31.2度目の初日

クローディアが学園に復帰することが決まった。クローディアに告げたところ、本人もかなり喜んでいた。



『学園!行けるのですね!とても楽しみですわ!』



未だに行って欲しくないと言う気持ちがないといえば嘘になるが、あんなに美しい笑みを浮かべながら言われて揺らいでしまった自分が少々情けない。



まあ本人も行く気満々な様だし、秘密裏に警備の強化も行った。今までがあまりにもお粗末すぎたため、今回の様な事態を招いてしまったことは明らかだったし、周囲が放っていたといえ、時期王妃に対しての扱いが酷すぎた。



学園という身分がない場所を逆手にとった度の過ぎた嫌がらせや憂さ晴らしは、クローディア以外に対しても横行していたことが発覚し、やるべき問題は山積みである。



ジルベルト自身もクラスは違うが、出来る限りクローディアのそばにいるつもりだ。



ーーーもう、クローディアを傷つけない。



*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー



ここが…学園…



クローディアは眼前に広がる巨大な建物に目を奪われていた。



「なんて大きいの…」



クローディアは知識として知ってはいたが、実物を見るのは初めてだ。記憶を失う前は何度も目にしているが。



「お嬢様、ご存知かとは思いますが、この学園には国の貴族子女令息が集まっています。お嬢様もこの学園の生徒の一員として教育を受けることになりますが、リラックスしてお過ごしくださいね。もし何かあればすぐにおっしゃてください」



「リリア、あなたは心配性ね。大丈夫、勉強するだけよ。公爵家令嬢として、一人の貴族として、恥ずかしくない様に精一杯学ぶわ」



「決して、無理はしないでください」



「ええ」



「行ってらっしゃいませ…」



リリアに見送られながら、巨大な門をくぐる。



「おはようございます」



門をくぐると直ぐに、一人の令嬢が声をかけてきた。



「私はアヤリナと申します。失礼でなければ、教室までご一緒させて頂いてもよろしいですか?」



クローディアは目を見張った。



まさか登校初日のしかも門をくぐった直ぐに声をかけて貰えるなんて思ってもいなかった。大人しそうな印象のアヤリナ様は、ドキドキした様子でわたくしの返事を待っている様だ。わたくしは嬉しくて仕方がなかった。



何故かはわからないが、わたくしは最近何かを思い出そうとするとぼんやりとすることが多い。それでも生活に特に異常をきたしている訳ではないから気にしてはいないのだが、アヤリナ様に既視感を少し抱いた。リリアに対して抱いた既視感によく似ている。



だがやはり考えようとするもかき消されてわからなくなる。



「もちろんですわ。よろしくお願いします」



初日から色々と考えるのはどうか、と思い、クローディアは考えるのをやめた。



「…はい!」



わたくしが返事をすると、少し不安げだったアヤリナ様の瞳にパッと喜びの色が見て取れた。



その一見特に不自然な点は見えない様な反応にクローディアは再び違和感を抱く。



ーーーどうして、そんなに安心しているのかしら。



声をかけて、断られることが怖かった、と考えられないことも無いが、それにしてはなんだか変だった。クローディアの細かな言動、行動を見て、アヤリナ様は一喜一憂している。




その時、始業のベルが聞こえ、クローディアとアヤリナは慌てて教室へ向かった。



アヤリナは隣で急ぐクローディアを見て、記憶を失う前のクローディアの面影を感じながら、実はやはり記憶なんて失っていないのではないか、と考えるが、それでもいやでも感じる以前との違いに少し悲しくなった。







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