3.状況の整理が最優先です
殿下がお帰りになってから1時間。わたくしはこの状況を整理するために机に向かっていた。
まずおかしな点をまとめましょう。
一、リリアが生きていること
二、殿下とわたくしが婚約関係にあるということ
三、今が(殿下の話が本当ならば)恐らく学園の第2学年の始業式の時期であるということ
────どう考えてもおかしいわ
リリアはあの時たしかに死んでいた。あの傷は致命傷だった。どんな奇跡が起こったとしてもあの状態のリリアが無傷の状態まで回復することなんてまず無い。
殿下の婚約者であることは、殿下の反応からして明らかだった。先程の殿下は嘘をついていなかった。それどころかわたくしが説明したことに対して困惑の色を露にしていた。
そしてこれが一番の問題。
今が学園の第2学年始業式の時期であることだ。殿下は確かにわたくしが始業式で倒れたと仰った。アイシャ様が学園に転入してきたのは第三学年の始業式。先程の部屋の教科書を確認したところ、第二学年までの教科書しか無かったことから今は第二学年始業式の時期である可能性は否定出来ない。
ひとつの可能性が頭に浮かぶ。
そんな事本当にあるのか…?
わたくしは、時を遡った…?いいえ、確かにわたくしはあの時に死んだ。ということは
「逆行転生…?」
逆行転生。
庶民の感覚を感じなさい、と昔庶民向けの本を読んだ時にそんな単語があった。死んだ、と思ったら昔の自分に生まれ変わっていた。という話だ。信じ難いが今自分に起きていることを整理すれば共通点が多い。
「リリア」
部屋の外に待機していたリリアを呼ぶ。
「はい、お嬢様。どうなさいましたか?」
「リリア、変なことを聞くかもなのだけれど貴方、今いくつ?」
「私ですか?今年で18ですよ?」
―――!!
やはり。これで確信した。リリアが殺されたのは彼女が20歳の時。
受け入れたくない。非常に受け入れたくないが、どうやらわたくしは本当にしてしまったようだ。逆行転生とやらを。
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さて、まず重要なのがわたくしが逆行転生したという事実を受け、何をするかだ。突然「わたくしは前世で殺されました!しかし生まれ変わってまた人生をやり直しているのです」なんて言っても誰が信じるだろうか。人形令嬢遂に狂った、なんて新聞の見出しになることは明らかだ。
かと言って「何が出来る?」と聞かれればできることなんてない。わたくし個人としては前回の人生で問題点なんて思いつかないのだ。わたくしは普通に、いや、謙遜なしでかなり真面目に気高く振舞ってきたはずだ。そこに問題なんてなかった。
かつて読んだ小説では転生した主人公は前世でヒロインを虐めていたとか、性格が悪かった、太っていたなど、改善点が非常に多かった。
だがわたくしには何も無い。結論。
────何も出来ない。
それならばいっその事、アイシャ様に殺されるまでの二年間、適度に自由に過ごし、未練なんてないほど充実した人生を送り、そして死のう。さすがに今回は斬首は遠慮したい。所謂「安楽死」とやらで死のう。
そこで問題点がひとつ。
わたくしは自由に生きたい。しかしそれを大いに邪魔する存在、というか立場がある。
―――殿下の「婚約者」
この肩書きがある限りわたくしには基本的に自由はない。前世では特に何も考えず与えられた作業をこなしていたが、その結果得られたものは何一つなかった上に命を取られた。ハイリスクローリターンだ。こんなことをしていてはわたくしの残された二年間が全て無駄になってしまう。それは嫌だ。
そしてわたくしにはこの二年間で知りたいことがもうひとつ。
それはわたくしの「過去」
前世でリリアが最期に少し語ってくれたがそれ以外は今でも何も思い出せない。
やはりどう考えても六歳という年齢で何ひとつとして記憶が無いのはおかしい。きっとなにかあったのだ。わたくしが知りえない何かが。
そのためにはやはり殿下との婚約破棄が重要だ。わたくしが自由に動くために。
「リリア、紙とペンを」
思い立ったが吉日だ。殿下に婚約破棄を申し出る手紙を書こう。普通はお父様に相談すべき案件だか、基本公爵邸に帰ってこないお父様に相談なんてする時間はない。殿下に送る手紙と同時にお父様にも手紙を書こう。それでいいわ。
そう決めて手紙を書き、殿下とお父様に送った。
しかし…
帰ってきた返事はわたくしの望むものとはかけ離れていた。
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