第14話正体
「魔王様を倒したあの男だと言うのか……!」
レノンが正体を明かすと場は凍りついた。
それもそのはず。
自分たちの主人を殺した相手が今自分たちの上に立とうとしているのだ。
しかしただ1人だけは内心笑みを浮かべているものがいた。
(これは私にチャンスが舞い込んできましたね……!存分にこのチャンス活かしますよ!)
「フレンお前はこのことを知っていたのか?」
いち早く口を開いたのはワンズだ。
ここに来た時から一緒にいるフレンに対してそれを聞くのは妥当だろう。
「もちろん知ってたよ。だって彼を魔王にしたのは私だからねー!」
「なんだと!?どうやって……?」
「魔王様が倒された時私はレノンの仲間に偽装していたんだよ。んで、倒された魔王様の角を取って魔王討伐の証にしたんだ。みんな知ってるよね?あれが魔王になるために必要な物だってことは。あれは強い負の感情に惹きつけられると自然と感情の主に取り憑いてその者を魔王に変えるんだ。もちろん適合する必要がある。しなければ深い憎悪に耐えられずに絶命しちゃうんだけどね」
フレンは淡々と事情を説明する。
「レノンなら最強の勇者だからその点は心配なかったし、国から裏切られることもわかっていたから器としてはパーフェクトだったんだよね。だから私は彼を魔王にした。分かってもらえたかい?」
フレンが話し合えるとしばらく沈黙の空気が流れる。
魔王様を倒した勇者が新たな魔王となる。
信じがたい話だがフレンは全く嘘をついているように見えないし、何より本人がそれを認めている。
しばらく続く沈黙を破ったのはドゴラだった。
「……我は最初から不思議に思っていたことがあった。なぜレノン殿が人間の娘を連れているのかを。しかし今のフレンの説明で合点がいった。レノン殿が元人間ならばそれは至極当たり前なことだと。そしてなぜ我はその可能性に気がつかなかったのかと」
ドゴラにしてはまともなことを言うなと思った。
「ドゴラの言うことはもっともだね!僕も気になってたけど気にしないことにしてたんだ!メリザちゃんは魔王様にとって大切な人だってことが分かってたから!」
スラメはどんな状況でも変わらない。
スライムというのは自由な種族だ。
だが今はそれに助けられる。
「なにを言ってあるのだお前ら!!この男はあまつさえ魔王を名乗った挙げ句その実魔王様を殺した男だぞ!?お前達はこの男にくみすることがどういうことなのか分かっているのか!栄光ある魔王軍への冒涜だぞ!!」
この状況を最大限に利用しようとするゴズであった。
「……だからどうしたってんだゴズ」
意外にもそう声をあげたのはワンズだった。
彼は先代魔王を心から尊敬していた。
それ故にゴズの計算だといち早くこの男を裏切ると踏んでいた。
「確かに先代の魔王様を殺したのはレノンかもしれない。恨みがねぇわけじゃない。だけどな俺やここにいるレノンに味方する種族はもうすでにこの男を新たな魔王と認めてんだよ。元人間だろうがなんだろうが関係ねぇ。何より大事なのはな……俺たちの上に立つだけの実力があるかないかそれだけなんだよ。ちなみに言っておくがなゴズ、お前がいくら魔王様の娘を担ぎ上げて自分が魔王になろうとしても俺たちは一切協力しないぜ。理由は簡単だ。お前には俺たちの上に立つ器がないからだ!」
ワンズの言葉に顔を真っ赤にさせて激昂するゴズ。
ここまで私をコケにするとは許せない。
実力がない?器じゃない?
そんな筈がないだろう!
私は十二翼のリーダーを務め、魔王様の次に最強のゴズだぞ!
「それはお前の意見だろワンズ!!他のものは納得しないだろう!」
「……ワンズと意見が合うのは嫌なんだけど私も同感よ。私たち吸血鬼族はレノン様に助けられた恩があります。実力も申し分ないと。だから私たちはレノン様に味方いたします」
「我ももとよりそのつもりだ。ゴズ、貴様につく理由などもとよりない。そんなことよりレノン殿に逆らえ方が我的には恐ろしいことだ」
そんなこと真顔で言われてもな。
カッコ悪いぜ!ドゴラ!!
「どうやら計画がうまくいかなくなったみたいだねゴス。人望がないのはもともとだけどここまでとはね。ほんと笑えるよ!」
「き、貴様ー!!ここまでの侮辱は初めてだ!!許さぬ、許さんぞー!!!」
さてそろそろ俺の出番だな。
「俺は魔王を倒した元人間の英雄だ。だがな、だからどうした!俺は今魔王となりお前達の前に立っている。それが事実だ!ゴズ!お前がなにをしようが構わない。だがな俺には向かうならば全力でかかって来い!実力の差を思い知らせてやる。そして己の無能さを恥じるがいいわ!!」
レノンは高らかに叫んだ。
その言葉はゴズを威圧し、自分との差を分からせるためのものだ。
「ぐっ……!今日のところは引いてやる!!だがなっ貴様!これで勝ったつもりになるんじゃないぞ!お前らもそうだ!!そいつについたことを後悔させてやるわ!!いくぞ!ゴブル、マホ!!」
「………おう」
レノンに背を向けゴズとゴブルは部屋から出ていく。
しかし約1名動かない女がいた。
「おい、マホ!帰るぞ!!」
「………………」
ゴズの怒声にも彼女は全く動かない。
両手で自分の体を強く抱き、ふるふると震えている。
息づかいもかなり荒い。
様子から察するに何かに怯えているような雰囲気を醸し出している。
「どうした!私を無視するのですか!?」
「……………い」
「何かいったかね?」
「……………いいっ!!!たまらない、たまらないよぉー!!魔王様ぁー!!!!その魔力の質!そして魔力量!!想像以上だよぉー!!ねぇ、もっと近くに寄っていいー??もっと近くでその魔力……カンジさ・せ・てぇ……!!」
うぉ!なんだこの情緒が不安定な女は!?
目がいってやがる!
「え、ええい!!近寄るでないわ!!」
「そ、そんなこと言わずにさぁ……!私をあなたの近くに置いて欲しいんだよぉー!!ねぇお願いお願いー!!」
「マホ!!それ以上我主人に不用意に近寄ることはこのドゴラが許さんぞ!」
ドゴラがマホを静止するために槍を構え立ち塞がった。
「……うっさいんだけどぉー。あとぉ……邪魔!!!」
マホが放った魔法でドゴラはぶっ飛んだ。
その威力は凄まじいものだ。
ドゴラが壁に埋まってしまった。
「……なんで我いつもこんな役目………ガク」
俺は美味しいポジションだとは思うけどな。
おっと、そんなことはどうでもいい。
今は近づいてくるこの変態を止めなければ!
「元十二翼の1人ウィッチ族のマホはぁ……、魔王様にぃ、忠誠を誓いますぅー。だからどうがマホをぉ、そばにおいてぇー」
………忠誠?
彼女はゴス派じゃないのか?
それは誰もが思ったことで
「おい!マホ!!貴様どう言うことだ!!私に付くのではなかったのか!?」
なんてゴズが叫ぶのも至極真っ当なことである。
「マホはぁ、あんたのみかたになるなんてぇー、一言も言ってないしぃー、最初に言ったこと覚えてないのぉー?」
「何をだ!!」
「……だからぁ、マホは最初からぁー、魔王様にご挨拶するために来たっていうことだよぉー。そのついでにあんた達のお願いも聞いてあげただけだよぉー」
「なっ!!」
確かにマホは最初にここに用事があると言っていた。
それがまさかこのことだったとは思いもしなかった。
下等と罵ったがウィッチ族は十二翼の一翼だ。
それを支配下に置いたとぬか喜びしていた自分がアホらしいじゃないか。
ゴズは赤い顔をこれ以上なく真っ赤にし、ズケズケと魔王の部屋から出て行くのだった。
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