25:これを解決とは言わないでほしい

【第137回 二代目フリーワンライ企画】

使用お題:バレたら身の破滅

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負


:::


「私は見ました。人目につかないところで、壁に押し付けて口説くのがどこがコミュニケーションなのですか? バレたら身の破滅なのに」


 身を乗り出し、目撃したことを言い放つ。落ち着け小湊、と五月先輩の鋭い声が飛んできたが、それでも気持ちは落ち着かない。 


「だから、冗談だと言っているじゃないか。ふざけてからかっただけのことを、なんでこんなに非難されなくてはいけないんだ。時間の無駄だ、こんなこと」


 ついに四十万氏が声を荒げる。デリカシーの欠片も無い発言に、さらに言葉を重ねようとした、そのときだった。

 静留くんが「あの」と声を出す。


「四十万さんは、あくまであれを冗談だと……僕をからかっただけとおっしゃるんですね」


「そりゃあそうだろ、男が男を口説くなんてそんなこと、冗談でしかやれないだろう。そんなこともわからないのか、君は。それをなんだ……セクハラだと言って、私に謝れと言っているのか。まったくそんなことのためにこんな無駄な時間を。もう学生じゃあないんだぞ、我々は社会人だ」


 すると静留くんは。小さく息を吸い込み、しっかりと四十万氏を見つめた。


「謝罪は必要ありません」


「はあ?」


「僕は、必要以上のスキンシップと、性的指向に関する決めつけの発言を止めていただきたいだけです。今後、を作らないために」


「私も同じことを提案します。無駄な時間とおっしゃるのならば、を避けるのも、社会人としての行動なのでは?」


 砂州さんが、静留くんの援護をするかのように発言する。

 苦虫をかみつぶしたような顔をした四十万氏は「やればいいんでしょう、やれば。分かりましたよ、今後そういう『冗談』を言わなければいいんでしょう!」と半ばヤケのように叫んだ。

 そして「話はこれで終わりなんだろう? 私は仕事に戻らせてもらう」と早々に立ちあがる。それを見た堂島部長は「無駄な時間だな」と呟いたあと、席を立って部屋を出ていった。


 残った私たちは、誰も言葉を発しようとせず、ただただ空調の音が部屋に響くだけだった。

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