15.教科書
他人の教科書を切り刻んで捨てるなんて。箱入り令嬢達がよくこのようなことを思いつき実行したものね。普段被っている猫はどこに行ったのでしょうか。
「教科書はまた買わないといけないわね」
教科書を購入することは金銭的には全く問題は無いのだが、何度も繰り返し捨てられては困る。令息は令嬢の事情に簡単に首を突っ込めないしほとんどの令嬢達は結託してわたくしを蹴落とそうとしている。覚えているとはいえそう何度も教科書を忘れた扱いされると体裁も悪い。
にしても団体での嫌がらせとはタチが悪わね。
複数で1人をいじめてその結果ターゲットがどうなろうと、それこそ死んだとしても、個人としての責任なんてほとんど感じないだろう。それどころかターゲットとなった人物が勝手に死んだ、自分は何もしていない、と言い張るのはよくある話だ。
「いくらこの学園に身分制度がないとしても、人間として最低限の常識を覚えて頂かないとこの国の未来が不安ですわ。ましてやアイシャ様のような方が王妃になるなんて…」
自分は死んだため前世でその後どうなったのかなんて知らないが、心云々以前にどうしてアイシャ様を殿下が選んだのか未だに分からない。きっとろくな国にならなかっただろうに。
ろくに学問を学ぶことなく、常識が大きく欠如している上にあんなふざけた喋り方をする王妃に一体誰がついて行きたいと思うだろうか。少なくともわたくしは嫌だわ。
まぁ、自分は2年で死ぬのだからそんなことは関係ないか。
もし、もし死なずに2年後、その先も生きられるのなら、こんな国からは出ていきましょう。そうね、それもいいわ。外の世界を見てみたい。
だが国を出るにしてもまだ成人していないわたくしは保護者がいないと国からは出られない。どんなことがあろうと学園を卒業するまで嫌がらせに耐えるしかないのだ。
わたくしが今耐えれば、それで何とかなるのよ。
これからの自由のためなら大したことないわ。
そうね、今度気晴らしに外に行きたいわ。今まで勉強勉強でずっと公爵邸に籠り切りだったから、街にでも行きたい。平民たちの暮らしを見てみたい。買い物だってしてみたい。
ひとりで行くのも寂しいからリリアと行きたいわ。今までのお礼もしたい。
今まで気にしたこともなかったけど、リリアには本当に感謝をしなければいけないと思う。物心着いた頃から、気づけばリリアはそばにいた。
よし、リリアと行きましょう。
でもふたりでは少し寂しいわね。
……誘ってみる?
アヤリナ様を、お誘いしてみるのはどうだろうか。
リリアはわたくしのメイドをしてはいるが、辺境伯の三女だ。貴族なのだからアヤリナ様も嫌がりはしないはず。
いやでも!断られてしまうかも…お忙しいでしょうし…
いいえ。公爵令嬢たるもの、挑戦せずして引くなんて恥だわ!
お誘いしましょう。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「アヤリナ様、今よろしいでしょうか」
廊下を進み、アヤリナ様がいらっしゃる教室に向かう。
「はい!どうなさいましたか?」
「その…アヤリナ様、わたくしと…」
あと一息よ。
「わたくしと街に行きませんか?」
よし、言えたわ。心臓の辺りがドクドクしているわ。初めて誰かを誘うのだから緊張しているのね。新鮮な感覚だわ。
「クローディア様」
「はい」
「お誘いありがとうございます!えっと…私も実はクローディア様とお出かけしてみたいなって、ずっと思ってたんですけど失礼かなって思ってしまって…」
「失礼なんかじゃないありませんわ。いつでもお誘いください。わたくしとアヤリナ様は…その、友人、ですから」
「!!」
「クローディア様と私が…友人?友人!?ああ!今日はなんていい日なの!」
アヤリナ様は何かブツブツと言い出し、頬をぽっと染めると半ば叫ぶかのようにそう言った。
「ええクローディア様!是非行きましょう!私も街に行きたいと思っていたところです!」
「わたくしのメイドも一緒に行こうと思うのですがよろしいですか?」
「クローディア様の大切な方なら是非」
なんだか胸が踊るわ。ワクワクしているのかもしれない。待ちきれないわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます