32.初めての学園

「ふぅ…。何とか間に合いましたね」



始業の予鈴が鳴り、慌てて教室に向かい、なんとかギリギリ着いたアヤリナとクローディアは、教師が入ってくる直前に席につくことができた。




ーーー心配だわ。




アヤリナはクローディアと仲が良くなる前から、クローディアが教師によって様々な嫌がらせを受けているところを何度も見ていた。その時はただ自分がターゲットにならない様に必死だったが、クローディアと親しくなってから、クローディアが記憶を失っていることを知らない教師たちによってされる嫌がらせで、クローディアがまた傷ついてしまったら、と心配でたまらない。



クローディアが行きたい、と言って来た学園のため、第三者であるアヤリナには止める権利なんて存在しないのだが、今までクローディアがされて来たことを考えるとやはり「またずる休みして…情けない」と言われそうで、あの教師たちと接触することはどうしても避けて欲しい。



コツコツと教師の靴音が聞こえて来た。



ーーーえっ!?



アヤリナは硬直した。



教室に入って来た教師は、つい昨日まで来ていた教師とは全くの別人だったのだ。



ーーーどう言うこと!?



担当の教師が突然変わるなんてこと普通はありえない。

おそらくはジルベルトの差し金なのだろう。彼らがしていた行為は「教育」の範囲から大きく外れていて、その上人権を侵害していることも多々あったため、教師として以前に一人の貴族として、国民として国の法に裁かれた、と考えるのが妥当だが、今までジルベルトにそんなそぶりはなかったため周囲に勘づかれないよう水面下で進めていたのだろう。



ジルベルトがクローディアに対してとっていた態度は以前はとても素っ気なかったが、今は誰が見たも恋する一人の青年だ。クローディアの友人としては、彼が真剣にクローディアのことを守ろうとしてくれていることは大変嬉しい。



それはそうと、授業は滞り無く進んでいった。



新しく担当となったこの教師は、ごく普通の授業にごく普通の態度だった。

今までが少々悪すぎたこともあるのだろうが、なんと言うか、安心感というか今までとの違和感に少々呆気に取られそうになる。



しかし、これで心配の一つは解決したと考えて良いだろう。



*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー



ーお昼時。



クローディアとアヤリナは食堂に来ていた。

記憶を失う前はクローディアだけの場所で一人で食べていたため、食堂というばに初めて姿を現したクローディアに皆が興味の眼差しを向けている。



ーーーしかしその原因はもう一つある。



「ジルベルト殿下、殿下は普段食堂で昼食を摂られるのですか?」



ジルベルトがいるのだ。



普段彼も別の場所で食べるのだが、クローディアの安全のため一緒に食べることにした様だ。




ジュリアによって怪我をして、しばらくの間休学していたクローディアが復学したとたん、ジルベルトたちと共に昼食を摂っている光景は、嫌でも他の生徒たちの視線を集めることとなっている。



しかしそんなことは微塵も気にしていないクローディアとジルベルトは、楽しそうに食事を摂っている。



「クローディアは今日が初めての登校だから、緊張しているのではないかと思ってね。慣れるまでは一緒にいようと思って」



「まあ、お気遣いありがとうございます。ですがわたくしと殿下の関係は特にありませんので、わたくしとしてはよろしいのですが周りの方々から誤解されてしまうのではないのですか?」



クローディアが心配そうに尋ねた。



「問題ないよ。学園にいる限り私たちは平等だし同じ一人の生徒だ。生徒同士が友好関係を築いているだけなのだから大丈夫だよ」



「そうなのですね。わたくしまだ馴染みきれていなくて…」



少し不安げに俯くクローディアに、ジルベルトは「焦らなくて大丈夫だよ」と声をかけ、食堂には明るい顔に戻ったクローディアたちの笑い声がひびいた。



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