第7話ワンズ戦I
「うらうらうらぁぁ!!!」
ワンズは自慢の脚力を生かし、レノンの死角に飛び入って拳の連打を叩き込み距離を取る戦法をとっている。
「へっ!どうしたよ魔王様!!俺の速度についてこられないのか?ほら左側が隙だらけだぜ!!」
先程まで正面にいたはずのワンズが一瞬でレノンの左側に現れ拳を叩き込む。
レノンは回避することが出来ず、腹部に打撃を食らう。
ワンズの拳はそれなりに重い。
それを一度に数発食らうから骨が折られるのではないかと錯覚する。
(さっきまで感じていた威圧感が一切感じられねぇ……全く別人を相手にしてるみたいだ……これなら俺でもやれる、やれるぞ!)
再びレノンの正面にワンズが現れる。
「なぁ魔王様よ、さっきまでの魔力や威圧感……ありゃ張りぼてか?実際に戦って思ったが弱すぎるぜあんた。魔王を語るんなら俺の速度くらいはついてこいよな!」
ワンズはニヤッと笑いながらレノンを煽る。
それもそのはず。
今まで何度かレノンも反撃をしているがワンズを捉えることはおろかカスリもしない。
「いくらあんたが強力な力を持っていようが当たらなければ意味がない。俺の速さならあんたを回避することは全くもって容易すぎる。魔法も然りだぜ。あんたの速さじゃ俺には勝てねぇ」
そう言いながらワンズは右足に力を入れ地面を蹴り、レノンの頭上から脳天に向けて踵を打ちおろす。
(は!頭上に俺がいることに気づいてねぇ!)
消えたワンズを探すように立つ魔王の脳天をワンズの踵が捉えた。
「っしゃああぁら!!」
そして勢いのままレノンを地面に叩きつける。
地面にクレーターが出来るほどの威力だ。
直撃で食らったレノンはひとたまりもないだろう。
バックステップでその場から離れたワンズは、地面に埋まるレノンを見下げ、
「これで俺の勝ちだな……!魔王様を語るんならもっと魔法以外も鍛えてからくるんだな!俺たち十二翼にその程度の実力じゃ勝てないぜ」
と言い放つ。
こんな奴にビビっていた自分が少し馬鹿らしくなった。
最初に感じたあれは本当になんだったんだ?
まるで別人じゃないか……
「ワンズ兄!!後ろだ!!」
「あん?」
クミンの声に背後を振り返ると……地面に埋まっていたはずの魔王が立っていた。
そして俺の頭をつかもうと手を伸ばしていた。
「…っくそ!」
瞬時の判断で地面を蹴り、後方にジャンプすることでその手を回避し、自分が作ったクレーターの中に着地する。
「どうなってやがる!?俺は確実にあいつの脳天を捉えた。そう簡単に立ち上がれるはずが……ん?」
着地した足場に何か違和感を感じた。
何か硬いものを踏んでいるような……
ワンズが足元を見るとそこには……
「……ドゴラ?」
青い人型の龍が地面に埋まっていた。
レノンを埋めた場所に寝ていたのはなんとドゴラだった。
そしてワンズは気づいた。
「まさか!?」
「あぁその通りだ犬っころ!!」
音もなく現れたレノンにワンズはあえなく捕まってしまった。
「くそっ!きたねぇぞ!!身代わりなんか使いやがって!!」
「なにちょっとドゴラが素手でどれくらい戦えるか実験しただけだ。……まぁ結果はてんでダメだったけどな。ドゴラ素手で戦うのは苦手みたいだな。槍を持てばそれなりなんだけどな」
「はぁ!?意味わかんねぇよ!ドゴラを素手で戦わせてなんの意味が……ってんなこたどうでもいい!雄と雄の戦いに身代わりなんて卑怯だろ!正々堂々と戦いやがれ!ってか離せ!!」
レノンに頭を掴まれ状態でジタバタ暴れるが一向に離れる気配はない。
「……暴れるなよ犬っころ。俺もまだ魔王になったばかりでよ……力の加減難しいんだわ。だからそれ以上暴れると……頭がどうなっても知らんぞ?」
言葉とともに放たれた威圧感……!
間違いねぇ!!始めに感じたのはこれだ!
くそっ!また体が硬直してきやがった!
戦う前に急に震えが止まったのも……こいつとドゴラが入れ替わったからなのか!?
俺の覚悟とか関係なかったのか!
「さて犬っころ……話してもらおうか。なぜ急に吸血鬼族を襲撃した?先代魔王が倒れた今魔族は協力し合うとかではないのか?」
「…んなことどうでもいいだろう……お前にはかんけいったたたたぁ!!!」
頭を掴む力が増した。
間違いなく頭蓋骨が軋んでいる。
「もう一度聞くぞ。なぜ吸血鬼…『ワンズ兄を離せ!!』」
言葉を遮るような声とともにレノンの背中に蹴りがヒットする。
レノンはビクともしなかった。
しかし唐突な出来事にワンズを掴んでいた手の力が抜けた。
(今しかねぇ!!)
ワンズはレノンの腹部を両足で蹴り、頭を掴んでいた手から解放される。
そして一回転したのち地面に着地した。
「…はぁっ…はぁ…」
まだ頭は痛むがとりあえずは脱出できた……
「……ナイスだクミ…………ン?」
地面を向いていた頭をあげると目の前には……両足を掴まれ逆さ吊りの状態で魔王に持ち上げられたクミンの姿だった。
「兄を助けるために飛び込んでくるとは見事な兄妹愛だ。しかしながら俺は今大事な話をしている途中だった。それを邪魔したらどうなるかわかるか?」
「……どうなるって言うのさ?私を殺す?やれるもんならやってみなよ!」
無理矢理に作った笑い顔でクミンは強がってみせた。
「……ならば望み通りにしてやろう……恨むなら吸血鬼族を襲撃し、俺をここに呼ぶこととなった兄を恨むんだな」
「恨まないよ。ワンズ兄の行動は私たちのことを考えてのことだから。それに戦場に来てるんだからいつでも死ぬ覚悟はできてる」
(そんな今にも泣きそうな目で何を言ってるんだクミン!!これ以上そいつを煽るな!!本当に殺されるぞ!!)
そう声に出そうとした時、吊るされたクミンが空へと放り投げられ………魔王が放った一筋の紫色の光につつまれ……クミンは跡形もなく消滅した。
「……あ…………あぁ……………」
空を舞いクミンが首につけていたスカーフの切れ端がワンズの目の前に落ちた。
ワンズはそれをそっと拾い上げ、胸に抱きしめた。
「………ああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
うずくまり叫ぶワンズに
「おい犬っころ……お前が弱いせいで妹が死ぬことになったぞ?悔しいか?俺が憎いか?」
非道にもレノンは妹が死んだのはお前のせいだと言い放つ。
「………ねぇ………」
「あ?なんか言ったか?」
「……ぜってー許さねぇ!!!!殺してやる殺してやる殺してやる!!!!」
涙を流しながらワンズは立ち上がった。
「……今度はちゃんと俺が相手をしてやる。お前の最強をもってかかってこい!!」
「言われなくてもなぁ!!!『狂獣化』!!!」
ワンズの体に黒い刺青のようなものが浮かび上がり目が血走る。
「俺の最強をもってお前を……殺す!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます