第35話トルミ村①

 

 トルミ村のすぐ近くまで転移した俺とフレンは早速村の門へと向かった。

 そこには警備兵が2人ぼーっと立っている。

 平和ボケしているのだろう。

 まして今ここに魔王軍が接近しているなど想像もしていないだろう。


 警備兵の近くに行くと、虚な目でこちらを見て


「トルミ村に何か用ですか?」


 と一応背筋を伸ばしそう聞いてきた。

 少しおかしいとは思ったが、門番なんて新人の仕事だ。

 もしかしたら俺がトルミ村で過ごした時期にいなかったのだろうか。

 確かに見たことはない2人だ。

 知らないのも仕方がないか。


「この村で以前世話になったレノンというものだ。村長に話してくれれば分かるはずだよ。ここへは魔王討伐後の挨拶のために来た」


 もし俺が指名手配でもされていれば、レノンという名前を出しただけで、兵士たちがすぐにでも仲間を呼びそうなものだ。

 しかしこの2人が全く表情を変えず、そうですかと言った態度なのは甚だ疑問に思うところだ。

 2人で顔を合わせしばらくこそこそと話した後、


「村長に確認を取る。しばらく待ってくれ」


 そう言って1人が村の中へと走っていった。

 門番と微妙な沈黙が続く。

 しかしその沈黙はすぐに破られた。


「……もしかして英雄レノン様でありますか??」


 門番がいきなりそう聞いてきた。

 英雄に憧れる兵士ならば目を輝かしてそう聞いてきそうなところではあるが相変わらずその目に力は感じられない。

 しかし明らかに俺の正体に気づき興奮を隠せないと言った雰囲気を醸し出している。


「確かに俺はそのレノンだ。だが英雄はやめてくれ……少しむず痒い」


 今まで散々ワンズたちに英雄レノンだと言ってきたが、それは魔族相手だから言えることで人間にそう言われるのはあいも変わらずむず痒いのだ。


「何をおっしゃいますかレノン様。あなたは魔王を討伐した人間領の英雄ではありませんか。あなたをおいてこの国に英雄などおりましょうか」


 ……少し引っかかるな。

 なぜこいつは魔王が討伐されたことは知っているのに俺がアリステル王国を滅ぼしかけたことは伝わってないのだろうか。

 などと考えていると村の門が開かれ、そこには懐かしい顔のじいさんと走っていった門番が立っていた。


「おお……レノン殿……戻られたのか。ついに魔王討伐の悲願を成し遂げてくださったのか……ありがたや……」


 彼はこの村の村長であり、英雄時代に俺たちに色々と支援をしてくれた恩人だ。

 そしてやはり村長も俺に対する態度が変わっていない。

 そこから導かれるのは、おそらく俺が魔王化してアリステル王国を滅ぼしかけた話は伝わっていないのだろう。


「ああ、帰ってきたぜ村長。時間はかかっちまったが、魔王を倒してきたぞ」


 村長は俺の手を取り、虚な目で涙を流してありがとうありがとうと繰り返した。

 何か久しぶりに人間の温かみに触れ、ふと俺も涙を流しそうになった。

 ……ろくな人生ではなかったからな。

 こんな風に感謝をされたことなんて経験がない。


 その後村長はぜひお礼がしたいとのことで自分の家へ来てくれと言い俺たちを村の中へと入れてくれた。


 村長の家へ行く道中、トルミ村の懐かしい顔が俺の顔を見るなり、集まってきていろんなものをくれたり、感謝の言葉をかけてくれた。

 そして村長の家に着くころには俺とフレンは両手に抱え切れないほどの感謝の品を受け取ったいた。


「さぁ中に入ってくれ。大したもてなしはできんがお茶でも出そう」


 家の中に入り、お茶を飲みながら魔王討伐の道中の話を村長に聞かせた。

 しばらく話した後、俺は村長に本題の話を振った。


「村長、俺がこの村に来たのは魔王討伐の挨拶回りという理由ともう一つあるんだ。驚かないで聞いて欲しいのだが、今ここに元魔王軍の軍団が向かっている」


 俺がそう言うと、村長は表情は変わらないが驚いたように立ち上がり


「なんじゃと。では早々に避難しなければならまい。……いやレノン殿がその対処をするためにこの村に来てくれたのか?」


「いや、違う。この魔王軍は俺が指揮している」


 俺がそう言うと村長は一歩後ずさった。


「ど、どういうことなんじゃ。なぜ英雄のレノン殿が魔王軍を指揮しておるのだ。まさか人間をやめ、魔王軍についたとでもいうのか」


 結論その通りである。

 しかし本当のことは言えない。


「少し違う。俺は人間を辞めたわけでも魔王軍についたわけでもない。ただ俺はアリステル王国の国王に復讐をしなければならない。俺の唯一の家族を人質に取った挙句、ろくに飯も与えず餓死寸前にまで追いやられていた家族の恨みをはらさなければならない。そのために、俺は倒した魔族どもを仲間に引き入れ、アリステル王国を滅ぼすべく進軍をしているんだ」


 必要な嘘ではあるが、恩人である村長に嘘をつくのは少し心苦しいが、今は仕方がない。

 村長は呆気に取られながらも


「家族を人質にとられ無理やり働かされていたとは……レノン殿もこの国に苦しめられていたのだな……我らトルミ村もあの国王陛下には苦しめられているのだよ。レノン殿はここにくるまでに村の様子で何か変わったと思うことはありませんでしたかな」


 変わっていたところ……

 パッとは思いつかない。

 そんなに村の様子が変わっていたとは思わなかった。


「先日村にアリステル王国から使者が来たのです。理由は話せないが、若い男を100人差し出せ。従わない場合は村を取り潰すと言いすぐさま去っていったのです。我々にも生活がある。トルミ村がなくなればこの村に住む村人たちは路頭に迷ってしまう。だから仕方なく村の若い衆をアリステル王国に向かわせたのです」


 なるほど。言われて気がついた。

 確かに村長の家にくるまでにほとんど若い男連中に会わなかった。


 おそらく俺が破壊したアリステル王国の再建のために各村村から人を集め強制労働をさせているのだろう。

 あのバカが考えそうなことである。

 魔王が復活したにもかかわらず、自分の周囲のことを最優先に考え、境界付近の警備を全く強化しない。

 全くもって愚かな考え方である。


「レノン殿、我々トルミ村にアリステル王国への復讐で協力出来ることがあればなんでも言ってくだされ。最大限協力させていただこう。我々ももう国王陛下にはうんざりだ」


 村長は俺が求めていた答えを言ってくれた。


「ああ、頼むぞ村長。では早速で悪いのだが、今ここに魔王軍が進行中といったと思うが、そいつらを通過させてやってはくれないか?」


「もちろんですとも。村人たちには私から伝えましょう。反対する者など一人としていないでしょう」


 正直もう少し手こずるかと思っていたが、あの愚王のおかげですんなりとことが進んだ。

 タイミングも良かったのであろう。


 その日の夜に村人たちはささやかながら宴会を開いてくれた。

 やはり村人が集まっているところを見ると若い男衆がいないことが一目瞭然だ。

 村人たちにも活気が感じられない。

 早くあの愚王を倒し、苦しめられる村人たちを救わねば。

 俺は元英雄としてそう決意した。


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大陸最強の俺は、国に裏切られ魔王になる〜魔王になった俺が魔王軍を再編し世界を支配する〜 トリノ @kami9419

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