6.声
わたくしは目を開けた。そこは、白い場所だった。部屋と言うべきか、空間というべきかは分からないが、果てがなく地平線らしいものも見えそうにない。あんなにも酷かった頭痛は治まっている。
ふと足元を見れば足は地に着いていなかった。いや、「地」なんてものはないのだろう。実に不思議な場所だ。
もしかして夢の中なのだろうか。それともここはあの世なのだろうか。
そう錯覚してしまうような雰囲気だ。
『……。……。』
誰かが何かを呼んでいる。なんて言っているのかは聞こえない。だが、その「誰が」が呼んでいるのは自分だと、なんとなくだがそんな気がした。
「あなたは誰ですか?」
クローディアはそう問う。
『あら、やっと届いた。みんなー!繋がったわよー!』
とても綺麗な女性の声がした。
『本当に?僕も僕も!』
『儂が先だ』
続いて少年のような声、老人のような声がしたと思うと、聞き取れないほどたくさんの人の声がし始めた。一体何人いるのだろうか。
「あ、あの…すみませんがおひとりずつ話して頂けないでしょうか。聞き取れないので…」
私がそう言うと女性の声がした。
『そうね、ごめんなさい。ほらほら皆、…ちゃんが困ってるじゃない。1人ずつ喋らないとだめよ』
謎の声がそう言うと名前の部分が聞き取れなかった。ノイズのような音がする。もしかして名前が分からないのだろうか。
「あの…わたくしはクローディアと申します。名前にノイズが入るのですが」
そうするとうるさいほどだった声が一斉に止んだ。
『そうだったわ、クローディア。あなたに話があるの』
「わたくしに?」
『ええ。あなた、最近おかしなことが起きなかった?』
おかしなこと、と聞かれれば思い当たることはひとつしかない。
「死んだはずなのに、昔に戻って…」
『あら、理解が早くて助かるわ』
どういうことだろう。というかこの声たちは何?
「失礼ですが…あなた方は誰というか…何?」
『紹介が遅れてすまないな』
『『『『『『私たちは神だ』』』』』』
わぁ、声が揃ってる…じゃなくて!!
…神?え?神?ん?
わたくしの頭はキャパオーバー寸前だ。
『前世でのお主には随分と可哀想なことをしたからな』
可哀想なこと?
『お詫びに、ではないが君には幸せになって欲しくてな。もう一度、君に人生をあげたのだ』
「は、はい(?)」
『でもそこで問題が発生してね。きみ、さっき頭痛くなったでしょ』
ええ、頭痛くはなりました。もう強烈に痛かったです。最近はずっと熱があったしどれだけ寝ても薬を飲んでも改善されなかった。
『普通は逆行転生なんてしないんだけど、無理やり転生させちゃったからまだ君の魂といまの身体とが馴染んでいなくて、拒絶反応みたいなのが起こっちゃったんだけど』
「…拒絶…反応」
『でも大丈夫よ!あと数日あれば馴染むわ』
「神様」
『『『『『『『何?』』』』』』』
あ、だめだ。ここにいる数えきれないほどの声の持ち主は全員「神様」なんだった。
「えっと…その女性の声の神様」
『『『私?』』』
…なるほど。女神と男神で半分には絞れたのね。もういい、めんどくさい。
「もういいです。とりあえず質問をしてもいいですか?」
『『『『『『『答えられるものなら』』』』』』』
「わたくしは、何をすれば良いのですか?わたくしは…」
『特に何もすることはないわ。私たちはあなたに何かをしてもらうために転生させたわけじゃない。ただ、自由に生きて欲しいの』
自由に…
ひとつ素朴な疑問が湧く。
「あの…どうしてわたくしをそこまで気にかけてくださるのですか?」
『それ…た……い…』
突然酷いノイズに襲われる。
「すみません!今なんて仰っしゃられたのですか!」
『あ……わ…』
遂に言葉まで聞こえなくなる。
そのノイズと共に真っ白な空間が黒くなり始め、それが全て白を飲み込んだ時、クローディアの意識は覚醒した。
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「クローディア!!」
殿下がわたくしの名前を叫ぶ。どうやらわたくしが意識を失ってからそれほど多くの時間は経っていないようだ。
「…クローディア、大丈夫か」
「…はい」
先程聞こえた神々の声は、夢だったのだろうか。
「クローディア、今医者を呼んでいるところだ」
「大丈夫です。殿下」
神々の声が正しかったら、あと数日すればわたくしの体調は良くなる。
「あと数日寝ていれば治ると思います」
「そうだね、学園ももう少し休んだ方がいい」
その言葉を聞き、はっとする。
―――学園!
忘れていた。そうだ、始業式に倒れてから数日寝込み、昨日起きた。その間学園のことなんて考えてすらいなかったが、始まっていないわけが無い。
今は婚約破棄できるような状態ではない。とりあえず学園のことを考えなくては────
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