第2話魔王城



 グランデア大陸の北側に位置する魔王城。

 かつてレノンが魔王との激戦の末、討伐した場所。

 魔王となったレノンはまず自らが滅ぼしかけた魔王国の再建から始めなければならない。


 今レノン達は魔王城最上階にある魔王の部屋にいる。

 そこでメリザを仮設のベットに寝かせ、フレンと魔王軍の現状と今後の指針について話をしなければならない。


「フレン、魔王軍はどうなったんだ?」


「現在魔王軍はレノン様が魔王を倒したことにより解散しております。幹部達も自分の領地に帰っているでしょうね」


「あー、そうなのか…とりあえずこの城には誰も残ってないんだな?」


 俺がそう言うと、フレンは首を横に振り


「いえ、先代魔王様の娘がおります。あと娘を使って魔王国を再建しようとすると奴が残ってるみたいですね」


「そいつはどこに?」


「おそらく娘の部屋か客室のどちらかと思われます」


 フレンの意見が曖昧なのはしばらくの間魔王軍を離れて俺たちのパーティにいたからなのだろう。


「まぁこの部屋にいなかったのは良かった。ここは使わせてもらおう。さて話は変わるがフレン、お前を俺の秘書として雇おうと思うのだがどうだろう」


 フレンは俺が魔王になることを見越していた。

 フレン曰く、人間界で俺以上に魔王の適性を持った人間はいないとのことだ。

 その鋭い観察眼や状況把握能力、判断力は今後も役に立つだろう。

 そして何より、今は味方が欲しいのだ。


「はい、ありがたく受けさせていただきます」


 軽く頭を下げ快く了承をしてくれた。

 結果は分かっていたとはいえ、今まで散々な目にあった分少し嬉しかった。


「よろしく頼むぞ。では、最初の仕事だフレン。各地に散らばった元幹部達を集めてくれ」


 まずは何より仲間を集めをしなければならない。

 魔王軍を再編しなければ、人間どもと戦うことはできない。

 いくら俺が大陸最強の英雄だったとて、それと同レベルの強さを持っている人間を俺は知っている。

 あの戦いに参加したのは猛者揃いだったからな……

 未だになんであそこで優勝したのか分からないレベルで。


「かしこまりました、魔王様」


 そういうとフレンは部屋から出ていった。


 俺はフレンがいなくなった部屋で少し息を吐いた。


 さてこれからどうするか。

 何より娘と利用しようとしている奴のことも気になる。

 俺は元人間だ。

 元魔王の娘と元人間の俺では求心力の差は歴然だろう。

 向こうが本格的に仲間を集め始めたら確実に向こうに人が集まる。

 それは俺にとっては良くない状況だ。

 だから先手を取る行動が必要になってくる。

 しばらくは元人間ということは伏せておいた方が良いだろうな。


 やることは多い……が、まずは…


「メリザ」


 俺はメリザが横になっているベットに座る。

 するとメリザは顔をこちらに向け、微かな声で「にいさま」と俺のことを呼ぶ。

 魔王の姿になった俺を変わらずそう呼んでくれることに俺は感謝しつつ


「もう大丈夫だ。二度とお前にこんな目には合わせない。俺が絶対に守ってやるからな」


 手を握ると、そっと握り返してくれた。

 その手の温もりに再び俺は泣きそうになるが、グッと我慢をした。


「そばにいるから……安心して休むんだ」


 表情をなくしていたメリザの顔が微かに和らいだようにみえた。

 そしてしばらく経つとスウスウと寝息が聞こえ始める。

 安心したのだろうか。


 俺は立ち上がり、デスクに向かう。

 そして引き出しの中にあった地図を広げ、自分が魔王から取り返した土地と現在の魔王領、そして人間領を書いていった。


 現在大陸の90パーセント以上が人間領となっており、地図の北側にポツンと魔王領がある状態だ。

 それは本当に豆粒の程度の悲しいものだ。


「この状態にしたの俺なんだよな…」


 こうなるんだったらもっと考えて行動すれば良かった。

 そう後悔しても意味がない。

 まず手始めに隣接する領土を落として…


 などと考えているとフレンが戻ってきた。


「早いなフレン。もう終わったのか?」


「はい、手紙を私の部下に渡して届けさせております。今日中には届くのではないかと」


 やはり手際がいい。

 そういえば以前にもフレンが誰かに手紙を書いていたことがあったが、もしかしたら魔王宛だったのかもしれないな。


「助かる。で、どのくらい集まりそうだ?」


「正直に言いますと、今回手紙を送ったのは、比較的常識のある8人です。そのうち集まりそうなのは3人といったところでしょうか。なにぶん血の気の多いのが魔王軍ですから。実力を見ないうちは従わない連中ばかりですし」


 常識のあるといったところに甚だ疑問を感じずにはいられなかった。

 もしかして頭のおかしな連中ばかりなのか魔王軍って。


「……まぁそうだよな。少し待つことにしよう。気になれば向こうから来るだろうし、来ないなら俺から出向いてやるまでだ」


 実力の差を知らしめてやれば俺に従う。

 強者に従うのが魔王軍のルールというのであれば、その流儀に従うべきだろう。


「実力の差を示すのですね。ならば1番に味方にするならば龍族のドゴラが良いかと思います。力と知性を持ち合わせた魔王幹部の中でも上位に位置していた男です」


「龍族か……確かに仲間にしたら強いだろうが、味方になってくれるか?」


「龍族は強者に従います。レノン様なら軽く倒せるでしょ?」


 俺の方を見てニヤッと笑った。

 ……妙な期待をされるのは嫌だが、魔王を倒した俺だ。

 龍族だろうがなんだろうが、軽く捻ってやろうではないか。


「…分かった。返答を待って来なければ竜族を訪れるぞ」


「分かりました!」


 ひとまず8人の返答を待つことにする。

 一番いいのは労せず仲間を増やせることだから。



 ◇◆◇◆



「で、返答は?」


 数日後、俺はフレンにそう聞いた。


「1人だけですね…というか1体?今ここに来てますから」


 俺の目の前はスライムがいる。

 丸々とした青色のボディ。

 うん、よく見るスライムだ。


「……喋れる?」


 俺がそう聞くとスライムはフルフルと横に揺れた。おそらくできないと言っているのだろう。

 しかし喋れない相手との会話は少し厄介だ。


「俺の仲間になりに来たので間違いない?」


 縦に揺れた。


「ならば…契約だ」


 俺はスライムを中心に魔法陣を展開した。


『我と契約し、配下に加わることを了承するか?』


 縦に揺れる。


『ここに契約はなった。汝に新たな力を授けよう』


 するとスライムは人型へと姿を変えた。

 少女のような可愛らしい見た目だ。


「すごい!喋れるようになった!!なんで!?」


「俺が授けた力は『変化』。これは見たものになら何にでも変化できる。さらに少しくらいならアレンジもできるという優れものだ!」


 俺が使った契約には能力付与という特典がつく。

 魔王になってから取得したこの能力だが、それなりに役に立ちそうだ。

 今後も仲間が増えたときには利用しよう。


「ほんと!?すごいね!?あ、自己紹介がまだでしたね!お初にお目にかかります、魔王様!私はスライム族代表のスラメといいます。魔王様が復活されたと聞き、飛んで参りました!」


 すごくフランクにそして積極的に話すスラメにレノンは少し引きつった顔を浮かべ、


「う、うむ。よく来てくれたぞスラメ。我が部隊に加わり存分に働いてくれ」


「分かりました!僕たちスライム族一同魔王様に従います!」


 友好的でよかった。とりあえず1種族仲間が増えた。

 ただ8人中7人来ないか…


「すみません、魔王様…自分勝手な奴らばかりで…」


「なに、フレンが謝ることはないさ。全員俺から出向いて実力を見せろって言ってんだろ?やってやるさ。そして分からせてやる。新たな王の実力ってやつをな!」


 人間と戦う前に、俺の仲間を集める戦いが始まろうとしていた。


 ◇◆◇◆



「なに!?魔王が復活しただと?」


「はい!魔王を名乗るものから手紙が届いたとゴブリン族の長から情報が入りました」


「なんてことだ!私たちが娘を使って魔族どもを支配しようとしているところを……」


 ここで邪魔をされればせっかく立てた計画がパーだ。

 そんなことは許されない。


「おい!種族全員に使いを送れ!偽物の魔王が現れたから従うなと。そして魔王の娘の下に集結せよとな!」


 邪魔などさせない。

 娘を使って私が王になるのだ。

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