20.傷
きつい香りの香水を頭から被り、顔を数箇所切ったクローディアは何も考えられない頭を何とか動かしながら、『早退』という手段をとった。
今日これ以上学園にいても出来ることは無いし、そもそも学園にいても学ぶことはほとんど無いため学力的には問題は無いのだが、前世でもされたことがない仕打ちにクローディアはただただ迎えを呼ぶことしか出来なかった。
迎えが来るまでどうしようか。
早退は体調不良とでも言っておこう。どうせ学園に味方なんてほとんどいない。過度な嫌がらせで怪我をしたと言っても信じないだろうし、信じようともしないだろう。
医務室に行くことも気乗りせず、人目につかなさそうな木の後ろでクローディアは馬車を待った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「お嬢様!その怪我はどうなさったのですか!!それにすごい香水の匂いがします!」
何か言われるとは思っていたが、リリアはわたくしが帰ってくるや否やそう叫んだ。
「…少し木の枝を引っ掛けてしまったの」
「木の枝、ですか?」
リリアは怪訝そうにこちらを見る。
リリアに過度な心配はさせてはいけない。前世のリリアはわたくしを信じてくれていた。信じてくれていたから殺された。わたくしを信じればまたリリアが死ぬかもしれない。そんなことは出来ない。させない。
「ええ。わたくしがいつも昼食を食べる所は少し狭い通路を通るの。今日はよそ見をしてしまって枝で切ってしまって…」
「この香水の匂いは?まるまる一瓶かけないと、こんな強烈な匂いはしませんよ」
「…今朝はいつもと違う気分で香水を変えてみたの。1人でかけることはあまりないから加減が分からなくて。かけすぎてしまったようね。今度から気をつけるわ」
リリアは一通り質問し終わったが納得はしなかったようで訝しげにわたくしをもう一度見た。
「…とりあえず早く手当しましょう。跡が残るといけません」
リリアはスタスタと歩きクローディアもついて行き部屋へ向かった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
リリアside
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
お嬢様が帰ってきた途端、邸は大騒ぎだった。普段怪我なんてしない、するような行動を何ひとつとしてとらないクローディアが、美しいその顔に複数の傷を作っていたのだ。
理由を聞いても、「偶然」だと言い張る。
でもどう考えても変だ。お嬢様は今日もラベンダーの香水をつけて学園に行かれた。それは朝準備を手伝った自分が一番よくわかっている。
それに自分でかけた、と言われたが、香水はスプレーできるタイプのものしか邸には置いていないにも関わらず、賢いお嬢様が使い方を分からないからと言って中ぶたを開けて中身を被るだろうか。
不自然なことが多すぎる。
リリアはふとクローディアの足元に目を落とす。
何かがきらりと光った。
―――ガラス?
クローディアの足元、ドレス、髪にまでよく見るとガラスのようなものの破片がついている。
リリアだって馬鹿ではない。この状況から想像出来ることは少ない。
『お嬢様が何者かに嫌がらせを受けていて、香水の瓶を投げられた』
顔の怪我も割れた香水瓶のガラス片で切ったものだろう。
幸いあまり深くはなく、表面をかすった程度のものですぐに治るだろうが、其れはたまたまだ。運が良かった。
もし1歩間違えて顔に深い傷を負っていたら。
もし目にあたり失明していたら。
犯人がしたことは実力主義の学園にも庇いきれないような犯罪だ。
確信はない。証拠もない。でも今までお嬢様と過ごしてきて、お嬢様は私に何かを隠している、と本能が言っている。きっと私を守るためだ。
人形だなんて言われるお嬢様だけど、私は知っている。お嬢様は人のことを思える優しい方だ。
とにかくこのことは何とかしないと。これ以上お嬢様が傷つかないように。
リリアはクローディアが寝たことを確認したあと、部屋に戻り紙にペンを走らせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます