第33話十二翼会議

 

 メリザを魔族にしてからフレンに十二翼の連中を集めるように指示した。

 それは俺の中で指針が固まり、それについて幹部連中には話しておく必要があるからだ。


 これからどのように人間領を落としていくか。

 新たな十二翼の任命。

 そして領地の話。


 おそらく彼ら自身も気にしている事だろう。

 なにせ元十二翼とはいえ、再び十二翼になれる保証などどこにもないのだ。

 それに加えて最初から俺に付き従っていたスラメとキツケ、フレンという新たな候補もいる。

 気が気でないだろう。

 今更十二翼の肩書を外される事は不名誉でしかない。


 その次の日にはフレン以外の者たちが俺の前で膝をついていた。


「相変わらず1人いないようだが……まぁいい。その態勢では聞きづらいだろうから楽にしてくれ。俺も話しづらい」


 そういうと、一瞬戸惑った雰囲気を感じたが各々楽な態勢をとった。

 とは言ってもあぐらをかいて座ったり、寝転んだりしている奴らはいるはずもなく、ただその場に立ち上がり話を聞く態勢をとっている。

 そして十二翼が1人来ていないことに気がついた。

 いや以前から気になっていた。

 ガラデ平原での戦いの時も、そいつはどこにも顔を出していないのだ。

 理由は不明のまま。

 しかしそれをフレンに聞いても、「彼女は引きこもりですから」としか答えない。

 他の奴らにいたっては知らないというのだ。

 それはあまりにもおかしな話だと思う。

 だってそうだろう?

 十二翼に任命されておきながら、管理する領地を持たず、他の十二翼には認識すらされていない。

 何か裏があるのだろうか。

 いずれ調べる必要がある。

 しかし今はそれは置いておこう。


「急な召集で悪かったな。しかしこれからの指針についてお前らには話しておかねばならないと思ってな。お前たちもかなり気にしているのだろう?」


 誰もそうだとは言わないが生唾を飲む音が聞こえたあたりそう思って間違いないだろう。


 ついにこの時が来たかと言わんばかりに。


「皆も知っての通り俺は元人間で、復讐のために魔王になった。そして魔王軍を統一した今、俺は人間への復讐を開始する。俺が奪い取った魔王領を俺の手で取り返す。協力してくれるか?」


 俺がそう聞くと全員が声を揃えて


「仰せのままに魔王様」


 と答えた。


「英雄レノンを失った今の人間など敵ではありません。我ら十二翼が全身全霊を持って魔王様の悲願達成のために微力ながら協力させていただきます!!」


「卑劣な人間共に、魔族の恐ろしさ……教える……」


 全員が気合十分と言った雰囲気だ。

 それぞれの思いをおれにぶつけてくる。

 そしてそれは俺を十二翼にしてくれと言わんばかりに。


「お前たちのやる気は十分に伝わった。期待しているぞ。さてそこでお前たちも気になっているだろうが、新たな十二翼を発表する」


 空気が張り詰めた。

 ある者はゴクリと喉を鳴らし、ある者は目を閉じ、ある者は余裕と言った表情を浮かべ俺の発表を待った。


「まず始めに前魔王はリーダーというものを明言しなかったのだったな。その結果ゴズと言った勘違い野郎が生まれた。まぁお前たちに限ってはそんな事はないと思うが、万が一のためにも今回は十二翼長を指定させてもらう。……ギーラ頼むぞ」


「はっ、お任せください」


 ギーラは胸に手を当て一礼をした。

 まずもってギーラ以上に十二翼をまとめ上げる適任者はいないだろう。

 それは元十二翼の奴らも認めている事だろう。


「次に副長を2人指名する。これはドゴラ、ワンズお前たちに任せる。しっかりギーラのフォローをしてやってくれ」


「「はっ!!」」


 この2人は平原での戦い以前から俺に従ってくれた2人だ。

 それに今の2人は十二翼の中でもギーラに次ぐ実力の持ち主になっているだろう。

 信頼しているからこそのこの配置だ。


「我が副長……なんと名誉な事だ。今日という日をまた日記に記載しておかねば」


 相変わらず少し女々しいところがあるが……まぁ大丈夫だろう。


「そして残りの面子だが、キツケとスラメを加えた元十二翼を任命する。つまり今回十二翼から外れるのは、ここに来ていない、そして皆が知らないという元十二翼の1人だけだ」


 部屋にいた全員が十二翼の地位に残ることが出来たという安心から少し雰囲気が和らいだ。

 緊張が解けたのであろう。


 第一翼:山羊族 ギーラ

 第二翼:龍族  ドゴラ

 第三翼:人狼族 ワンズ

 第四翼:デュラハン族 ハンラ

 第五翼:サイクロプス族 キプロス

 第六翼:猫人族 キャラット

 第七翼:ウィッチ族 マホ

 第八翼:アラクネ族 アクネラ

 第九翼: オーガ族 オルグ

 第十翼: サラマンダー族 サラーデ

 第十一翼:吸血鬼族 キツケ

 第十二翼: スライム族 スラメ


 一翼から三翼まではリーダー格だがその下からは皆対等の立場で、あくまで第何翼と名乗った方がカッコいいと思ったからナンバリングしてみた。

 流石に一度も顔を見せない奴を十二翼に据えるわけにはいかないので俺はその不明の1人を十二翼から外すことにした。

 果たしてその選択が正しいかは分からないが。


「あっれー、そういえばぁー、フランはぁー、入ってないよねぇー。どうー?悔しいー?ねぇねぇー」


 俺の横に佇むフレンを煽るようにマホがそう言った。

 ……すごく嫌な予感。


「あ、あのなマホそれは……「マホ、残念ながら私は十二翼には入れないんですよ」……おいフレン?」


 何を言う気だ?

 たしかにフレンはもともと候補に入れていない。

 それにはちゃんとした理由がある。

 フレンも承知しているどころかむしろ歓迎している。


「どう言うことかなぁー?まさかぁー、負け惜しみぃー?」


「私はね、魔王様の秘書なんだよね。分かるかなぁ?つまりは魔王様直属の部下。常に魔王と共に行動をとることを許された唯一の地位。それはいわば十二翼よりも上の地位ってこと。そして十二翼長はギーラだけど十二翼統括の地位は私。だからマホ、これから私はあなたの上司に当たるのですよ。ここまでいえばわかるかな?言葉遣いには気を付けなよ!」


 その場にいた全員がは?という顔を浮かべた。

 そして俺もしかり。

 確かに似たようなことは言ったが、上司に当たるとかは言ってないのだが?

 かなり極大解釈をしてしまっているようだ。


「はぁー?はぁー?ふざけてんのかなぁー?」


 あー、こらマホ。

 どこからともなく箒を取り出すのはやめなさい。

 そしてさりげなく他の奴らも黙認しようとするんじゃない。

 ほらギーラ。

 早速出番だぞ?


 目で合図を送るがギーラはそっと目を閉じ頷いた。

 そしてこれまたどこからともなく槍を取り出して、フレンとマホに向かって槍を向けた。


「お前ら魔王様の御前だ。大人しくしろ。しないのならば、私が大人しくさせる」


 流石にギーラに槍を向けられた2人は大人しくなった。

 俺が強化していようがギーラはその上をいく。

 つまり例え2人でかかっていってもギーラには勝てないということがわかっているのだ。


 やはりギーラを十二翼長に据えて正解だった。

 これがワンズとドゴラであれば、2人とも止まらなかっただろう。


「フレンが言ったことは少しだけ間違っているが、まぁそういう理由ではある。十二翼じゃないからと言って、フレンはそれ以下ではない。だから勘違いしないでやってほしい」


 俺がそういうと全員が納得といった顔になった。

 今度はフレンだけがプッと頬を膨らませたがもう気にしない。


「ではまず元魔王領を即刻取り戻す。俺が魔王領をとってからまだそんなに日は経っていない。あの愚王のことだ。おそらく城下を復興することに力を入れているだろうから、境界付近にはあまり兵を配置してないと思う。故に落とすのは容易い。そして侵攻にあたって部隊を3つに分ける。まず南西に領地を持つ猫人族の村の方面から攻める部隊をキャラット、ハンラ、キプロス。3人に任せる。まずはサルナ村を落とせ。あそこには貴族連中の資源採掘場があったはずだ。そこを押さえてくれ」


「「「はっ!!」」」


「そして南にあるオーガ族の村方面から攻める部隊、これをサラーデ、オルデ、ドゴラに任せる。ここはアラヌス村を最速で落とし、その向こうにある辺境伯が統治するカイラスを手に入れろ。あそこは人間領の食品庫と呼ばれるくらい食品産業が盛んな街だ。巨大な市場もある。そこを落とし、人間を食料難に追い込め」


「仰せのままに、ご期待に応えましょうぞ」


 サラーデがそういうと2人も頷いた。


「そして南東からはアクネラ、マホ、キツケ、ワンズに任せる。隣接するトルミ村は手を出さず通過してその奥にある都市ナンザを落とせ」


「なぜトルミ村は通過するのでしょう?」


「あそこは俺が世話に村だ。魔王軍と戦っていた俺たちに色々と支援をしてくれた恩義がある。そんなところには手を出せない。なに、交渉には俺がいこう。村の人たちも国王に苦しめられていたはずだ。おそらく通してくれるだろう。そしてナンザは南東方面の拠点とするためだ」


「なるほど、かしこまりました」


「最後にスラメとギーラ、万が一にもないとは思うが魔王領で反乱が起きたときのために魔王城での待機を命ずる。最強の矛と回復役が残っているのだ。かなりの抑止力になるだろう。戦いに出たい気持ちは山々だろうが、少し我慢をしてほしい」


 ガラデ平原で忠誠を誓うと述べたが、崩壊まで追い込まれた種族もいる。

 ただでは滅ぶまいと何かしでかす連中がいるかもしれないので、あくまで保険だが2人には待機をしてもらうことにした。

 どこかの部隊が敗戦してそこから人間が攻めてくることも考えられる。

 そのような時にも派遣できるように。


「なに、予想通りだ。気にすることはないぞ魔王様」

「僕もそうかなぁーって思ってたよ!」


 理解をしてくれる2人で助かった。


「さてお前たち、まずはしっかりと準備を整えてくれ。部隊に必要なものがあるならば申し出ること。そしてこれだけはいっておく。これは競争ではない。いくら早く落としたところで俺の評価が上がったりするなどとは考えるな。確実にそして圧倒的に進軍せよ!!」


「「「はっ!!!」」」


 これから新魔王軍の戦いが始まる。

 人間にとっては地獄の始まりだ。

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