第34話魔王領回復作戦開始

 

 十二翼会議から数日後、それぞれ戦闘準備を終えたところから順に元魔王領を取り返すべく進軍を開始した。


 そして案の定俺が領土を奪ってから大した整備を行っていなかったので、十二翼達は問題なく領土を奪い返している。


 あの愚王のことだ。

 境界線に軍を割くよりも自分の周辺を固めるのは目に見えていた。


 その結果が、せっかく魔王領を奪ったのにものの数日で元の境界線まで戻されてしまうというまったく愚かなものになってしまった。

 奴を愚王と呼ばずしてなんと呼ぶべきであろうか。

 しかしただ一つ気がかりなことがある。


 そんな愚王に仕えていた俺の親友が、果たしてそれを許すだろうか。

 ……いや、あいつの言うことを聞くはずもないか。

 もし奴に聞く能力があれば少なくとも愚王と罵られることはなかったと思う。


 十二翼の連中もほぼ無傷のまま進軍を続けている。

 さて俺もそろそろ動き出すとするか。


「フレン、俺はトルミ村に向かう。ついてくるか?」


「もちろんついて行きますよ!!レノン様の行くところ常にフレンありですから!!」


「ふっ、そうか。ならギーラ城のことは任せたぞ。何かあればすぐに知らせてくれ」


「かしこまりました」


 俺はトルミ村に転移するために魔法陣を起動する。

 おっとその前に……

 俺は自分の見た目を英雄時代のものに変化させた。

 魔王の姿の俺が普通に村に来たら大騒ぎになる。

 ……いや普通に考えれば魔王軍を通してくれと頼みに行くことすら大騒ぎなのだが。

 しかし俺が行けば何か事情があると分かってくれるだろう。

 フレンの方を見ると、フランもパーティにいた時の姿に擬態している。


 さていざいかん、トルミ村へ。


 ◇◆◇◆


「なに!!奪った魔王領の大半を取り返されただと!?」


 アリステル王国の愚王は、その情報に驚愕していた。

 レノンによって壊滅させられた魔王軍がこんなにも早く立て直し侵攻してくるとは考えてもいなかったからだ。

 そのため新兵の育成にあまり力を入れず、国の再建ばかりに力を使ってきた。

 ザイスもそれが一番だと言っていた。


「カリウス!!境界付近の守備は貴様に任せていたはずだ!!どうなっている!?」


 勇者召喚の一件があった以降、王からの信頼をなくし、境界付近の守備の指揮を任されるようになったカリウス。


「……お言葉ですが、今の兵数では魔王軍の侵攻を抑えることなどできません。もっと兵をこちらにまわていただかないと……」


「ふん、兵がいれば抑えることができたとでも言うのか?」


「少なくともここまで圧倒的に侵攻されることはなかったかと」


「……ザイスどう思う?」


 王はカリウスの正当性を現右腕であるザイスに聞いた。


「境界付近には十分な兵を配置しておりました。故に、カリウスの指揮が悪いとしか思えませんな。もし私が指揮をしていれば魔王軍に侵攻を許すことはなかったでしょう」


 カリウスは唖然とした。

 開いた口が塞がらないとはこう言うことだろう。

 兵が足りていた?ふざけるな。

 俺が相手をした魔王軍3万。

 それに対しこっちはたった5000人。

 勝てるはずがない。

 しかも魔王軍は兵を3分割していると報告もあった。

 つまり俺が相手どった部隊が残り2つもあると言うことだ。

 例えどれだけ優秀な指揮官であろうと勝つことなど不可能だ。


 しかしこのザイス。

 自分は戦場に赴くことはないからと言って、言いたい方だいだ。

 そしてそれを間に受けるのがこの愚王である。


「やはりそうであったか。ふん、自分の無能を他人のせいにするとは恥ずかしくはないのか?なんとか言ってみろ」


 ……今すぐにでもこいつは2人を殺してやりたい。

 その権利は俺にあると思う。

 無能に無能呼ばわりされ、この責任を押しつけられようとしているのだ。

 あまつさえこの愚王が次に言いそうなことは予測できる。


 俺を投獄するか、もしくは処刑するかどちらかだろう。


 投獄ならまだいい。

 しかしこんな愚王と金魚のふんごときに殺されるなどそれこそどんなことよりも恥だ。


「やはり何も言えんかカリウスよ。それはつまり自分の責任だと認めると言うことだな?もう良い。誰ぞその使えない男を牢に連れて行け」


 王がそういうと、2人の兵士が俺の腕を抱えて引きずりながら牢へと向かった。

 その時に見たザイスの薄気味悪い笑い顔……絶対に忘れない。

 俺が必ずこの手で殺してやる。

 それまでせいぜい首を洗って待っていやがれ!!


 ◇◆◇◆


 カリウスが連れて行かれた後の王の間。


「まったくあんな使えない奴を右腕に据えていたワシは本当に愚かであった」


 そう言って王は頭を抱えた。


「それは仕方がありませんよ国王陛下。カリウスという男は人を欺くことに長けております。それ故に陛下が騙されるのも致し方ないこと。しかしそれももう終わった話ではありませんか!!このザイスがいればアリステル王国は安泰ですぞ!!」


「頼もしい限りだぞザイス!!魔王軍の侵攻を止め、この国に平和を取り戻した暁には、我が娘を妻とすることを許そう。つまりどういうことか分かるなザイス。次期国王を任せると言うことだ!!」


「はっ、ありがたき幸せ!!このザイス、必ず魔王軍を食い止めて見せましょうぞ!!あの愚かなカリウスの失態をもぬぐってみせます。その手はすでにもううってありますので、国王陛下期待しておいてください」


 その言葉に満足そうに頷く国王と、下を向いているので、その表情は誰にも見えないが、ニヤケを隠せないザイス。

 愚かな2人が組めばどうなるか。

 王の間にいた兵士たちは心の中でため息をついた。

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