第28話ガラデ平原での戦い⑧

 

「うそ………だよね……」


 レノンに槍が突き刺さる瞬間を見ていたフレンはそう呟いた。

 あの最強の魔王様にあんなにいとも簡単に槍を突き刺すなんてあり得ない。

 そんなことできるはずがない。

 そう信じたかった。

 しかし


「……フレン、あの魔王様は偽物ではありません」


 キツケがそう言った。


「バカなことを言わないで!!魔王様が…….レノン様が負けるなんてあり得ない!!そうだよ!!交換転移で誰かと入れ替わってるんだ!!今魔王様は……」


 信じたくない。


「フレン、あそこにいるのは間違いなく魔王様です。あの魔力は魔王様のもの。私には分かります」


 キツケには魔力が見える。

 そんな彼女が言うのだ。

 間違いないのだろう。


「でも……」


「残念ながら私の勝ちだ。受け入れろフレン」


 ギーラがそう言って近づいてくる。


「まだだよ!!まだ終わってない!!」


 魔王様が帰ってくるまで私が戦う!

 時間を稼ぐ。

 だから……早く戻ってきてよ!!


「フレン、お前がいくら私にかかってこようとも勝てるはずがないだろう。それはさっき証明されたこと。無駄なことはよせ」


「無駄じゃない!!」


 フレンは地面を蹴りギーラに飛びかかる。


「愚かよ……チェイン」


 一本の槍が鎖となり、フランの腕を掴む。


「この程度……こんなもので……私が止められると思うなぁあぁ!!」


 力強く鎖をちぎろうと引っ張るがレノンにすらきれなかったものがフレンに切れるはずもなく、


「なんで千切れないんだよ!!なんで!!」


「もうよい……楽になれフレン」


 グサッグサッ!!


「か……はぁ……」


 二本の槍がフレンの腹部をレノンと同じように貫いた。

 強く引っ張られピンと張られていた鎖がジャラジャラと音を立てて垂れ下がる。

 そして力なく宙にぶら下げられ、血を垂れ流す。


「レノン……様……」


 少し先に見える鎖で手足を繋がれ、3本もの槍が刺さるレノンの姿に掴まれていない右手を伸ばす。


 レノン様、こんなところで終わるあなたじゃないでしょう。

 まだ国に復讐してないじゃないですか……

 まだあいつらも殺してないじゃないですか……

 だから早く……早くギーラを倒してよ……


「レノン様ーー!!」



 ドゴーーーー!!!



 フレンの叫びに呼応するかのように、レノンから紫色のオーラが放たれる。


「な、なんだ?なにが起こった!?」


 確実に命を取ったと思っていたギーラは少し驚いた表情を浮かべた。

 そしてその光が徐々に小さくなり、消えたときには元の場所からレノンはいなくなり、3本の槍が地面へと落下した。


「……無茶しやがって……死んだら元も子もないじゃないか」


 耳元でした声にフレンは少し顔を上げた。


「レノン様……?」


「あぁ、レノン様だ。おいキツケ!速攻でフレンをスラメのところまで連れて行け。死なせたら許さん」


 そう言ってレノンはフレンの腕を掴む鎖を手刀で切り、キツケに託した。


「はっ!行きますよフレン」


 フレンを抱えたキツケが本陣の方へと素早く移動を開始した。


「……どうやって脱出した。いやなぜ私の鎖を切ることができるのだ?そんなことは出来るはずがない!」


 明らかに動揺したギーラがそう言った。


「なにをおかしな事を言っているんだ。この程度手刀でたやすく切ることができるわ。ただ流石に両手両足を縛られた状態では使えんかったがな」


「なっ……!!しかしではどうやって抜け出したのだ」


「それはな……」


 レノンは一呼吸おいて言い放った。


「お前に対する殺意だよ」


「……殺意だと?そんなものただの感情ではないか。そんなもので破れるものか!!」


 ギーラはレノンの言った事を一切信じようとはしなかった。

 常に己の力で戦い勝利を掴んできたギーラからすれば感情程度で己の力が左右されるなどありえないことと、そんなもので何かが変わると言うのは弱者の戯言だとそう信じてきたからだ。

 しかし今目の前に立つ、自分の力を破った男が感情によるものだと言うのだ。


「俺はな、この戦いにおいて十二翼をただ1人を除いて誰も殺さずに手に入れる予定だったんだよ。しかし、俺の大切な部下の土手っ腹に槍を……しかも二本も突き立てた奴がいるんだ。そいつを生かしておく理由がどこにある?故に俺はお前に殺意を抱いた。そしてその殺意を力に変換した。感情には力がある。人間だろうと魔族だろうとそれは変わりない。それを信じることができないお前は……本当の強さを手に入れることは不可能だ。そして今からお前はここで一度死んでもらう」


「死んでもらう?この私に?はっ!笑わせるな!!感情などに左右される貴様に私が殺せるはずがないだろう!!私が本当の強さを手に入れていない?そう思うのならば証明して見せよ!!私と貴様のどちらが正しいか!!」


 そう叫び、自分の周りに8本の槍を再び浮上させ構える。


「後悔してももう遅いぞ」


 レノンは聖剣デモンズバニッシャーを手に取り、構える。

 2人の間を風が通り抜け、それを機にレノンが地面を蹴った。


「二本、アタック!!」


 一直線に突っ込んでくるレノンに対してその軌道上に槍を飛ばした。

 レノンはそれをジャンプで回避するが通り過ぎた槍は後方で向きを変え、上空のレノンに襲い掛かる。

 そして先程と同じようにギーラのチェインの掛け声で再びレノンの手足を捕らえた。


「2度も同じ手にかかるとは余程のバカなのか?」


「そう思うか?」


 ギーラは背中に痛みを感じた。

 そして声の方を振り返るとそこには上空で繋がれているはずのレノンが立っていた。


「な、どうして!?貴様は確かにあそこで……影?」


「そうだ、これはキツケに与えた能力分身だ。キツケに与えた能力を俺が使えないのはおかしな話だろう?そして……こい!二本の槍よ!!」


 レノンがそういうと、先ほどまでレノンの分身体を捉えていた鎖が槍の形状に戻り、ギーラに向かって飛び始めた。


「なぜだ!なぜ私の槍が言う事を聞かない!!」


 向かいくる槍を操作しようとするが、全く言う事を聞かず、結局目前まで迫ったところで別の槍で打ち落とした。


「これがフレンに与えた能力魔力支配。あの二本の槍はすでに俺の支配下にあったと言う事だ。……まぁ、今お前の周りに浮いているそれも支配しようと思えば簡単にできるが、それだとあまりにも面白くないだろう?だからしないでおいてやる」


 自分の武器を支配されたどころか、手加減されている事にギーラはこれまでにないほど怒りの表現を浮かべた。


「許さん。許さんぞ!!私を舐めた事絶対に許さん!!複製複製複製複製複製複製複製複製複製………!!」


 ギーラは背面に大量の槍を出現させ始めた。

 その数パッと見ただけでも百はあるだろうか。


「これぞ私の究極にして最大の奥義、『無限の槍ランスオブリミテッド』。これで貴様には逃げ場はない。無数の槍で串刺しになるがよい!!いけっ!!」


 ギーラの掛け声で一斉に槍が放出された。

 全方向上も正面、背面、側面全てを塞ぐように槍はレノンを突き刺しにかかる。


「未だかつてこの槍を躱せたものはひとりとしていない!!自分の愚かさを悔いながら死ぬがいいわ!!」


「見事だギーラよ。しかし俺を誰だと思っている?俺は魔王だ。この程度で死ぬほどやわではないわ!!デモンズバニッシャー能力解放!!悪魔の槍を全て撃ち落とせ!!」


 剣が紫色の光を放ちながら、襲いくる槍を撃ち落し始めた。

 火花を散らしながら、ありえない速さで振るわれる。

 その光景にギーラは唖然とした。

 そんなバカな……と。


 そしてものの数秒ですべての槍は地面に落ちた。

 そして地面に散らばる槍の中央部に腹から血を流しながらその男は立っていた。


「バカな!!私の奥義をくらっておきながら未だ立っているだと!?ありえん!!」


 その声にレノンはニヤッと笑い、


「流石に無傷とはいかなかったがな。身体中かすり傷だらけだ。せっかく治ってきていた腹の傷も開いてしまったみたいだしな」


 かすり傷だらけだだらけ………

 つまりは一本もレノンを捉えることはなかったと言うことだ。

 そしてギーラは思い知った。

 こいつは……レノンは強さの次元が違うと。


「さて、ギーラ。覚悟は決まったか?」


 バキバキと言わせながら近づいてくる足音にギーラは膝をついた。

 もう手がないのだ。

 複製を多用する無限の槍は大量の魔力を使う。

 故にギーラにはもうすでに戦えるだけの魔力が残っていないのだ。

 今あるのはオリジナルの槍が手元に一本だけ。

 いくら槍の名手であるとはいえこんな化け物相手では敵うはずがない。

 そうギーラは詰んだのだ。


「私の……負けだ……」


「そうか、ならば一度死ね」


 ザシュ!!


 レノンは容赦なくギーラの首を刈り取った。

 そしてその首を掴み掲げた。


「よく聞け皆ども!!たった今十二翼最強の男ギーラはこの俺が討ち取った!!他の十二翼もほぼ壊滅している!!それでもなお戦いを続けるか!?それとも今すぐ戦いを止め、俺に従うか、選べ!!!」


 高らかにそう叫んだ。

 そして間もなく


「「「我ら魔王様に忠誠を誓います」」」


 ガラデ平原にその声が響いたのだった。

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