9.初日と憎悪
教室に入ると既に他の生徒たちは席に着いていた。始業の予鈴が鳴ったからなのだが、まだ授業は始まった訳では無いので大丈夫だ。わたくしは適当に席に着く。
「あら、クローディア様ですわ」
「始業式から仮病でジルベルト殿下に媚びを売って…まだ学園に来れるなんて豪胆ね。恥ずかしくないのかしら」
「恥ずかしくないからあんな大胆に倒れられるんでしょう?」
「人形ですものね」
くすくすと笑い会う声が聞こえるが、これは昔からだったので慣れている。やはりわたくしの地位に妬みを抱くものは多い。令嬢なら特に。だがそんなことをいちいち気にしていては埒が明かないため聞こえないふりをして教科書を準備する。
「皆さん、おはようございます」
始業のベルと共に教師が入ってきた。一限目は魔法の授業だ。この世界の魔法は生活魔法などはあまりなく、魔物などと戦うための攻撃魔法が主流だ。
「本日は外でこの一週間の成果を発表して頂きます。クローディア嬢、学園を休んでいたクローディア嬢には少し厳しいかもですが、例外は認めませんので」
教師がニヤリと笑いながらわたくしを指さす。
教師がそう言うと他の生徒たちもまた下品な笑みを浮かべてわたくしをみる。この学園の教師もまた貴族であることが多いが、その多くは各家の次男次女など、直接家に携わらない人間だ。彼らもまた、わたくしに憎悪を燃やすことも少なくない。今回のようにわたくしだけ知らされていないテストなどはよくあった。
「では外へ」
教師のその一声とともに生徒たちは一斉に外へ出ていった。
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外に出ると直ぐにテストが始まった。授業を受けていないわたくしに対する配慮など欠けらも無い。というかそれ自体が生徒と教師が一体となったわたくしへの嫌がらせだ。学園内では身分は全て無効となるため、例え男爵家であろうが公爵家と対等に話すことができる。
それを利用してとことん虐めを働くのだが。
「次!ジュリア・デニス!」
そう呼ばれた女生徒、デニス侯爵家の令嬢であるジュリア様はわたくしを一瞥すると勝ち誇ったような笑みを浮かべて位置に着いた。
彼女が呪文を唱えると両手から3m程の竜巻が発生し、目の前の藁でできた案山子をボロボロに切り刻んだ。
途端拍手が巻き起こる。わたくし達の年齢でいえばかなり優秀な魔法だと言えるだろう。
「ジュリア・デニス。素晴らしい魔法でした!あなたはとても優秀な生徒で誇らしいです」
教師が満面の笑みでジュリアを褒める。そのあと私に視線を向けるとニヤリと笑った。
―――お前にはできるものか。
その視線はそう語っていた。
前世での私なら特に何も思うことなく発表を終わらせていただろう。もちろん今世でも気にしていない。気にしているだけ無駄だ。
しかし。
今世のわたくしには秘密がある。逆行転生という秘密が。これが何を意味するのかというと。
『その授業、前世で受けました』
そう。どんなに嫌がらせを重ねようが授業を受けていまいが、クローディアはまずオールマイティーな天才だ。ほとんどのことは見ればできる。そのうえ授業は前世で既に受けていた。出来ないわけがないのだ。
「次!クローディア・フィオレローズ!出来なければ辞めてもいいのよ?授業を受けていないのだから恥ずかしいことではないわ。まぁ、休んだ理由はさておきね」
相変わらずよく回る口ですこと。
クローディアは位置についた。そして片手を上げ、軽く振り下ろした。
途端、ゴオオォォォという凄まじい音とともに巨大な火柱が空高くまで上がる。2、3秒経つと今度はその炎を消すようにまた巨大な水の柱が出現し、炎を消し終わると飛沫となってキラキラと光を反射し虹を出現させながら消えた。
案山子はもちろん灰すら残さずに。
わたくしは自由に生きる。そのためにはいちいちこんな嫌がらせに付き合う暇はない。余命は2年。いかに楽しむかが肝心である。ということで今世はテストにも手加減はなしだ。これでも本気では無いのだが、本気を出せば学園が崩壊の危機にさらされるため、それなりの出力だ。
「無…詠唱…」
ふと横を見ると腰を抜かす教師と唇を噛むジュリアの姿があった。
「ジュリア様、そんなに唇を噛むと荒れてしまいますわよ?わたくしのリップクリームをお分けしましょうか?」
王妃教育で培ったそれっぽく聞こえる最高の皮肉をプレゼントした。
非常にスッキリとした。こんな感覚は初めてだ。
2年を自由に生きると決めてから、クローディアの心は少しずつ軽くなっている。多分だが無意識のうちに表情にも変化があるのではないだろうか。
この2年の過ごし方に思いを馳せ、地に這い蹲る教師にも皮肉の一礼をプレゼントし席に戻った。
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