34.暴君登場

何もないことを願っていたが、やはり現実は思い通りにいかないものだ。

クローディアは今丁度目の前にいる人物に、思わずため息が出そうになった。



「ご機嫌よう。わたくしのことはもちろんご存知よね?」



向けられる視線に込められているのは、興味なのか敵意なのかはたまたそれ以外の何かなのか。

とにかく急に現れて急に話しかけて来たこの方は、紹介するまでもないだろう。



「ご機嫌よう、リーラ・エル・セレスタイト王女殿下。わたくしは「知っているわ、クローディア」



……自己紹介をする間も無くわたくしの言葉を遮り名前を呼ばれる。



「ふーん、あなたがサードニクスの筆頭公爵令嬢なのね。…なんだか噂とは違う様だけど」



噂が何かわからないが、この見定める様な視線は居心地が悪い。



リーラ・エル・セレスタイト王女殿下は、濃いめのクリーム色の髪にラディッシュブラウンのきつめの印象の瞳。美しくそれでいて可憐な顔立ちで、一見暴君と言われても信じがたい見た目だ。彼女の周りにはセレスタイトの騎士だろうか。三人の青年が一歩下がった場所で待機している。



ーーー噂通り、なのかしら。



所作は美しく整っているが、その言動はというとあまり褒められたものではなかった。



「わたくしに何か御用でしょうか」



高圧的な態度に屈しない様に少し強めの口調で聞く。

まさかこんな唐突に声をかけておいて用がない訳ではないだろう。



「用?特にないけど。あなたがいたから声をかけた、それだけのことでしょ?」



……用はなかった様だ。



「リーラ王女殿下、お言葉ですがわたくしは暇ではありません。声をかけていただくことは光栄ですが、次は何か用があるときにしてください」



クローディアは丁度教室移動の途中だった。つまりは休み時間中であり、休み時間中ということはもうすぐ次の授業があるということで。



急いでいるときに突然声をかけられ、礼儀をほとんど弁えずにしかも用がなかったと言われれば不機嫌にもなるだろう。

相手は王女殿下だが、この学園にいる限り一生徒にすぎない。今回は同級生として注意をしただけである。



「………」



わたくしがそう言えば何故か急に黙り込んで、機嫌が悪くなったのか瞬時に無表情になると何も言わずに踵をかえしてその場を去って行った。



*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー




「もうっ!どうしてよっ!」



学園の隅で一人の少女が声を荒らげた。



「殿下、落ち着いてください」



隣に居た騎士のひとりが宥めようとする。



「黙ってくれる?あなたに何がわかるのよ」



リーラはギリッと爪を噛んだ。



リーラに声をかけたのは彼女の護衛騎士兼セレスタイトからの使節団の一人、エイダンだ。いかにも不機嫌です、というオーラを醸し出しているリーラの様子にふぅ、とため息をつく。




イライラした様子でカツカツとヒールを慣らしながら歩いていくリーラの背中を追いながら、自分の主人の不器用さを再度認識する。



「黙りませんよ。小さい頃からの付き合いじゃないですか」



リーラとエイダンは幼馴染で、幼い頃から一緒に育って来た。



「そういうの不愉快なのよ。わたくしが邪魔だって言ってるの。さっさとあっちに行って。一人にして」



「そう言われましても…護衛、ですから。離れるわけにはいかないことくらいお分かりでしょう」



「ならせめて黙ってて。耳障り」



「はいはい、わかりましたよ」



ひらひらと手を振りながら返事をする。




次はーーー

やっぱりーーー

いえ、もっとーーー

こうした方がいいかしらーーー



何かぶつぶつと一人で悩む様に呟きながら進む主人且幼馴染の姿に、エイダンはやれやれといった表情で少し後ろをついて行った。


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