30.会議

王宮の応接室。

そこにはジルベルト、アラン、リリア、アヤリナの四人が集まっていた。



「皆、忙しいのに集まってくれてありがとう。クローディアのことについて話があるんだ」



「いいえ、お嬢様のことなら私はいつ、どこにいても駆けつけますわ」



「私もです!クローディア様は私の大切な方です。私にはまだどんな状況なのか分かっていませんが、私がお役に立てるのでしたらなんなりと!」



国を率いるトップたちと、クローディアの治療に当たった人間以外には、クローディアが記憶を失っていることは知らされていない。彼らにも厳しく箝口令を敷いている。それはアヤリナも例外ではなく、クローディアの容態はクローディアの友人としてこの場に呼ばれて初めて知ることとなる。



「アヤリナ嬢、君はクローディアとずいぶん仲が良かったと聞いている」



「はい。少なくとも私はクローディア様は大切な友人だと思っております」



「そうか…。この話を聞くことは、もしかしたら辛いかもしれない。聞きたくなければ、ここで退出してくれても構わない」



「そんなこと絶対にしません。どんなクローディア様でも私の大切な方です。何があろうと受け入れます」



アヤリナは力強く言った。

ジルベルトがアヤリナに対して抱く印象は「大人しい」だけだったのだが、人は見かけによらない。アヤリナは強い信念を持った令嬢の様だった。




「…クローディアは記憶をなくしているんだ。人に対しての記憶全てを。それはアヤリナ嬢に対しても例外ではない」



「……っ!?」



このことは流石のアヤリナでも予想外のことだった。

大怪我をした、などのことだと思っていた。それなら自分にもなんらかのことが出来たのだろうが、クローディアは自分のことを全て忘れてしまっているのだ。



「今までのこと…全部…」



アヤリナは一瞬言葉を失い遠くを見つめたが、すぐに真っ直ぐとした視線を取り戻し、力強くジルベルトを見た。



「いいえ、うじうじ考えていても意味はありませんね。それで、どうして私をお呼びになったのですか。何か理由がおありだと思うのですが」



ジルベルトは驚いた。少なくとも涙するだろう、と思っていたが、彼女は瞬時に立ち直り目的を聞いて来た。かなりのショックだろうに前を向く姿勢には感服させられた。



「理解が早くて助かる。少し前に、クローディアに話を聞いたところ、学園に興味を持っている様なんだ。それ自体は悪いことではないのだが、クローディアが記憶をなくしていることは周囲に知られると色々とまずい。アヤリナ嬢には、クローディアが学園に行くとした時、学園での様子を見ていて欲しいんだ。同じクラスの君なら都合がいいし、何より友人である君なら異変に気づきやすいし記憶がないことを周りに気づかれる確率も少なくなるだろう」



「引き受けました。クローディア様は私にお任せください」



アヤリナは即答した。



「ありがとう。何かあれば私かアランにすぐに報告してくれ。リリア嬢、君もフィオレローズ公爵邸でのこと、クローディアに少しでも異変があればすぐに言ってくれ」



「かしこまりました」



ジルベルト個人としては、クローディアは心配でたまらない。記憶をなくしている分彼女の心はピュアなのだ。しかし誰が見てもわかるほど学園は個人の負の感情が飛び交うギスギスした場所だ。ジュリアが拘束されたことが少しの牽制になったかもしれないが、それでも負の感情に触れる機会がゼロになったわけではない。



記憶を失ったきっかけがきっかけなだけ、また負に飲まれてしまえばもう記憶が戻らなくなるかもしれない。



それでも、クローディアには普通に過ごして欲しい。両方、と言う選択は難しいだろうが、出来る限りそうしたい。



その場にいた皆が、全てが良い方向に向かうことを願った。




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