第19話模擬戦③

 

 マホとフレンの戦いから30分後、ようやく気絶から目覚めたドゴラとワンズ。


「いってぇ……いったいなんで俺はあんなにもムラムラとしていたんだ……?しかもフレンに飛びつく勢いで」


「それはフレンの誘惑の魔法によるものであろうな。我も我を失っていたぞ…….」


 正気に戻った2人は先の行為を恥じているようだ。


「まったくもう!今度からは気をつけてよね!私はサキュバス族だけど誰にでも体を許すわけじゃないんだから!私が許すのは魔王様のみなんだからね!」


 腕を組みプンプンと怒るフレン。

 あんな強力な誘惑魔法を使うフレンも悪いと思うのだが……まぁいい。


「誰にでもぉー、尻尾ふってるぅ、サキュバス族が言ってもぉ、説得力ないよねぇー」


「ああん?黙ってなよマホ。また泣かされたいのかなぁ?」


「はぁー?ないてないしぃー。たまたま勝ったくらいでぇー調子ならないでほしいんだけどぉー」


「そう思ってればいいよ。でも早く気づきなよ。私とマホの間に開いた差にさ」


「コロスコロスコロスコロス」


「おーいマホ?語尾わすれていますよぉー?」


 ……そろそろ止めるかな。

 いい加減にしてほしいものだ。

 俺の拳のこともそろそろ気にしてほしいものだ。


 ゴツンゴツン!!


 そして再び30分後。


「よしでは最後の試合といこう。ワンズ、キツケ準備しろ」


「おう」

「ええ」


 2人はリングに向かった。

 そして向かい合う。


「おいキツケ!瞬殺じゃつまんねぇだろうから、手加減してやる。俺は2割程度の力しか出さねぇから安心しろ」


 こいつら戦う前は煽り合わないと気が済まないのか?


「いいのですか?ワンズの2割は私の1割の力よりも弱いのではなくて?」


「何いってやがんだ?お前少し前の戦いをもう忘れたのか?人狼族の俺たちにボコボコにされたのはどこの種族だったか?」


「不意打ちで勝ち誇るのって恥ずかしくないかしら?真っ向勝負したら私に勝てると思う?ワンズじゃ無理無理!だって犬だものね」


 アッハッハと笑うキツケにワンズは顔を真っ赤にした。


「あー、そろそろ始めても良いか?」


「おー、いつでもいいぜぇー。殺す準備は万端だ」

「ええ、こちらも殺す準備はできています」


 だから殺すなって。

 まぁ殺しそうになった手前で止めればいいか。


「では、始め」


 こうしてワンズとキツケの戦いの火蓋は切って落とされた。


 ◇◆◇◆


「上空にいれば安全圏内と思ってないだろうなキツケ!」


 開始と同時にマホの時と同様、キツケは上空に飛び上がり、ワンズに向けて魔法を飛ばしている。

 ワンズは持ち前の身軽さでそれを全て回避。

 今のところは思ったよりも激しい戦いは繰り広げられていない。


「ええ、思っていませんよ。ですが、あなたはこの高さまで上がってくることも、上空で飛び続けることも出来ないでしょう?悔しかったら翼でもはやしてくるのね」


「上等だ!じゃあ見せてやる。翼がなくても飛べるってところをな!」


 そう言ってワンズは飛び上がった。

 そして空気を蹴り、キツケに向かって駆け上がる。


「ふふっ、ワンズ。あなたも単純よね。挑発にすぐのっちゃうんだがら」


「なんだとっ!………!!」


 キツケが指をパチンと鳴らすとワンズが蹴った空気が破裂した。

 とっさのことに体制を崩したワンズだったが上空で受け身をとり、再び空気を蹴る。


 バンッ!


 再びワンズの足元が破裂した。

 今度は高さがあまりなかったせいで、そのまま地面に落ちる。


「だから言ったじゃない。ここまで上がってくることは出来ないとね。所詮犬は犬。大人しく地面で這いつくばって生きているといい」


 地面に落ちたワンズを見下ろし、キツケが高笑いをする。


 俺はリング上空に目を向け、魔力感知を発動した。

 するとキツケの少し下の空間には無数の小さな魔法陣が張り巡らされていた。


(なるほど……トラップか。おそらくあれは振動を感知して発動する魔法だろう。あの状況ではワンズは空気を蹴ってキツケに接近することは不可能だ。)


 しかも小さな魔法陣に反してあの威力を出せるのか。

 どうやらキツケは魔力操作に関してはかなりの腕があると見える。

 さて、どうでるワンズ。

 お前の得意の足技は封じられたぞ?


「さぁ、何も手立てがないワンズくん?早く降参しなさい」


「は!ちょっと手を抜いてりゃすぐ調子に乗るな、キツケ」


「負け惜しみですか?あなたはすでに詰んでいるのですよ。悔しかったら私のトラップを掻い潜ってここまできてみなさい」


 圧倒的に優位な立場にいると確信しているだけにキツケは上空からワンズを煽り立てる。


「まぁ、最初に謝っとくわキツケ、少しお前のこと舐めてたみたいだわ」


「なんです、気持ちが悪い……えっ?」


 キツケがそう言った時にはすでにワンズは地面から姿を消し、キツケのすぐ後ろに姿を現した。


 ドドドドドッ………!!!!


 遅れて魔法陣が発動し、その登場を彩っているかのように演出する。


「こっからは少し本気を出すわ……ほらよ!!」


 から空きの背中にワンズは拳を一線。

 キツケは上空から一気に地面に叩き落とされた。


「なっ……私の魔法が発動するよりも早く駆け抜けたとでもいうのか……!いや、それ以前になぜお前は私のいる高さまで飛ぶことが……狂獣化か!!」


「もともとは使うつもりなかったけどな……使わせたことを褒めてやるぜキツケ。しかしまぁどうよ?見下ろしていたはずが見下ろされている気分はよ?」


 ワンズは地面にめり込んだキツケを踏みつけ、すごく嫌な顔で見下ろしている。

 あー、あれさっきまで相当悔しかったみたいだな。


 キツケは抜け出そうと体に力を入れるが、狂獣化したワンズの力には到底叶うはずもない。


「あー、なんていうんだったかなキツケ。相手にもう勝てないと思ったときは?」


 煽るなぁワンズ。

 しかしこれはもう勝負ありだろう。


「舐めるなよワンズ……まだ手はいくらでもある!」


 そういうとワンズの足元からキツケが消えた。

 いや違う。そこから数匹の蝙蝠が現れた。

 なるほど、自らを蝙蝠の姿に変え、脱出したか。


 そして再び空に飛び上がった蝙蝠が集結しキツケの姿に戻る。


「はぁ……はぁ……どうだワンズ。形勢逆転だ。再び私は空へと戻ったぞ。すでにさっきよりも発動速度の速い魔法陣も展開している。簡単に私の背後に……いい!?」


「知ってんぜキツケ。お前分裂を使った後は大量の魔力消費をしてしまうって弱点があることぐらいな!あとな、俺の速度をあの程度と思ってもらうと困る。まだ上がるぞ?それこそお前の魔法陣が感知できない速度までな!!」


 上空のキツケの後ろに瞬間的に現れたワンズ。

 魔法陣も一切反応を示していない。

 そしてキツケのガラ空きの背中に……


「こいつで終わりだ!!キツケ!!」


 拳を一線。


「お前もなぁ!!」


 ワンズの拳がキツケの背中を捕らえた瞬間、背中に大きな魔法陣が現れた。


「なっ!」


 とっさに離れようとしたワンズだがすでに体が動かないことに気がついた。


「残念だったなワンズ。私の本命の魔法に気がつかないとはな!お前が背中を再び狙うことくらい読んでいたわ!」


「ちょ、待て!この魔法!お前まさか……!!」


「ああ、その通りだよワンズくん。勝てないなら負けないようにすればいいんだよ!!」


 ドゴーンッ!!


「「あああああああーー!!!」」



 上空で2人が破裂した。

 なんという幕切れ……

 最後はキツケの自爆魔法で相討ちとなるとは……

 きたないぞ、きたないぞキツケ……


 ◇◆◇◆


 破裂して傷だらけになった2人は今仲良くスラメの中で治療中だ。


「ゴボッ!ゴボボボボっ!(テメェ!きたねぇぞ!!)」


「ゴボボ!ゴボボボボボボボゴボ!!(バカめ!これも作戦のうちだ!!)」


 スラメの中で2人が再び取っ組み合いを始めようとしている。

 しかしスラメの中なので思うように身動きが取れないようだ。


「ちょっと2人とも大人しくしてよ!!治療に専念できないじゃないか!!」


 スラメがそう訴えるが仲の2人はやめる気配がない。

 ゴボゴボ言いあって暴れている。


「もうっ!大人しくしてって言ってるでしょ!!」


「「ゴボボボボボボボ!!!」」


 スラメがそう叫んだかと思うと、中の2人が急に静かになった。

 というかまたまるこげになって白目を向いている。


「スラメ……何したんだ?」


「僕の体内で電気を作って2人の体に流し込んだんだよ!!」


 もうスラメは万能スライムすぎる。

 そして2人は治療が、終わるまで目覚めることはなかったのだった。

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