11:鏡の中の自分【R15】
※今回のお話は、強制的な男性同士の性行為があったことが前提のお話です。個別にR15のセルフレイティングを付けてあります。(直接的な描写はありませんが、倫理観に反する内容の為、自主的な注意喚起の意味があります)
※2021年4月29日 前半部分を削除と改稿をしました
【第122回 二代目フリーワンライ企画】
使用お題:眉一つ動かさず
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
9.わたしの彼氏は花が似合う の後日談。静留の過去話
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生ぬるい暖かさの残るベッドの上に、僕は行為の終わったそのまま、体を投げ出した。着衣がどこも乱れていない彼女が見下ろす。眉一つ動かさずに。
仕事が終わったあと、ホテルに連れ込まれたときから手ひどくされるのはわかっていた。けれど、まさか見知らぬ他人――ネットで見つけた行きずりの男性――に犯させるとは。手ひどく痛めつけられ、あられもない姿を晒し、それらは全てスマホのカメラで撮影されていたはずだ、彼女の手で。
そう、彼女は僕が男性と寝ている様をずっと眺めていただけだった。時折
「いい声で啼くわよ、彼」「早くやっちゃって。乱暴にしていいから」「だってそうしてる静くん、かわいいでしょう?」と相手を煽りながら。
彼女が今日一日、ものすごく機嫌が悪かったからだ。客先からの無茶なクレーム対応に明け暮れていたのは、同じ職場だから知っている。精一杯支えたつもりだったけど、彼女は上長から別室で怒鳴られていた。
わかっていたけれど、彼女は仕事が出来るから。仕事が出来るひとをこれ以上壊させてはいけない。こんな行為でも、彼女を満足させれば安泰なのだ。仕事も、僕らの関係も――たぶん。
「すこしは、元気に、なっ、た?」
もうろうとする意識の中、それだけが聞きたかった。
しかし彼女は、なにも言わずに後ろを向く。そして、急にうずくまってすすり泣き始めた。
「――さん」
「やだっ、もう、やだっ!!」
あとは言葉にならない。のろのろと痛むからだを無視して起き上がり、彼女に近づく。
ここ最近、彼女は僕になにかひどいことをしたあとに、こうやって泣いて喚く。別に僕に謝罪をしているわけでもない。仕事への恨み、あからさまなセクハラをしてくる男への暴言、彼女を妬む他の社員への悪口――彼女を取り巻くいやなことに対しての呪詛を、ずっと、気の済むまで。
そっと肩を抱く。彼女の手を握る。それでも、彼女は呪詛を吐き続ける。一度も僕のほうは見ずに、指も、絡めずに。
自分がなんの助けにもならないのだと、心が冷えていくのを感じながら。
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はっとして目が覚める。なんの変哲もない日曜日の朝だ。カーテンから日の光が射していないことを思うと、きっと曇りか雨かもしれない。
寝汗がびっしょりと寝間着をぬらし、髪の毛が張り付いている。
ドキドキと脈打つ音が、いやに大きく聞こえる。
あの頃の夢だった。なんでいきなり。
枕元に置いていた携帯電話を見て、思い出す。
「あ……」
昨日のデートで、合歓さんにカメラを向けられた。彼女は悪意を持って向けたんじゃないとわかっていても、それでもいやでいやで仕方なくて、きちんと伝えた。
合歓さんはすぐにスマホをしまって、大丈夫だよと言ってくれた。
つきあい始めるきっかけの日、酔っ払っていた僕は、元彼女のことを洗いざらい合歓さんに愚痴ってしまっている。きっと彼女は思い出してくれたのだ。
「……合歓、さん」
今、一番大好きなひとの名前をつぶやく。
自分の過去を知った上で、恋人らしいセクシャルな接触を一切してこない彼女。下ネタが好きなのに、本当は自分を抱きたかったのに、きちんと嫌だと拒否したらやめてくれたひと。
昨日、勇気を振り絞って彼女の手を握って、気持ちを伝えた。柔らかくて、ちょっと荒れ気味の、技術者の手だ。マニキュアすらしてない素の手は、あったかくて、彼女らしいと思う。
彼女に触られるのは、嫌じゃないかもしれない。でも、と思う自分もいる。
「……わがままばかり、だ」
涙が出てくる。すると、隣に置いていた姿見に、情けない姿が映るのが見えた。
「――!」
そこに、一瞬、元彼女の顔が浮かんだ気がした。泣きじゃくり、逃げようとして、我を通そうとする、臆病でずるい顔。
自分の心を平穏に保つために、好きなひとを利用しているのは、同じなのでは?
どんよりとした部屋の中、僕はしばらく言葉を失い――鏡の中の自分を見つめることしか出来なかった。
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