13.友人と笑顔


殿下との話し合いから何日か経ち、学園にも普通に通っていたある日、廊下を歩いているわたくしは誰かから声をかけられた。



「あの…」



「…?貴女はたしか…」



アヤリナ・スピネル伯爵令嬢だ。

身長は低めで背中ほどの薄茶色の髪に淡い翠色の瞳をしている。大人しめの印象の令嬢だ。なんの用だろう。



「アヤリナ様、どうかなさいましたか?」



「わたしの名前を…!ありがとうございます!」



「は、はぁ…」



この子大丈夫かしら。少々変わっているようだ。



「えっと…あの…」



「落ち着いてください。わたくしは逃げませんから」



「はい!えっと、クローディア様。その……本日の髪型、とても素敵だと思います!!」



アヤリナは顔を真っ赤にして照れながらそう言う。


!?

髪型…褒めてくれたわ!リリアの言った通りね!



「お褒めいただきありがとうございます。本日の髪はわたくしの大切なメイドが結ってくれたのです。とても嬉しいですわ」



「とても器用で素敵なセンスを持ったメイドなのですね」



なんだかとても誇らしい気分になる。胸が高鳴り頬が自然とほころんだ。


わたくしはきっと、『嬉しい』のね。リリアのことを認めて、褒めてくれる方がいることに。



「はい!リリアは…わたくしにとってとても大切なメイドです」



そう言った瞬間、最後にいつ動いたか分からないほど動いていなかった表情筋が大きく動いた。にこっと、にこっと動いたのだ。



わたくし、今笑った?笑ったかしら!



アヤリナ様は私の顔をぽっと眺めている。



「アヤリナ様、わたくしは今笑っていましたか?」



どうしても気になって少し食い気味に聞く。もし私が笑っていたのなら、前世のように、いや、今世もだが『人形』と呼ばれなくなるかもしれない。自由への第一歩を踏み出せたかもしれない。



じっとアヤリナを見つめる。



そんなわたくしにハッとして、アヤリナは答えた。



「はい…とても、とても素敵に笑っておられました」



やった!やったわ!わたくしは遂に笑えたのね!

「笑う」なんて行為、ほかの人たちにとってはできて当たり前の事だが、クローディアにとっては違う。笑おうと思っても何に対して笑えばいいのか、何処が面白かったのか、笑う、とは何なのか。分からなかったクローディアにとっては、今回少しでも笑えたことは大きな自身であり喜びであった。



「私、クローディア様のことを誤解していました」



「誤解?」



「はい。クローディア様は他の人との交流をあまり好まれない方だと思っていました。話しかけようとしても拒絶されているように感じてしまって…」



やはり。これもリリアの言った通りだ。近寄りずらいのはわざとでは無いが、そういう雰囲気を出しているのは改善点だ。



フッ。

もうわたくしは無敵ですわ!笑えたのよ。わたくしは笑えたのよ!もうこれで友人が居ない寂しい公爵令嬢なんて言われないはずよ!



「ごめんなさいアヤリナ様。意識はしていなかったのですが、やはりそう見えてしまったのですね」



「いえ!今のクローディア様は、なんというか…柔らかくなられました。わたくしは今のクローディア様の方から好きです!」



ドキッとする。

好き、と言われたのは初めてだ。



「それで…その…」



「はい、アヤリナ様」



自信を持ったクローディアはキラキラしたオーラを出しながら返事をする。



「今度、昼食を御一緒させて頂けませんか!?」



来たわ!遂にわたくしに友人と言える方ができたのではないか、と胸が高鳴る。



「是非、御一緒させてください。わたくしアヤリナ様とお話してみたいです」



わたくしの返答にアヤリナ様は花を咲かせたような笑顔を浮かべ、「ありがとうございます!」といった。



この笑顔は私の笑顔のお手本ね。素晴らしい笑顔だわ。



そんなことを考えながら初めてできた友人にこれからやりたいことを想像しながら胸をふくらませるクローディアであった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る