿下の額に手を当てた。
「っ…!?」
あら、やはり熱いですわ。というかまた熱くなりました。
「殿下、やはり熱が…」
そう言いかけた瞬間手をパッと離され、殿下が後ずさった。
「ク、クローディア…その…突然触るのは…」
そこでハッとする。
わたくしなんてはしたない事をっ!
「申し訳ありません…」
「いや、謝って欲しい訳では無いんだ!」
なんだか今日の殿下は変だ。
どうこうしているうちに始業の予鈴のベルが鳴る。
「殿下、授業が始まりますわ。そろそろ教室に移動をしないと」
殿下とわたくしの教室は別である。この学園は階級、実力関係なくクラス分けはランダムで行われる。
「そ、そうだな!」
そう言うと殿下は真っ赤な顔のまま早足で教室に向かって行った。
そんな様子のわたくし達を、妬みを多く含んだ視線で見ている令嬢が数人いた。
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