第25話ガラデ平原での戦い⑤
「なっ……オルグが一瞬で……だと?」
はるか彼方へ飛んで行ったオルグの方を見ながらサラーデの口からそう溢れた。
クミンの速さですら驚いたサラーデだったが、それ以上をいくワンズの速さに絶望した。
「まぁそういうことだ、サラーデ。今の俺はお前ら程度とは次元が違うんだよ。それが理解できたならさっさと逃げるか、こっちに降るか選びな!」
「分かった!降る!俺の負けでいい!!」
「おいおい……即答だな。ちーたー粘るとかしねぇのか?」
ワンズは呆れたようにそう言った。
しかし先ほどのオルグの光景を見て、そう言わないのは愚か者の行為だと思った。
どう考えても今のワンズには勝ち目はない。
魔王様がレノンに倒されてから、まだ日は経ってない。
そんな期間で一体どれだけ成長できようか。
否、出来るはずがない。
それこそワンズのような特殊な事情がない限りは。
「……それができそうならすぐすぐ諦めるようなことはせんわ。しかしどう考えても今のお前に勝つ術を俺は思いつかない。そんな相手に突っかかるほど俺は馬鹿じゃない」
「まぁいい。魔王様からも極力十二翼は倒さず生け捕りにしろと言われてるからな。このまま俺について来てもらおう。戻る途中でオルグも回収しねぇとな……」
「生きているとは思えんが……」
「どうだろうな。でも十二翼を名乗るならあの程度で死ぬこたないだろ」
あの程度……とサラーデは思ったが口にはしない。
「クミン!俺はいったん本陣に戻るからお前は本隊に合流してカルドと一緒に部隊を指揮しろ。もうこっちには十二翼はいねぇ。あとは有象無象だ。さっさと処理して終わらせてくれ」
「分かったよワンズ兄。……さっきはありがとね」
「ん?なんか言ったか?」
クミンが何かぼそっと呟いたように聞こえたが何を言ったか聞こえなかった。
「なんでもない!!じゃあね」
クミンはシュバっと去っていった。
「年頃の女ってのは何考えてるか分かんねぇな。そういえばサラーデのとこもちょうど同い年くらいの娘がいるんだろ?あんな感じか?」
「うちの娘か?うちの娘は今年で15になるが、今でもパパ大好きって言ってくれるぞ?反抗期とかほとんどなかったしな」
「……ああ、なんでうちの妹はあんな反抗的に育ってしまったんだろうな……」
それはたぶんお前のせいだと思うぞとサラーデは思ったが口にはしない。
サラーデは話を逸らすために別の話題を振ることにした。
「そういえばワンズ。お前が魔王様からもらった能力ってのはなんなんだ?お前の感じからすると速さにまつわるものか?」
ワンズの動きは明らかに前よりも速くなっていた。
サラーデはそれに起因するものであると推測していたが、
「微妙に違うな。正確には『間合い無視』って能力だな」
「間合い無視?聞いたことない能力だな」
「そりゃそうだろ。魔王様が作ったオリジナルだからな」
「オリジナル……そんなことまで出来るのか元英雄は……ちなみにどう言った能力なんだ?」
「あー、俺が相手に攻撃の意思をもって対峙したときに、一瞬で相手の間合いに入り込める。ようは相手と間合いの探り合いをする必要がない。ただ向かい合った瞬間には俺はすでに相手の懐にいるって感じだな」
「なっ……それ反則だろ」
「そんなことまで出来るようにしてしまうのが今の魔王様ってわけさ」
これを聞いてサラーデは最初からレノンの下についていればと後悔するのだった。
こうして左翼側はほぼ制圧が完了した。
◇◆◇◆
「ドゴラ、貴様一人で我ら3人の相手など到底不可能なのだよ。大人しく我らに殺されるといい」
中央部で三重奏と戦うドゴラは少し苦戦していた。
いかに強くなったドゴラとはいえ、十二翼の3人を一斉に相手にするのは少しばかし厳しいようだ。
防戦一方の戦いを強いられている。
そんな中でもほぼダメージを負っていないのは、さすが元十二翼の中でも最強クラスというべきか。
しかし防御ばかりではいつまで経っても拉致が開かない。
「マホ!少しばかし手を貸してはくれぬか!?」
上空でただその戦いを見つめるマホに協力を求めるが、
「えー、さっきぃー、わたしはぁー、見てるだけって言ったじゃんー。だからぁー、1人でぇー、戦いなよぉー。それにぃー、いま手が離せないんだよねぇー」
「手が離せない?何かあるのか?」
「ずーっと向こうからぁー、ここに魔法を撃ち続けてるぅー、マホの同族たちがぁー、いるんだよねぇー。いまその魔法をぉー、全部打ち消してるからぁー、忙しいのぉー」
マホは上空で何もしていないように見えて、その実、遠距離魔法で攻撃を仕掛けていたウィッチ族の攻撃を全て打ち消していたのだ。
「あー、だからいつまで経っても援護魔法が飛んでこなかったのか!じゃあ……」
そう言ってキャラットは地面を強く蹴って飛び上がり、
「マホを最初に殺せばいいんだね!」
マホに向かって拳を突き出した。
ガキっ!!
だと言う音とともにキャラットはそのまま地面に落下を開始した。
「あ、あれ?おかしいな……もう一度!!」
再び飛び上がり、今度は拳の連打をマホに叩き込むが
ガキガキガキっ!!
と何かに阻まれる音を鳴らすだけでその拳がマホに届くことは一切なかった。
「なんでかな?マホに私の攻撃が一切当たらないんだけど……」
「どけ、キャラット。私がやる。ふんっ!」
ハンラも同じように剣でマホを斬るがこれもマホには届かない。
「どうなっている……なぜ我らの攻撃が一切当たらないんだ?」
当たるはずがない。
ドゴラはそう知っている。
なぜならばマホが魔王様からもらった能力は、『物理攻撃無効』だからだ。
マホは対魔法に関してはエキスパート級の力を持ってはいるが、その反面物理攻撃には滅法弱かったのだ。
そこでその弱点を補うべく、この能力を付与した。
するとどうだろう。
マホはほぼダメージを負わない常時無敵状態に近い防御を手に入れてしまったのだ。
「なんでぇー、敵にぃー、ネタバラシしなきゃー、いけないのぉー?理由くらいぃー、じぶんでぇー、考えればぁー?……あとぉー、こっちにぃー、気を取られててぇー、いいのぉー?」
マホがそう言った直後、キプロスが図太い悲鳴を上げた。
「え……キプロス?」
2人が上空から視線を落とすと、キプロスの腹部から槍が生えていた。
そして槍が抜け、キプロスが前のめりに倒れた背後からドゴラが姿を現した。
「戦いの最中によそ見をするとは愚かな者よ。さてこれで残りは2人だ。所詮貴様らは3人でなければ本来の力を発揮できぬ軟弱な奴らであろう?しかも我はまだ魔王様から頂いた能力を使ってすらいない。もはや貴様らに勝ち目はないぞ」
「舐めるのも大概にしろドゴラ……3人でなければ軟弱?ふざけるな!我らは個人でも十分に戦える!むしろ強い個人が3人集まっているからこその連携が使えるのだ!!」
「ならば見せてみろ!その力をな!我も少しばかり力を使って相手をしてやろう。ただし我が能力を使う以上死を覚悟してかかってくるが良い。龍化!!」
戦場に龍が出現した。
ここからがドゴラの本領発揮となる。
そうレノンによって付与された能力は龍化後のものだったのだ。
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