第18話模擬戦②
リングの上で箒に乗り、ゆらゆらと揺れるマホ。
それに対面するように地面に立つフレン。
2人ともにこやかな笑みを浮かべている。
ただし背後にはゴゴゴッと音が鳴りそうなくらいにそれぞれがプレッシャーを放っている。
「フレン、マホ。始めるぞ」
「いつでもいいよぉー」
「構いません」
「じゃあ始める。あ、くれぐれも相手を殺すことのないように頼むぞ。では、はじめ!!」
俺の掛け声と共にマホは箒高く飛び上がった。
「フレンー、すぐ終わらせてあげるからねぇー!跡形もなくけしさってあげるからぁー!」
そう言って上空でリング全体を覆う魔法陣を展開し、
『降り注げ!!炎の雨』
声に反応し、魔法陣から隙間なく炎の粒が落下を開始した。
「これだけじゃないよぉー!」
マホはそう言って魔法陣の上にもう一つ魔法陣を展開し、
『貫け!氷の槍!!』
と、鋭利に尖った氷の槍を炎の粒と共に地上に降らせた。
炎の粒すら避ける隙間すらなく降り注いだのに、それをさらに埋め尽くすように氷の槍が降り注いでいるのだ。
……普通にフレン死ぬだろこれ……
「マホ!やり過ぎだ!!」
「あはははは!!!死ねぇ!!」
だめだ。完全に興奮状態だ。
俺は地上にいるフレンを守るためにリングに干渉しようとした。
「魔王様大丈夫ですよー!この程度のしょぼい魔法私には効きませんから!!」
そう言ってフレンは俺を静止し、上空に手をかざした。
『消え去れ!!』
フランがそう言うと空気の壁のようなものがフレンを覆うように広がり、マホの魔法陣を消し去る。
そしてそのまま広がり続け、
「あはぁ、つぶされちゃうなぁ!!」
マホはリングの端に追いやられ結界とフランの放つ空気の壁に挟まれた状態になった。
「さぁマホ!10秒数えます!その間に降参しなよ!そうすれば潰さないであげるからさ!でも、降参しなかったら分かってるよね?」
こっちも殺す気満々じゃねぇか!
くそ!こいつら!!
「あはぁ、なになまいきいってんのぉー?じょうだんってぇ、わからなかったぁ?こんなシャボン玉にぃ、つぶされるわけないじゃんー!」
マホは乗っていた箒を剣のように持ち、縦ぶりでフレンの空気の壁を消し去った。
「簡単にわれちゃったねぇ、ふれんー。それもそっかぁ、だってフレンの魔法力なんてぇ、マホの10分の1程度だもんねぇ。しかもぉ、今の魔法はぁ、発動したらぁ、しばらくうごけないんでしょー?あはぁ、勝負決まっちゃうなぁ!」
上空からエヘエヘとフレンを嘲笑う。
フレンは反論することなく、ただ立ち尽くしている。
「ねぇ、なんとかいいなよぉ。……つまんないなぁ。じゃあさっさと殺しちゃうねぇ」
そう言ってマホは箒の先をフレンに向け、詠唱を始めた。
そして箒の先が徐々に赤く変色を始め、真っ赤な紋章を浮かび上がらせた。
「いっくよぉ、『獄炎の一線』!!」
箒から一線の赤い筋がフレン目掛けて放出された。
凄まじい速度と威力で進むそれをフレンは回避しようとしない。
いや、硬直が未だ解除されていないのか。
今度こそフレンの危機と思った俺は右手を掲げ、その炎を吸収するために魔力を展開した。
しかしそれよりも先に、急にフレンがバッと顔を上げ、赤色の瞳を輝かせた。
するとどうだろう。
赤い筋は勢いを失い、フランの目の前で停止したかと思うと、そのまま踵を返し、今度はマホの方へと進路を変えた。
それだけじゃない。
その場にいたワンズとドゴラ、そして俺までもが前屈みになりフレンに釘付けとなった。
「えぇー、なにが起きたのぉー!?なんでぇ、こっちに帰ってきてるのかなぁ!!」
マホは箒に跨り、その炎の進路から素早く外れた。
しかし、マホが逃げた方に炎も進路を変えたのだ。
「なんでぇ、追いかけてくるのぉー?マホの魔法にはぁ、そんな機能備わってないよぉー?」
上空を逃げるように飛び回るマホだが、炎は勢いが衰えることなくマホを追尾し続ける。
そこでようやくフレンが口を開いた。
「あはははは!!残念だったねマホ!!たしかに私の魔力はあんたの10分の1かもしれないけど、その操作能力に関しては私だってアンタに引けはとらないよ!しかも私の能力『誘惑』は別に生き物だけに効果があるわけじゃない!炎にだって何にだって効力を発するんだよ!それだけじゃない!魔法に上書きで追尾機能も付けてあげたよ!」
……なるほど。理解した。
俺たちのなにが大変なことになっているのも、炎が帰っていったのもフレンの誘惑によるものだったのか。
そういえば以前に実験した時もその効力には驚かされたものだ。
しかも相手の魔法を上書きしたうえで反射するとは……
恐ろしいなフレン。
「マホ!早く降参しなよ!じゃないと自分の魔法に焦がされちゃうよ!……焦がされるだけじゃすまないみたいだけどね!」
上空では必死に逃げ回るマホとそれを追いかける炎の追いかけっこが繰り広げられ、流石のマホもこれ以上は手がつけられそうにない。
……決まりだな。
「それまで!勝者フレン」
俺はそう宣言し、マホを追尾する炎を吸収した。
吸収して気づいたがこの魔法、相当な威力を孕んでいた。
魔力貯蓄が限界地点を迎えつつあった俺の魔力庫を完全に埋め尽くした。
ようやく追いかけっこから解放されマホは、箒に跨った状態で地上に降りてきた。
息を切らし涙目を浮かべていた。
「あんなのぉー、ずるいよぉー」
あー、マホさんが今にも泣き出しそうだ。
「あはははは!ざまぁないねマホ!だいたいいつもそうなんだよ!自分の能力を過信しすぎなんだよね!だからさ、もっと自分の能力を研究して磨きなよ!そうすれば…………って、ちょ、まっ!!」
泣きそうなマホに言いたい放題言い始めたフランだったが……
「な、なぁフレン。俺もう我慢できねぇ!」
「我も……我もだ!!」
2人の雄がフレンの方へとすり寄っていく。
……あー、そうか。
この2人まだ誘惑の効果が解けてないんだ。
俺は自らの力で解除したが、この2人魔力耐性は低いはずだ。
となれば……
「フレン!!頼む!!もうアレのうずきが治んねぇんだ!!だから俺の元に来てくれ!!」
「なにを言うかワンズよ!!我の元へ来るのだフレンよ!!我のたくましいアレで……『はい2人ともそれ以上はダメだ!!』……ぐぼっ!!」
ゲンコツで2人を気絶させた。
盛りきった雄どもが!
アレアレと連呼するんじゃない!
うずきとかたくましいとか……
「能力を研究するのはフレンも同じじゃないか……?」
遠巻きに見ていたキツケが苦笑いでそういった。
◇◆◇◆
「はうっ!!」
「……んっ!」
フレンが誘惑を使った頃、ゴズとゴブルはゴズの部屋で対レノン戦の下準備をしていた。
フレンが誘惑の能力を全力で発動した場合、その効力は魔王城全体に行き渡ることは以前の実験で検証されていたが、それは例外なく彼らにも効力を及ぼしていた。
「ど、どうしたゴブル?急に変な声を上げて」
「な、なんでもねぇよ……そういうゴズさんこそ前屈みになってるがどうかしたのか?」
ゴズはしまったと思った。
今ゴズはちょうど資料を取るために立ち上がっていた。
そんな時に急に生理現象が起きたのだ。
つまり今ゴブルの方を向くと、息子さんが大きくなっていることがバレてしまう。
ちなみにゴブルは座っているため一見なんともないようにしている。
(なんでこのタイミングなんだ……!!くそっ!早く治まれ!!)
しかしこれは生理現象とはいえフレンが起こさせたものだ。
つまり彼女が能力を解除するまでは治ることはない。
「それよりも早く資料を取って戻ってきたらどうだ?」
戻れるかっ!!
と叫びたいがそれはできない。
「まだ資料が見つかっとらんのだよ」
「いや、手に持ってるじゃないですか」
しまったー!!
「こ、これは違うのだ!間違えたのだよ!」
「まぁいいけどさ、早くしてくださいよ」
「分かっとるわ!もう少し待ってろ」
棚に向かってそう訴える。
どうにかしなければ……
「そうだ!ゴブルよ、すまないが少し席を外すぞ。トイレに行ってくる」
「トイレって……さっき行ったばっかりじゃないですか」
しまったー!!
ちょうど5分前に行ったばかりだったじゃないか!!
くそっ!冷静になるのだゴズよ!!
「ち、違うのだ。さっきのは……そう、小さい方だ!今から行くのは大きい方だ!」
「……そうですかい。じゃあ早くしてくださいよ」
「言われなくてもわかっているのだ!」
部屋の壁伝いで出口に向かい素早く部屋を退出する。
なんとかなった……
なんとか…………
「あ、あの……すみませんでしたー!!」
たまたま出口で鉢合わせたメイドの女の子が顔を覆って走っていった。
なにが大変なことになっているのを見られてしまった。
………こんなことならがぶるに見られたほうがまだ良かったかもしれない……
天を見上げ顔を覆うゴズであった。
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