第31話そして世界を支配する
あるところで黒い塊から上がる悲鳴がやんだ。
アクネラ曰く、子供たちには毒がありその毒が体に回って声が出なくなったのではないかとのことだった。
しかし意識は残っていて、痛覚は鈍らないので痛みは感じているらしい。
考えるだけで地獄だな……
処刑開始からものの数分で子供たちは分散し森に帰っていった。
そして上空からはゴズの亡骸……というか骨が落下してきた。
肉はきれいに食べ尽くされており、白い骨だけが地面に落ちて砕けていた。
「ああ、子供たちのあんなにも満足した顔を見るのは久しぶりだわ……」
なんだかうっとりしているアクネラ。
顔って……ほぼ一緒で全く見分けがつかなかったのだが?
親にしかわからない……というか同じ種族にしか分からないものなのだろう。
アクネラは帰っていく子供たちの中から2、3匹を手に乗せ、俺の前に連れてきた。
「ほら坊やたち。お礼を言いなさい。美味しいご飯をありがとうって……」
そう言うと手の上で小さな蜘蛛たちがペコっと頭を下げ、そしてアクネラの手のひらから降りて森へと帰っていく。
「ごめんなさいね……坊やたちはまだ生まれて間もないから、喋ることができませんの。でもとても感謝していたみたいですので許してあげてくださいませ……」
「あ、ああ。もちろんだとも。大儀であったぞアクネラよ」
「はい……また必要がありましたらいつでもお声掛けくださいね。坊やたちも喜びますから」
「………頼りにしているぞ」
うん。多分顔を引きつらせずに言えたと思う。
頼りにしているのは本心だが、もうあの光景は見たくない。俺にはキツすぎる。
しかしもう脳内にきっちりと刻み込まれてしまったよ……
とまぁ、そんなことはさておきもう一つやることがある。
それは今おそらく陣の中で、無邪気に菓子でも食ってるであろう奴の処遇だ。
彼女は結局のところ魔王が死んで、世襲的に魔王になろうとした、もしくはゴズに唆されて魔王になろうとしただけの者にすぎない。
しかしこの戦いを引き起こした軍の長であると言うことには変わりないのだ。
そんな者を無罪放免にしていいものか……
いや、今後のことも考えればそれは良くない。
何かしらの罰がなければ、示しがつかないだろう。
ではその罰の内容は?
処刑はあまりにも重すぎると思う。
それは他の奴らからも意見が出るだろう。
じゃあ彼女が一番嫌がりそうなことをするとか……
いけない、1週間お菓子抜きとか可愛いものしか出てこない。
……仕方ない、あいつに任せるか。
「誰でもいい、メムをここに連れてきてくれ」
そう言うとワンズが部下に指示してメムを呼びに行かせた。
ちなみに今メムの世話はクミンがしている。
なのでがワンズが動いたみたいだ。
しばらくするとクミンに連れられたメムが俺の前に立った。
魔王になろうとしたものとは言えまだ子供。
これだけの大人……しかも十二翼の連中に囲まれて今にも泣きそうな顔になっている。
「メムよ……」
「ひ!!ななな、なんなのだ!!」
俺が声をかけただけで驚いてのけぞってしまう。
……本当にやりづらいな……
「今回のことどう責任を取るつもりだ?」
「せ、責任……とはなんなのだ……?」
俺は頭を抱えた。
まさか責任すら分からないのか……
魔王……自分の娘に甘すぎるんじゃないか?
………まぁいいけどさ。
「メム様、この新しい魔王様に逆らった罰のことですよ」
「なんだそんなことか!!……ん、そち今何かおかしなことを言わなかったか?新しい魔王がとか。新しい魔王になるのは妾であろう?」
ため息まで出てしまった。
この状況でまだそんなことを言っているのか。
……正直もうめんどくさくなってきたぞ。
「メム様、あなたはこの方に負けたのです。だからあなたはもう魔王にはなれません」
「そうなのだ?じゃあ妾はどうなるのだ?」
「それを今から決めるんだよメム。……まぁ決めるのは俺じゃないがな」
俺がそう言うとメムだけではなく、他の連中もどう言うことだ?と言う顔を浮かべた。
理解できなくても仕方がない。
こればかりは未だ俺しか知らないことだから。
……じゃあ一旦任せるぞ。
俺は目を閉じた。
そして意識を奥深くに沈め、俺の中のある男の魂に呼びかけて、そして意識を切り替えた。
すると俺の意識はパッと途絶え、次の瞬間には
「……久しいな皆なども」
その男が意識を取り戻した。
「どうした、皆驚いた顔をして?何かワシの顔についているか?」
「レノン……様?」
フレンがそう言うも、男は首を横に振る。
「……もしかしてワシが誰だか分かっておらんのか?ワシはレノンではない。お前たちの主人であるグラウス・ロア、魔王の帰還であるぞ」
玉座で足を組み、手すりに肘を置いて方杖をつくその男はレノンが倒したあの魔王だった。
体はもれなくレノンのものだが、あの口調は前魔王そのものだ。
それに気がついた連中は全員が膝をつき、
「「「ご帰還おめでとうございます」」」
声を揃えてそう言った。
魔王は手を上げそれに応え、そして全員に表をあげさせた。
「帰還ではない。一時的にレノンに体を借りているにすぎんよ。しばらくすれば元に戻る。しかしレノンから頼まれごとをしてな……仕方ないから手伝ってやることにした。……さてメム、父に何か言うことはあるか?」
グラウスがそう言うとメムは走りだし、グラウスむけて飛びついた。
「父上!!お帰りなのだ!!」
父の膝の上にのり、腰に抱きつく。
「おー、よしよし。ワシの可愛いメム」
頭を撫でながら、甘い声を出す。
「ごめんよ。メムを残して死んじゃって。父上がんばったんだけど英雄には勝てなかったんだ。寂しかったろう?」
「寂しかったのだ……うわーん!!」
膝の上で泣き始めた娘をヒシっと抱きしめ頭を撫で続ける。
それを見ても部下たちが何も思わないのは、生前よりいつもこんな感じで、見慣れた光景だからである。
ああ、魔王様が本当に戻ってきたのだと。
しかしグラウスはしばらくめでた後、自分の膝の上でメムを横抱きにしこう言った。
「メム、父はレノンに頼まれたことがあるんだ。今からそれを実行しなければならない。だから……許してくれ」
そう言ってメムの履いていた短いズボンをパンツごと脱がせ、その丸出しになった尻に向かって
「ふんっ!!」
バシっ!!
「いたいのだ!!」
尻叩きを実行し始めた。
しかも1回2回の話ではない。
その後しばらくの間、ビシンビシンと尻を叩き続けたのだ。
そこで皆はっきりと理解した。
ああ、これがメム様への罰なんだ
と。
「ゆるじでちぢうえ!!お尻がいだいよぉ……」
泣きながらそう言うが、グラウスは手を止めない。
そしてビシンという音が100回に達したであろう頃ようやくその手が止まった。
メムはワンワン泣き叫び、グラウスは手を振っている。
流石に100回は疲れたのだろうか。
ふぅと背もたれによりかかった。
「お疲れ様でした魔王様」
すっと差し出されたお絞りで手を拭く。
「罰の内容は俺じゃ決められないから、父であるお前が決めろとレノンから言われてな。少し厳しすぎるとは思ったが尻叩き100回を罰にしようと決めたんだ。……なんだ、厳しすぎたか?」
「「「いや、甘すぎるだろ!!!」」」
とは誰も突っ込めない。
まぁそれでメム様が反省するのならばそれでも良かったのかもしれない。
「さて、用事も済んだことだしワシは帰るとするかな」
「何故ですか魔王様!!そのまま魔王様の意識のままでいれば良いではありませんか!!魂ごとのっとってしまえば魔王様は復活できるはずです!!」
オーガ族長オルグがそう言った。
他の奴らも口には出さないが、頷いたりしている者もいる。
「だからさっきも言ったように、ワシがここにいられるのは少しの時間だけなんだよ。魂を乗っ取るなどワシにはできん。もうそんな力は残っておらん。今のワシは確実にお前たちよりも弱いからな」
「しかし……」
「くどいぞオルグ」
そう言われて、オルグは口を閉ざした。
力はなくなったとは言え、威圧感は当時のままなのだ。
「まぁ……レノンはまだ魔族になって日が浅い。だからお前たちでしっかり支えてやってくれ。こいつの中には相当の人間に対する復讐心がある。人間に取られた領土もこいつなら取り戻してくれるはずだ。だから頼んだぞ」
「「「魔王様の仰せのままに!!!」」」
全員が再び膝をつき頭を下げ、そう言った。
そしてグラウスは膝の上で伸びるメムの頭を撫で
「メム……これからはレノンの言うことをしっかり聞くんだぞ?あとしっかり勉強して立派な魔族になってくれ」
「父上……もういくのか?また会えるのだ?」
「ああ、メムがいい子にしていればまた会えるさ」
「分かったのだ!!」
最後にメムのとびきりの笑顔を見たグラウスは満足そうに微笑み、そして深い眠りへと落ちていった。
「っと、終わったか?……で、なんで皆俺に向かって跪いてんの?」
意識を取り戻したレノンは目の前の光景に少し驚いた。
「レノン様……これより我ら全種族はあなたを魔王と認め従います。ご指示を」
ギーラが全員を代表してそう言った。
指示か……そうだな。
「よし、これより俺たちは人間によって奪われた領土を取り戻すために活動を開始する!!歯向かうものは殺せ!!我らは魔族、容赦など一切するな!!世界を混沌へと染め上げるのだ!!」
「「「おおおおおおおおおおーー!!!!」」」
今までの何倍にも増えたその歓声がガラデ平原に響き渡った。
こうしてレノンは魔王軍の統一を完了した。
これより先は人間との戦い。
……待ってろよクズどもが!!
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