プロローグ2
馬車にガタガタと揺られ、公爵邸へ帰路を進む。道の脇には春らしく可愛らしい花々が咲き乱れている。
「お嬢様、とても綺麗な花々ですね!」
明るく私に話しかけるのはメイドのリリアだ。人形、可愛げがないなどと散々な言われようのわたくしに何故かいつも話しかけてくる。
「ええ、そうね」
とりあえずそれっぽい返答をすると、リリアは
「御者さーん!ちょっと馬車止めて貰えますか?」
そういうと軽やかに馬車から降り、1分ほどすると戻ってきた。その手には小さな花束が握られている。
「お嬢様ー!みてください!」
そして1本の花を私の髪に挿した。
「やはりお嬢様はお花が似合いますね!本当に女神様みたい!私のお嬢様は天使だわっ!」
手元に視線を移す。赤、ピンク、オレンジ、黄。様々な色の花がある。そう、様々な色の花があるのだ。私の手の中には色の着いた花というものがある。私はそれしか感じない。
…これをどう見ると綺麗とおもえるのかしら。
―――綺麗とはなんだろう―――
「…ぉ…さま、お嬢様」
ふと、リリアの方に顔を向ける。どうやら「綺麗」について考えることに集中しすぎていたようだ。
「お嬢様大丈夫ですか?やはり婚約破棄はされない方がよかったのでは…」
考えてすぎていた事を「婚約破棄がショックで落ち込んでいた」と取ったのかリリアはそう尋ねた。
「いいえ、殿下はわたくしとの婚約を破棄すると仰ったわ。わたくしは王国の貴族であり一令嬢。婚約破棄する、しないの選択権は元から無いの。殿下が破棄する、と仰ったのだから婚約は破棄されたのよ」
「お嬢様はそれでいいのですか!?奥方様が亡くなれてからお嬢様は変わられました。…いい意味でも、悪い意味でも。公爵様があんなに拒んでいた殿下との婚約を受け入れ、妃教育にも のめり込んで…。お嬢様は自分を押し殺して生きてこられました。もっと…わがままを言ってもいいのです!」
リリアは…励ましてくれているのだろうか。それとも慰めているのかしら。でもどうして怒っているのでしょう…わからない。
「リリア、慰めてくれてありがとう。でもいいのよ。命令だもの」
「お嬢様!わたしはっ「公爵邸に到着致しました」
御者の声が聞こえる。もう公爵邸に着いたようだ。
「リリア、夕食の用意をしてくれるかしら」
「…はい。かしこまりました」
リリアの呟きは夕日が沈むと同時に消えていった。
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公爵邸に着くと、お父様が私を待っていた。本邸の方に帰ってこられるのは珍しい。いつもは仕事やなんやと別邸や王宮に寝泊まりされているのに。
「ただいま帰りました、お父様」
「おかえりクローディア。…殿下との婚約を破棄されたようだな。」
貴族間の情報の伝わり方は尋常ではないですね。わたくしは破棄されてそのまますぐに帰ってきたというのに。
「ええ、殿下が破棄すると仰ったので」
「…そうか」
お父様はどちらかと言うと無口な方だ。昔はよく喋ってくれていたのに。
…昔?
自分が思った言葉に違和感を感じる。昔っていつ?確か…あれ?思い出せない。まるで記憶が所々すっぽりと無くなっているようだ。考えれば考えるほど、掴めそうで掴めないもどかしさにイライラする。そういえばさっきリリアが昔がどうのこうのと言っていた。リリアなら何か知っているかもしれない。
私の昔を。
「…で、明日王宮に正式に書類にサインしに行く。わかったな」
「はい」
考えていたせいで話はほとんど聞いていなかったが婚約破棄の書類にサインしにいくようだ。
今日は何か体がだるい。きっと疲れたのだ。いつもの行動パターンと違ったから。
明日は朝一番から王宮、早く寝ないといけない。そう思いわたくしは眠りの中に落ちていった。
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