21.勉強会
まだ顔の傷も治りきっていないクローディアは、勉強会で王宮に行くことによりこの顔を殿下、場合によっては他の王家の方々に見せることを躊躇っていた。
失礼に当たらないかしら…。『まだ』一応殿下の婚約者なのに令嬢として1番怪我をしては行けない場所に怪我をしてしまったわ。これではもう殿下の婚約者としている資格はないじゃない。
ん?
あれ?殿下の婚約者の資格がない?それってつまり今わたくしが願っていることなのでは?
そんなことを考え、無理やりテンションをあげようとする。
しかし賢いクローディアは瞬時に悟る。
―――無理だわ。
既に数回、クローディアは婚約破棄を申し出る機会を伺い、何度も実行に移したが1度たりとも上手くいくどころかまともに話を聞いてもらったことすらない気がする。
今回もきっと同じ結果になるだろう。
最近ずっと考える。自分の人生、自由だとか幸せだとか願っているが、自分が何をしようが将来自分が未来を変えられる自信が微塵もわかないのだ。
何をしても変わらなくて、それでも幸せになりたくて、矛盾を抱えて2年を生きて…。
だめだ。もう何をしても無駄に感じる。
生来真面目に真面目にと言われ続けて育ったクローディアは、どんなに自由を求めて行動しようとしても、その思考と行動には嫌でも「ノブレス・オブリージュ」がついてまわる。刷り込まれた思考回路は簡単には消せない。
自分を変えようなんて豪語しても、結局は本当に変えようとできない勇気のない半端者なのだと思い知る。
生きていて意味があるのかしら。
どうせ死ぬのだし。幸せになんてなる勇気もないのなら。学園のみなにも厄介者扱いされるのなら。もう生きる意味なんてないのではないか。
いつ死んでも結局は同じ死。
もう…疲れたわ。
いつもならこんなネガティブ思考、ダメだと思って無理やり変えるのだが、今はもうそんな余裕はない。
「お嬢様、準備が出来ましたので王宮へ向かいましょう」
「リリア…。ええそうね、行きましょう」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「クローディア、ここの問題は…」
「ここは…で……です」
2人きりの勉強会は順調に進んでいた。
超天才なクローディアと、クローディアを除けばかなりの秀才のジルベルトが学問についての会話を交わすことで、新たな視点での物事の捉え方など互いの見解を深めることとなっている。
「はぁ…クローディアの頭の中は覗いて見たくなるよ。どうすればそんな画期的な考え方が浮かぶんだ…」
「殿下もかなり素晴らしい考えをお持ちだと思います」
「君が言うか…」
「これは本当ですわ」
クローディアが思うに、ジルベルトは基本的には優秀な王太子で、国民に対する思いやりもすごくある。
……そのこともあり国民のことを考えて前世では婚約破棄したのだが。
少し考え方が偏っているというか…不均等なのよね。
思いやりは強いのに殿下は他人の心を理解しようとはあまりしていない。
周りからプレッシャーを与えられて育てば愛想笑いが張り付くのは理解できるが、それ故に人に寄り添う、ということを理解してはいないのだろう。
人のことは言えないが。
「クローディア、その顔の傷はどうした」
「!?」
突然ジルベルトはクローディアに問う。
「その傷、普通に生活をしていればできることの無い傷だ。何かあったのではないか?」
やはり。失礼云々の前にこの傷はどう見ても目立つ。
「何かあれば言って欲しい。これは婚約者としての形式などではない。私は…私はただ純粋にクローディアが心配なんだ…」
いつものにこやかな笑みを消して真面目そうな表情でそう言う。
心配…して頂けるなんて。
前世ではなかったわ。でもだからといって話す必要は無い。これはわたくし1人が耐えれば済む話だ。まだ耐えられる。
―――まだ…耐えられるはず。
「心配して頂きありがとうございます。ですが大丈夫です。すぐに治りますので」
沈黙が流れる。
お互いその沈黙を破る気も起きず、残りの時間はただひたすらに勉強をして過ごした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます