第4話娘派と金髪
「なぜ、私の招集に応じぬのだ!」
牛魔族の長であり、魔王の娘派筆頭のゴズはダンと自室の机を叩いた。
新たな魔王が現れたとの情報が入ってすぐに各種族に使いを出したが、ゴズの招集に応じたのは、オーク族と鳥人族の2種族だけだった。
「これでは私の計画が狂ってしまうではないか!!」
未だ偽魔王の拠点も探してはいるものの見つかってない。
いったいどこに隠れているのか。
フレンから使者が来たらしいからな。
おそらくサキュバス族が匿っているのだろうが、あいつらは決まった領地を持ってない。
彼女たちが経営する全ての店も探したが結局見つからなかった。
「ゴスさん本当に大丈夫なのか?」
自分の机の前に立つ緑色のゴブリンがそういった。
「ゴブル…何が言いたい?」
「ゴズさんについていて本当に大丈夫かって意味だよ」
「貴様…何が不安だというのだ?私についておきながら文句を言うとは何事だ!?」
「勘違いしないでほしいんだが…俺たちがゴズさんについたのは、魔王を名乗ってる奴に個人的な恨みがあるからだ。別にゴズさんの配下になったつもりはない。ゴズさんもどうせメム様を使って傀儡政権を作るつもりなんでしょ?俺たちは恨みを晴らせればそれでいいし、政権とか興味ないからゴズさんに付いているだけだからな」
ゴブルがはっきりそう言うとゴズは顔を真っ赤にして怒りをあらわにした。
そしてゴブルに掴みかかろうとした時、入口の扉がノックされた。
「ゴズ、入ってもいいのだ?」
「……どうぞ」
ゴズは自分が座っていた椅子に座りなおし来訪者を迎えた。
「どうなさいましたか、メム様?」
彼女は亡き魔王様の娘である。
威厳のかけらもないただの子供。
こんないかにもバカそうな、いや実際に騙されやすいバカなのだが、我らに正義があると示すためにはかなり有用な道具だ。
「そろそろ使いたちがもどって来ているからだと思おてな。どうなのだ?皆妾につくと言ってるのだ?」
「もちろんですともメム様!皆魔王様の娘であるメム様に悲願を達成していただきたいと申しておりますぞ」
ゴズは当たり前のように嘘をついた。
「そうかそうか!じゃあゴズ、皆をしっかりまとめて人間から魔王領を取り戻すのだ!!」
バカは本当に騙しやすい。
こんな嘘をなんの疑いもなく信じるのだから。
「はっ!このゴスにお任せください!必ずやメム様を魔王にし、この世界を混沌へと変えてみせましょうぞ」
「よろしく頼むのだー!あ、そういえば最近お父様の部屋があった最上階に入れなくなってるのだ……何か知らないのだ?」
「と、言いますと?」
「それがこの間お父様の部屋に行こうとして階段をあがったの。でもなぜか上に上がれないというか、階段を上がっても、もとの階に戻っているのだ。不思議なのだ」
どうせまたくだらない話だと適当に聞き流そうとしていたゴズだったが、メムの言った言葉に1つ思い立ったことがあった。
「なるほど…分かりました。調べておきましょう」
「頼むのだ!じゃあ妾はおやつの時間だから帰るのだー!」
メムが出て行った扉が閉まる。
「ふ、ふふ…ふはははは!!」
「どうしたんですか、ゴズさん?」
突然笑い出したゴズに、ゴブルが驚いた顔で聞いた。
「いや、なに灯台下暗しとはこのことだと思ってな。まさかあれだけ探しても見つからなかった偽魔王がこの城の中にいるとは思わなかったぞ!」
「まさか…最上階にいるとでもいうんですかい?」
「おそらくな。しかし舐めたものよな。敵の拠点内に自分の拠点を築くなど」
全く愚かな奴だ。
ここは貴様にとっては敵だらけの場所だ。
そんな場所に拠点を築くとは。
よほどの自信家か、もしくはバカか。
「攻めるのか?」
「もちろん攻める。ゴブル、仲間たちにも連絡しておけ。態勢が整えば偽魔王をやるぞとな!」
「了解だ。他の種族にも伝達しといてやる」
「ああ、頼むぞ」
ゴブルが部屋を後にする。
ゴズは笑いが止まらなかった。
なにせようやく偽魔王の居場所もつかんだのだ。
奴がどの程度戦力を揃えてるかは知らないが、攻めるなら早い方がいいだろう。
しかしもう一つ何か……決定的な何かが欲しいところではある。
いくらバカとはいえ、魔王を名乗っているのだ。
それなりに警戒するのは間違っていないはずだ。
だが、この元魔王軍最強の私にとって誰が相手であろうと関係はない。
捻り潰してくれるわ。
不気味な笑い声が部屋に響くのだった。
◇◆◇◆
龍族の里から魔王城に帰還すると驚きの光景が目に飛び込んできた。
「………えっ?スラメ?」
なんとスラメがメリザを体内に取り込んでいたのだ。
「何してんだよ!!」
スラメが俺を裏切っただと!?
こんな短期間で?
まさか、このために俺のところに送り込まれてきたとでも言うのか!?
俺は右手に力を集中させる。スラメを消し去るために。
「魔王様!ちょっと待ってください!」
「止めるなフレン!!」
俺の右手を引っ張ってその攻撃を静止しようとするが、フレン程度の力で俺を止められるはずがない。
俺の大切な妹に手を出したのだ。
消されるだけで終わると思うなよ。
それでもなお攻撃を静止しようとするフレンが、
「違います!スラメはメリザ様の傷を癒しているのです!!」
そう言った。
「……なんだと?」
スラメが体内からメリザを吐き出した。
メリザの体を見ると、痩せこけたままではあるものの、あらゆる場所にあったあざや傷がなくなっていた。
「スラメお前…」
「ごめんね…びっくりさせちゃったね。メリザちゃん身体中傷だらけだったから気になっちゃって……でももう大丈夫だよ!流石に痩せてるのを元に戻すことは出来ないけどね……」
人型に戻ったスラメが少し照れながらそう言った。
「いや、こちらこそすまなかった。まさか治療をしてくれているとは思わなかった。感謝するぞスラメ」
スラメの頭を撫でるとえへっとスラメが笑顔を浮かべた。
こんなにも心優しい奴を消そうとしていたのか……
少し反省だな。
「ま、魔王様…それがあのスラメなのですか!?」
ドゴラが驚きの表情を浮かべた。
それもそのはず。
能力を手に入れたからこそスラメは人型になれるようになったわけで、ドゴラ自体はこのスラメに会うのは初めてだ。
「そうだが」
「やぁドゴラ!人型スラメだよ!よろしくね!」
スラメがドゴラの手を掴みブンブン振る。
「あ、ああ。よろしく…ところでスラメ?なぜ人型になれるようになったのだ?」
「魔王様に能力をもらったんだ!今の私は何にでも変化できるんだよ!」
「なんと…ま、魔王様!!」
ドゴラが俺に飛びついてきた。
少し気持ちが悪い。
男に……しかも見た目トカゲみたいなやつに飛びつかれた日には嫌な顔をしても怒られないと思う。
「なんだよ」
「我にも力を授けてはもらえませんか!?」
ドゴラが頭を下げる。
しかし俺はそれを即拒否する。
「バカヤロウ……そう簡単に能力を授けてもらえると思うなよ!スラメはいち早く俺のところに駆けつけた。だからこそ俺は契約し、俺が能力を授けたのだ。ドゴラ、力が欲しいならそれなりの功績をあげ、俺の信頼を得るんだな」
契約して力を授けることは簡単なことだ。
だがそれは俺のポリシーに反する。
それ相応の功績を示して欲しいのだ。
「功績をあげれば良いのですな?分かりましたぞ!」
ドゴラは頷き、俺のデスクの向かいにあるソファに座った。
「さて、次の行動なのだが…「ピピピッ!!」…なんの音だ?」
部屋に響いた警戒音。
するとフレンが立ち上がり、
「魔王様、私が張っていた結界がどうやら破られたみたいです。何者かがこちらに向かっております。一応戦闘態勢を」
と言った。
「敵か?」
「わかりませんが、おそらく1体だと思われます。……来ます!構えてください!」
俺たちは入口に向かって攻撃態勢をとった。
そして扉が開かれ入ってきたのは…
露出の多い金髪の美人だった。
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