第22話ガラデ平原での戦い②
「っしゃあ!!いくぜお前ら!!」
左翼敵陣に向け人狼族2500は大地をかける。
敵はレノンの魔法に怯み、完全に足が止まってしまっている。
さぁ、今のうちに。
狩れるだけ狩り尽くす。
目の前にいるのは……オーガとサラマンダーか。
相性は悪くない。
あいつらも出てきてねぇみたいだしな。
「戦場で足を止めるのは馬鹿のする行為だぜ!そんだけ集めながら無能ばかりかよ!!さっさと消え失せな!!」
ワンズを先頭に人狼族が次々とオーガとサラマンダーの軍に突撃を開始した。
その攻撃に目を覚ました彼らは
「強がるな!そんな少ない人数でなにができる?おいお前ら!押しつぶせ!!」
「そ、そうだ!あの偽物の魔法がいくら強力だからと言って範囲内なければ関係ない!各個撃破だ!!まずは奴らを潰すぞ!」
「族長に出てもらうまでもないわ!!」
口々にそう叫びワンズたちを殺そうと槍やら剣やらを向ける。
しかし彼らがその動作をとってすぐにあることに気がつく。
手元にそれがない。
いや、むしろそれを持っていた腕ごとないことに。
「「「ぎいーーー!」」」
その結果遅れてくる痛みと衝撃に悲痛な叫びが戦場に響き渡った。
「な、何事だ!!奴らはどこに消えた!!」
「おい!!前の奴らはなぜ倒れていくのだ!!人狼族はどこにも………ゴトッ」
「見えないよなぁ。お前ら程度の雑魚どもには」
オーガとサラマンダー8000人の陣の至る所で血飛沫と叫びが上がる。
そう彼らはそこにいる。
だが到底彼ら程度の並の兵には気配を察知することすら出来ないのだ。
突撃してくる姿、そしてした瞬間は覚えている。
だがそれ以降2500の人狼族を視認した、いや視認できた者は誰1人としていなかったのだ。
「あ、相手が悪すぎる!!後退だ!!」
「おい!!どけっ!!邪魔だ」
「押すんじゃねぇ!!」
見えない恐怖から誰もがいち早く逃げようと後退を開始するが、統率の取れていない軍というのは自分勝手な行動に走る奴らばかりで、結局のところ狩人にとっては都合のいい獲物になるという話だ。
そんな中でも勇敢に立ち向かおうとする奴らは幾分かいる。
「この卑怯者!!姿を見せて正々堂々戦う…………んだ?」
ゴトッ
「この数の差で正々堂々とか、なんの冗談だよ……バカか?しかしまぁ、逃げるだけの無能たちよりはいくらかマシだったんじゃねぇか?死んだら意味ないんだけどな。さてと、おいお前ら!追撃だ!!今の俺たちには数の差なんて相手にやるハンデくらいのもんだ!いつまでも過去の栄光にすがりつくバカどもに分らせてやるぞ!!」
「「「おおお!!!」」」
「ワンズ兄、報告」
「おうどうしたクミン?」
「奴らがこっちに向かってきてる」
「了解だ。クミン、部隊の指揮は任せる。俺はそいつらを狩りに……「一人じゃ行かせないから」……いやクミン?お前まできたら誰が部隊の指揮を……「私も行くからね?」……しゃあねぇな!!おい!カルド!!」
「なんでしょうかワンズ」
ワンズの横にシュタッとメガネをかけた青毛の人狼が現れた。
彼はカルド。ワンズの右腕にして友人だ。
「サラマンダーとオーガの族長がこっちに向かってきている。俺はそいつらを狩りにいく。クミンに指揮を任せようと思ったんだが、どーーしても俺についてきたいなんていうもんだから仕方なく連れていく。だから指揮は任せた」
「分かりましたが……クミン、無茶をしてはいけませんよ?私たちがいくら強くなったとはいえ、相手は族長……いえ2人とも元十二翼です。いざとなったら兄を盾にしてでも逃げなさい。分かりましたか?」
「おい、ちょっと待てカルド。今なんか俺を盾……「うん、分かったよカルドさん。いざとなったらワンズ兄を盾にするね」……クミン……兄ちゃん泣くぞ?」
「さぁ2人とも行きなさい。我らの勝利のために」
「カルド……この戦が終わったら覚えてやがれよ……」
そう言い残してワンズはクミンの案内する方へ向かって進み始めた。
◇◆◇◆
「ここまでやられるとは思ってもみなかったな、サラーデ」
「……全くみっともないもんだ。こんだけ数の差があるのに俺たちの兵隊は逃げ惑ってるなんてな」
「だがよ、それだけワンズたち人狼族は力をつけてるってことだろ?相手にとって不足なし。つまんねえ戦いに俺たちがくる必要あるかと思ったが、きて正解だったみてぇだな!」
「ゴズの指揮下に入るのは死ぬほどイヤだったが、全くもってその通りだ。さぁ行こうかオルデ。調子づいている犬どもに引導を渡してやろうぞ」
「おうよ!!」
サラマンダー族長サラーデ。
オーガ族長オルデ。
それぞれ大剣と太刀を背負い戦場へと向かった。
◇◆◇◆
同刻、中央部では進軍を一時停止したドゴラと黒い波に呑まれていく兵を上空から眺めるマホがいた。
「マホよ!我らはここにいて大丈夫だろうか?あれに巻き込まれはしないだろうか?」
ドゴラを先頭に背後には500の龍族の仲間。
波が徐々に迫ってきていることに少しずつだが焦りと不安を抱き始めていた。
「んー、まぁー、大丈夫じゃないかなぁー。少しずつだけどぉー、勢いがぁー、収まりつつあるしぃー」
「それならば良いのだが、こちらまで来そうならば早めに報告頼むぞ」
「えぇー、それくらいぃー、自分で判断しなよぉー。マホそういうのはぁー、めんどくさいからぁー、やりたくないんだけどぉー」
ドゴラはムッとしたがぐっと堪えた。
彼女はかなりの気分家だ。
いくら魔王様が中央部の敵を壊滅させているとはいえ、まだ兵は残っている状態だ。
龍族が強いとはいえ、数は500。
マホの援護なしには優位に戦いを進められないだろう。
耐えろドゴラ……今はまだ耐えるんだ。
そう自分に言い聞かせながら、目の前の黒い波に目を向けた。
あと我らまで数百メートル。
勢いは衰えているし、ちょうど手前くらいで止まりそうだ。
ここで進軍を停止させた魔王様を信じよう。
しかし魔王様の魔法は圧倒的なものだ。
正直向こうにいなくて良かったと、魔王様の配下になって良かったと心から思う。
その配下として我は全身全霊をもって貢献しよう。
新たな力と共に!
ドゴラがそう決意したころ、手前数十メートルの位置で黒い波は停止し、そして姿を消した。
『ドゴラ進軍再開だ!残った奴らをマホと共に殲滅せよ!!』
レノンからドゴラに指示が飛んだ。
「承知した。全軍我に続け。龍族の力存分に見せつけようぞ!!」
「「「おおおっ!!!」」」
ふ、この数の差にも怖気付かないとは我が同胞たちもたくましいものだ。
心強いぞお前たち。
さぁ我らの力を存分に!
「ほい、氷の槍ぃー」
ざざーーーーっ
「に、逃げろー!!」
「今度は槍か……ぐっ」
「中央部はお終いだ……」
敵が逃げていく。
我まだなにもしてないぞ。
「マホよ!!どうして我の見せ場の邪魔をするのだ!!どう見ても今から我らの快進撃が始まるといったところだったろう!!」
「はぁー?そんなのぉー、知らないしぃ。マホはただぁー、仕事しただけなんですけどぉー」
「しかしだな……」
くそう、何も言えぬ。
確かにマホの言う通りなのだが、そうなのだが……
「あー、じゃあさぁー、あいつらの相手してあげなよぉー。マホはぁー、手だししないからさぁー」
「あいつら?」
ドゴラは後ろを振り返る。
するとその視線の先に、逃げ惑う味方を切り捨てながらこちらに向かう影が3つ。
「おい、なにを敵前逃亡している。戦え」
「そうだよ。逃げるなんてありえないよね」
「逃げる奴……処刑……」
「きたか……十二翼が三対……殺戮の三重奏」
デュラハン族長 ハンラ
猫人族長 キャラット
サイクロプス族長 キプロス
ハンラが斬り刻み、キャラットが引き裂き、そしてキプロスが叩き潰す。
その音が奏でる旋律をとって名づけられた。
個々の画が強い十二翼のメンバーでも彼らは特別。
常に3人で行動をする。
さらには残忍にして非道。
敵味方関係なく自分たちの意思に反すれば処刑というなの粛清をする。
3人はドゴラの槍の届くか届かないかの瀬戸際で立ち止まり
「久しぶりだなドゴラ、マホよ。簡素な挨拶で悪いがこれより貴様らを粛清する。大人しく受け入れそして死ぬが良い」
「そうそう!僕らもいろいろと忙しいんだからさっさと死んでよね!」
「裏切り者……殺す」
一人ずつ順に一言ずつ言葉を述べた。
「我を裏切り者と罵るか……」
「だってそうでしょ?僕たちの仇であるあの元勇者に付き従ってるんだからね。魔王になったなんて到底信じられる話ではないしね」
「貴様らがどのようにして元勇者に誑し込まれたかは知らぬが、奴の味方をしている時点で先代魔王様への恩義を仇で返すことになっていることを理解しているのか?」
「違う!!理解していないのはお主らの方だ。レノン様は確かに元勇者である。我らの憎むべき相手だ。しかしレノン様の頭についている角。あれはまさしく先代魔王様の角であり、その角が付いている以上、彼は先代魔王様に選ばれた次代魔王ということだ。それが理解できているのであれば、レノン様に敵対するお主らこそが魔王様に仇なす敵ではないか!!」
ドゴラが語り終えると、3人は顔を見合わせそしてそれぞれの武器を構えた。
「我々を仇なす敵と罵ったこと撤回していただこう。貴様の死は確定事項だが、撤回するまでは生かして殺し続ける地獄を味わってもらうことになるぞ」
「やれるものならばやってみよ。このドゴラ。我の新たな力を持ってお相手いたそう」
「後悔してももう遅いぞ。キャラット、キプロスいくぞ」
「あいさー!」
「殺す……」
三重奏が同時に演奏を開始した。
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