番外編 愛も炭酸も振りすぎにはご注意
合歓さんが何かを欲しいと思ったということについて、指先あるいは喉・呼吸(台詞ありなら口調可)、または両方の動作で表現してください。場所は晴れた昼間の室内です。台詞を入れても構いません。レッツトライ!
#創作筋トレ #shindanmaker
(歌峰由子さん作成の「創作筋トレ★動作で表現」https://shindanmaker.com/962115 のお題より)
2020年7月14日にツイッターで書いた話の加筆版です。
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やたらめったら、喉が鳴る音が大きく聞こえた気がする。気がするのは自分の喉だからだと思うんだよね。ほら、緊張したときとか、目の前においしそうなものがあったときは「喉を鳴らす」って言うじゃないですか。アレですよアレ。
いつものダイニング(もちろん私の部屋だ)の小さなローテーブルには、ポテトサラダ、生ハム、枝豆の茹でたて、ローストチキン、そしてなにより、冷えたハイボール!
「昼呑みじゃあっ!! 待ってましたアルコール! 喉がなるゥ!」
「好きだねえ、合歓さん」
「ほら静留くんもどうかね」
「僕は無糖の炭酸水で……いいですかね……」
凍らせたレモンを入れただけの炭酸水グラスを持って、私の彼氏どのははにかむ。
「もちろん! 今日は晴れててレモンが似合う!」
今日は昼前から材料を買いに行って、小さな台所で並んで料理をしたのだ。穏やかな陽気の中恋人と買い出し! というだけでもテンションが上がる。なお、行った店は近所のスーパーなのだが。
「ほあ~流行りのポテトサラダ! 手作り! あの『簡単そうに見えるけど実は滅茶苦茶めんどくさいから作りたくない家庭料理トップスリー』に入る! ポテトサラダ!」
「そ、そこまでポテトサラダで盛り上がれるひとも珍しいね……?」
「だってこんなめんどくさいのリクエストしてしまいましたし」
「でも合歓さん、ちゃんと一緒に作ってくれたじゃないですか」
そう、ポテトサラダの芋は私が潰したのだが「きれいに潰せてます!」と褒められた。料理はできないからちょっと照れくさい。
しかし、面倒くさいことは彼がやってくれたので、今度は私も覚えたいものだ。
「さあ食べよーか!」
ボウル一杯のポテトサラダを意気揚々と小皿に取り分け、静留くんの目の前に出す。すると、彼は「ああ」となぜかオロオロしはじめた。
「分けてなかったですね、ごめんなさい」
シュンとなる静留くんに、巨大なハテナが浮かぶ。
「む? ボウルに近いの私だし、気にしない気にしない。じゃあ静留くんは、そこの生ハムを取ってくれないかな。それでおあいこでどうだろうか」
腕を伸ばさないと取れない場所に置いた生ハムの皿を指さす。すると、静留くんは、今気が付きました、というような呆けた表情になる。そして、唇をきゅっと結んで、
「……合歓さんのそういうところ、好きです」
と、言うではないか。
「はい?!」
待て待て。芋を潰すだけか、ポテトサラダを取れるだけの能力しかないぞ、小湊合歓は。
「頼める、頼まれる……どっちもできる関係って、今までないから」
と、ぽつりこぼす。
奉仕する……一方的な関係性しか知らなかった彼は、最後の最後に追い詰められて、やっと逃げ出せた過去を持っている。
些細な場面で、いまだに元カノの呪縛が見える。とても、とても悲しいし、なんならちょっと怒りすら湧く。
「……私もできないことたくさんあるし、頼んじゃうこともある。ほら、料理みたいに。でも静留くんができないことは、私もやるし、少しは覚えたいとも思うから。なんか、その……あまり気負わないでくれると嬉しいなあ」
水を与えられすぎた植物は、根が腐って枯れるのだと聞いたことがある。相手の主体性を奪うことは「親切」でもなんでもない。それは、ただの支配欲だ。
そんなの、愛情でもなんでもないだろう。きっと。
「ほーら、炭酸が抜けてしまうゾ。乾杯しよう~」
冗談めかしてグラスを持ち上げると、やっと彼が笑ってこちらを見た。
それそれ、それが一番欲しかったよ。
軽くグラスを合わせながら、ニヤニヤニタニタ笑うのだった。
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