14.序の口

初めての友人ができてから数日、相も変わらず受ける様々な嫌がらせを適当に受け流し、時に反撃をしていたある日。なんだかクラスの皆の様子がいつもと違う。



ヒソヒソと陰口を言っていることは変わらないのだが、わたくしに向ける視線が妙に鋭い。ただいつものように公爵令嬢を身分の差がない学園でストレスの捌け口として見ているニヤニヤした視線では無いのだ。何らかの私怨が見て取れる。



ふと席に着くと、置いていたはずの教科書が数冊ない。忘れたかしら、と一瞬考えたが、前日リリアと確認はしているし、今朝は確かにあった。



教科書がないことに気づいた私の様子を見て何人かの令嬢がくすくすと笑う。



―――なるほど。



今までのは嫌がらせは序の口だったという事ね。

遂に言葉だけでなく行動に移してきたわけだ。それにしても古典的な手を使うものだ。



「クローディア様、どうかなさいました?あら大変!教科書をお忘れになったのですね。それでは授業が受けられませんわ。本日はお帰りになってはいかがでしょう」



わざとらしく教科書がないことを指摘する令嬢。暗に『目障りだから帰れ』と言っている。



あまりにも低レベルな令嬢達にため息が出そうだ。



「ご心配頂きありがとうございます。ですが大丈夫ですわ」



令嬢達は眉をひそめた。

ごめんなさい、自慢では無いのですがわたくしは少々記憶力に自信がありまして。




クローディアは数センチはある教科書の内容を全て暗記しているのだ。




これは嘘ではない。何度も言うがクローディアは『天才』である。前世で教科書の復習は全て終えたため暇だから文章も全て覚えておいたのだ。



「無意味に授業を休むことはあまりよろしいことでは無いと思いますし、教科書でしたら問題ありませんので」



わたくしははっきりと言った。教科書丸暗記については言っても妬みの種になるだけだろうから敢えて言わない。



だがそれをただの強がりだと思った令嬢達はクスリと笑い、席に戻って行った。



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授業が始まってすぐ、令嬢達は手を挙げ教師に言った。



「先生、クローディア様は教科書を忘れてしまったようなのですが、私が見せてあげると言っても大丈夫とおっしゃるのです」



「あら本当に大丈夫なのですか?」



いやいや、隠したのは貴女方でしょう。良くもまぁ他人事のように笑えますわね。その一見すごく心配しているのに拒絶されて傷ついたような演技は見事ですわ。令嬢を辞めて役者にでもなられたらいかがでしょう。



「クローディアさん、自信過剰なのはいいのですが好意を無下にするのはあまり褒められたものではありませんよ」




教師もまたチャンスと責めてくる。




「わたくしが問題ないのは教科書の内容を全て記憶しているからです。それに、他の方にも迷惑をかけたくは無いので。良ければここで暗唱しましょうか?」



嫌がらせを受けたからと言って受け続けることは無い。嫌なら自分の実力で跳ね返さないと。



私がはっきり言うと、令嬢達も教師も眉間に皺を寄せ、ブツブツと何かを言い出した。


「何、賢い自慢ですか?ウザイですわ」


「ちょっと覚えたからといって調子に乗っているのでなくて?」


「迷惑をかけたくないって、ご自分の立場をわかっていらっしゃるわね」



わざとわたくしに聞こえるような声で話す。わたくしが人形と呼ばれるほど感情がないからこそ気にせず受け流せるが、並の人間ならかなりのダメージものだ。



「教科書の暗唱なんて時間の無駄ですので結構です。皆さん次のページを開いて…」



嫌がらせが上手くいかなかったことが気に食わないのか手荒く教本をめくると教師は授業を再開した。





クローディアの教科書は遠く離れた教室のゴミ箱に切り刻んで捨ててあった。














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