第27話ガラデ平原での戦い⑦
ギーラが振るった槍は早くそして的確にレノンの首を狙って放たれた。
しかしただ振るわれただけの槍を受けるほどレノンは弱くない。
それはギーラ自身も分かっているだろう。
故に何か仕込んでいるに違いない。
レノンは槍の方に障壁を出現させ、防御の体制を取った。
ガキン!
という音とともに槍は障壁にぶつかる。
そしてぶつかった場所から槍は折れ曲がりまるで鞭のようにレノンに巻き付いた。
これにはレノンも少し驚いた。
槍は貫くのみならず叩くことにも特化した武器だ。
そんな武器がこんなにもしなやかに巻き付いてくるとは誰も思わないだろう。
「驚いているようだが、これだけじゃないぞ」
ギーラはそう言って槍の柄を引っ張った。
するとブチブチと物が破れるような音をさせながらギーラの手元に戻り、そして元の形状に戻った。
「なるほど……槍の内側に刃があるのか」
巻きつかれた腹部に傷を作り、血が滴る。
魔王とはいえ体は元人間。
傷を負えば痛みは走るし、血も出る。
「しかしこの程度の傷では俺にはダメージにもならんぞ?」
レノンがそういうと傷を負った場所が自然と回復を始めた。
これはレノンが英雄と呼ばれるに至った能力の一つ、『自然回復』だ。
傷を負っても一定時間が経過すれば元に戻る。
これにより、体の一部が離れるような損傷ではない限り、レノンには致命傷にはならないのだ。
「浅い傷では効果がないか……だが、治るのは傷だけであろう?」
「……何が言いた……っ!」
レノンは急に視界が歪む感覚を覚えた。
体の節々に痺れを感じる。
ついには立っていることが出来ず、その場に膝をついた。
「……刃に毒でも仕込んでいるのか?」
「その通り。即効性の麻痺毒だ。なに死にはしないさ。ただしばらくは動けないだろうがな。卑怯とでも言いたいか?」
「いや、そんなことはない。戦いにおいて最善を尽くすのは強者である証。勝ったものが正義となる。だからどんな手段を取ろうとも、俺はそれを卑怯と言うことは絶対にしない」
「へぇー、なかなかかっこいいこと言うじゃない。ゴズなんかとはやはり器が違うようだな」
あんなやつと一緒にするなと言いたいが、舌にまで痺れが回ってきたせいでうまく喋れなくなってきた。
「動きは封じたし、言葉も奪った。次はどうするんだ?これで終わりってことはないんだろう?……まぁ手がないって言うならば、すぐに我が槍の錆にしてくれよう」
レノンはその問いに答えることなく、下を向いた。
ギーラは少しがっかりした様子で槍を構えた。
おそらく彼はレノンの行動がリザインを表したと思ったのだろう。
そのままなにも言わず槍を振り上げ、真っ直ぐに振り下ろした。
スダンっ!!
ギーラの振り下ろした槍はレノンを真っ二つに割り、そして地面に突き刺さった。
しかしギーラはその感触に違和感を覚えた。
全く手応えがないのだ。
振るった槍がただ虚空を切り裂きそして地面に突き刺さった。
しかし目の前には……
ドカンッ!!
真っ二つになったレノンの影が急に破裂した。
一瞬その影が膨らむのを視認したギーラは、とっさのところで後方に飛び、無傷とはいかなかったがかろうじて回避に成功した。
「今の不意打ちを回避するとはやはり十二翼最強の男と言われるだけはあるな」
着地した位置の背後から奴の声が聞こえた。
「お褒めに預かり光栄だが、なぜ私の毒を食らって早々に動けているのかそれが知りたいのだが?」
「毒の成分を解析して、速攻で抗体を作ったと言ったら信じるか?」
ギーラは思った。
そんなバカな話があるものかと。
しかしながら、今相手にしているのは元英雄で現魔王。
そのくらい出来てもおかしくないと思う自分もいるのだ。
にわかに信じがたいが話だが……
「まぁ信じるも信じないもお前次第だがなギーラ。お前が見ている光景が真実だ。俺はすでに動けるし、お前を攻撃することもできる。こんな風にな!!」
地面を蹴る音とそのまま風を切り、近づいてくる気配にギーラは身構えた。
とっさに飛び退いたせいでギーラの手元には武器である槍はない。
背後にいる奴がなにで攻撃してくるか分からないが、おそらく近づいてくるとなれば魔法ではない何かであろう。
それならば
「緊急回避陣!!左翼方向!!」
足元に左向きの矢印が表示された魔法陣を展開し、その矢印の方向に向かって体がぶっ飛んだ。
『緊急回避陣』は魔法陣上にいる対象を矢印の方向に向けてぶっ飛ばす魔法だ。
発動速度が早いと言う利点はあるが、ものすごい勢いで飛ばされるので、並の魔法使いが使うと空気抵抗により全身鞭打ち状態になってしまう欠点がある。
しかしギーラはそれを使用したところで体に少し痛みが走る程度の反動しか受けない。
それは彼が強靭な体と並外れた魔法力を持っているからこそできる芸当なのだ。
なんとか受け身を取り、地面に着地したギーラが先ほどまでいた方を見ると、そこには紫色の刃をした両手剣を担いだレノンが立っていた。
「聖剣デモンズバニッシャー……それを出されるといよいよお前を元英雄と否定する要素がなくなってしまうな」
聖剣デモンズバニッシャー。
レノンが英雄時代にとある場所で託された魔を断罪するための剣だ。
魔物に対してのみ通常よりもダメージを与えることができる効果を持っている。
尚且つそれが強い敵ならばその効果も上昇し、魔王戦において魔王をかなり苦しめた。
「魔王になった俺が魔物に対して有効な剣を使うのはおかしな話ではあるがな」
「……ああ全くだ。私たちにとっては最悪の武器と言っても過言ではない。だが!!」
ギーラはレノンに向かって両手を突き出し、
『アイスブラスト!!』
氷の波動を打ち込んだ。
それと同時に槍の方へと移動陣を発現させぶっ飛ぶ勢いを利用し、地面に突き刺さった槍を回収した。
「はぁ……なんとか槍は回収したが……奴はどこに行った?」
「こっちだ、ギーラ」
背後からの声にとっさに振り返ると、レノンがすでに回し蹴りの体制を取っていた。
避けられない!!
ギーラはその蹴りを左脇腹にまともにくらい右方向に吹っ飛ばされる。
2メートル以上ある巨体がいとも簡単にまるで小石を蹴ったが如く吹き飛ばされる光景はあまりにも現実離れしていた。
ギーラは地面を数回バウンドしたのち地面に膝をつき停止した。
「……くっ、やはり目眩し程度の魔法では効果なしか……」
武器を取りに行くこと自体が危険な行為であることは十分理解していたが、この魔王を倒すならばこいつがなければ無理という判断に至ったギーラは無謀な賭けをした。
しかしその結果ダメージは負ったものの、槍を手に入れることに成功した。
つまりはギーラの賭けは成功した。
「捨身でそれを手に入れてどうするギーラよ」
「こうするんだよ!!『
ギーラがそう言うと手に持つ槍が宙に浮き、一つまた一つと数を増やしていく。
そしてギーラの背後には8本の槍が出現した。
「ほう、槍の数を増やしたか。しかしそれができるならばなぜ無理に槍を取りに行った?」
「おいおい、敵にネタバラシをしろってのか?……しかし教えてやろう!!わたしの魔法『複製』は手に持つもののみ複製ができると言う欠点がある。それ故に槍を取り戻す必要があったのだよ」
「ならばなぜ最初からそれを使わなかったのだ」
「私も自分の力を過信していたところがあったと言っておこう。とりあえず一本で戦えると思った。しかしながらそれはただの過信に過ぎなかった。いやはや、本当に済まないと思う」
「では、ここからは全力ということか?」
「ああ、その通りだ。これより私は本気で魔王の首をとりにかかる。遅れをとるなよ」
8本の中の1本を手に取りレノンに向けて構えると、宙に浮く槍も同様にレノンの方に向く。
「その言葉そっくりそのまま返そうではないか。せいぜい俺を楽しませてくれギーラ!!」
デモンズバニッシャーを構える。
そしてどちらからともなくほぼ同時に地面を蹴った。
速さは間違いなくレノンが勝っている。
しかしリーチは圧倒的にギーラが有利だ。
近づいていく中で初めに攻撃態勢を取ったのはギーラだ。
槍に身を寄せ勢いのまま貫くつもりなのだろうがそうはいかない。
レノンは空気を蹴り、上方向に回避。
ギーラの軌道から外れた。
「そこ!!二本、チェイン!!」
ギーラがそう叫ぶと、宙に浮く7の本のうちの2本が槍の形から鎖のようになり、レノンの腕と足に絡み付いた。
完全に足を取られたレノンはその場で停止。
そこを見逃すギーラではない。
「3本!!アタック!!」
3本の槍がレノンに向けて放たれた。
「これしきっ!!なに!!」
普段ならばこの程度の拘束は力づくで破ることもたやすいが、いくらレノンが力を入れて鎖を引きちぎろうとしてもその鎖はびくともしない。
「わたしの鎖はそう簡単には切れぬよ。それよりも打ち落とさなくても良いのか?」
槍はもう目の前まで接近していた。
すでに回避できる距離ではない。
ならばとレノンは『交換転移』の魔法を発動する。
対象はギーラ。
……しかし魔法が発動しない。
「もしかしなくもないが今魔法を展開したか?残念ながらそれは意味を持たない。なぜならばその鎖には魔法を封じる効果があるからな……とまぁそんな感じでチェックメイトだ」
3本の槍がレノンの腹部を貫いた。
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