12.放課後の話し合い
午後も授業午前とさほど変わりなく、うんざりした気分のまま迎えた放課後。ジルベルト殿下との話し合いの時間。この場でどれくらいで婚約破棄について話せるかが未来を分ける。
「…慎重にやらないと」
コツコツとヒールの音を響かせながら殿下が待つテラスまで歩く。
今回の話し合いは殿下の方から誘ってきた。殿下の方がわたくしに何らかの用があるのだろう。内容は分からないが警戒しておく必要がある。
そんなことを考えながら歩みを進めると、いつの間にかテラスに着いていた。殿下はもう既にいらっしゃった。
「ごきげんよう、殿下。お誘いありがとうございます」
「急だったのに来てくれてありがとう、クローディア」
社交辞令はうんざりだ。さっさと本題に入らないと。
「どう言ったご要件でしょうか」
単刀直入に問う。
「まぁそんなに焦らずに。まずはゆっくり紅茶でも飲もう。ほら」
ふと殿下の手元を見ると、そこには王族しか飲めないという紅茶の茶葉があった。
クローディアの喉がゴクリとなる。
クローディアは何事にも基本的に興味をもたないが、例外というものはある。誰にも知られていないが、クローディアは紅茶に対するこだわりがすごく、公爵邸には様々な土地から集めた非常にたくさんの種類の紅茶がある。
…1杯だけならいいか。
クローディアは無言でジルベルトと対になる席に座る。
そんなクローディアにジルベルトはクスッと聞こえないような小さな声で笑った。
アランの言った通りだ!クローディアは紅茶が好きなのだな。「王族だけの紅茶を出せば話は聞いてくれると思いますよ」というアランの言葉は本当だった。
おっと、本題を忘れていた。
「それでクローディア、少し気になることがあってね」
クローディアはぴくりと身体を揺らす。
「昼は何も言わなかったが、やはり何か悩みでもあるのではないか?私でよければ相談に乗れるぞ」
あれ?想像していた内容と違うわ。もっと重い内容なのだろうと思っていたのだけれど…。
でもこれで分かったわ。殿下の目的はわたくしの悩みを聞くこと。確かに学校は少し過ごし辛くはあるが別に大した問題ではない。話の線を逸らせばわたくしの婚約破棄についての話を進められる。
「まぁ殿下、気にかけて下さりありがとうございます。ですが昼間も言った通り悩みはありませんわ。初日で少し緊張してしまっただけです」
それを聞いた殿下は少し眉をひそめたが、「そうか、何かあったら何時でも言ってくれ」とだけ言った。
今がチャンスだわ!
「ところで殿下、わたくし、この間の話の続きをしても宜しいでしょうか」
殿下がなにか言おうとするがそれを遮り言う。
「わたくしはやはりこの婚約を破棄して頂きたいと思っております。ノブレス・オブリージュだと言うのは分かりますが、それでもわたくしには『夢』というものがあります」
「夢?」
「はい。詳しくはお伝え出来ないのですが、わたくしは自由に生きたいのです。何事にも縛られずに。自分らしさ、というものを知りたいのです」
ジルベルトは言葉が詰まる。クローディアの抱える悩みが何かは分からない。学園のことか、はたまたそれ以外の事か。
だが。彼女は大きな意志を持って今発言している。今まで人に言われるまま、『貴族令嬢』としてかせられてきたものだけを身につけ生きていたクローディアが、意志を持っているのだ。
「クローディア、君の考えは分かった。だがこればかりは私の独断では決められないのだ。私個人としても君との婚約を破棄したくはない。すまないが時間をくれないだろうか」
殿下は今『分かった』とおっしゃったわ。ひとまずは一歩前進ね。急ぐ必要があるとはいえ、まだ二年の猶予がある。これから進めていけばいい。
「はい」
ふと外を見れば夕日が沈んでいるのが見える。もうそんな時間か。特に話はしていないように感じたが、時間の流れとは早いものだ。
ノックの音が聞こえ、リリアが顔を出す。
「お嬢様、お帰りの時間です」
「では殿下、本日はこれで失礼します」
すっと立ち上がり礼をした後そのまま歩いて馬車へ向かう。
夕日が段々と地平線に吸い込まれていく。それをぼんやりと眺めながら帰路に着いた。
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