8.5 見ないふりの気持ち
合歓さんが見惚れたということについて、体全体あるいは喉・呼吸(台詞ありなら口調可)、または両方の動作で表現してください。場所は薄闇の室内です。第三者の一人称で書いてください。レッツトライ!
#創作筋トレ #shindanmaker
(歌峰由子さん作成の「創作筋トレ★動作で表現」https://shindanmaker.com/962115 のお題より)
2020年8月16日にツイッターで書いた話の改稿版です
8:わたしの彼氏は無防備だ https://kakuyomu.jp/works/1177354054895698790/episodes/1177354054905435807 の後の話
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ゆるゆると、眠りからさめる。
この天井、自分の部屋じゃない。
頭が暖か……い……?
「……!?」
合歓さんに膝枕されていることに気がつくのに、少し時間がかかった。
そういえば、残業と連勤続きのあと、合歓さんの部屋で映画を見ていたことを思い出す。
急いで起き上がろうとしたけれど、まだ疲れが取れてないのか、起き上がれない。
「ごめんなさい、まだ体が……」
電気もつけられていなかった薄闇の中で身じろぎすると、合歓さんの体が突然びくり、とうごく。はっ、と息をのむ音がやけに大きく聞こえたあと「かわいい……」としみじみつぶやかれた。
目を丸くすると、やおら合歓さんは慌て、「あのあのそのその」と言い出した。
「ああっ、目が覚めたね? あのなにもしてません、指一本たりとも触れて……いえごめんなさいちょっと手が滑ってほっぺただけ触ってしまい申し訳……なく……」
全く覚えていない。
「あの、こっちこそ、寝ててごめんなさい」
「ええっいやいや、疲れてたんだもの、しゃーない。弊社も変なところで社員をこき使いやがって」
合歓さんの言う通り、僕は会社でシステムエラーが起きたため、連日残業続きだった。合歓さんも「無理して会わなくてもいいよ」と言ってくれたのだが、そこを「一緒にいたいので」と押し通したのは自分だった。
眠い、でも、ひとりは寂しい。そこに疑問を持たなかったのは、疲れていたからなのだろう。眠ってすっきりした頭で思うと同時に、なぜ彼女へわがままを通してしまったのか、と後悔が襲う。
やっと体を起こせるようになったので立ち上がる。もう大丈夫なの? と心配する合歓さんに大丈夫ですよと言おうとした瞬間、彼女の太ももが目に入った。ショートパンツなので、素肌……だ。慌てて、視線を逸らした。
嫌では、なかった。むしろ、不可抗力でなすがままだったのは合歓さんのほうで、体重もかけていたし、密着……もしていた。
意識すれば、体中がかっと熱くなる。
「あの、ひ、膝枕、させちゃって……触ってごめんなさい」
「ほへっここここっちはなんも問題ないよ?! む、むしろその、静留くんは大丈夫……ね、寝れた? しょ、小生の膝枕で……」
「ぼ、僕は、」
そこではっと気づく。
彼女は僕に、気を遣ってくれているのだ。
体を近づけることも、それ以上のことも、僕が「嫌だ」と最初に言ったから。
……約束を律儀に守ってくれている彼女にわがままを言う自分が、心配されてはいけないのに。
「……大丈夫、です。よく、寝られたので……」
まともに顔が見られず、俯く。
嫌じゃなかった、ことは確かだったのだ。暖かくて、安心する。
それはきっと、合歓さん、だからだ。
わがままな事を言うなという自分と、だれかと一緒にいる安心感にすっかり魅了されている自分がいる。
すると彼女は「そうなのか……?」と首をひねったあと、自分のお腹と太ももを指差して、
「ああ、そうだね、脂肪が多めなのであったかさはあるな……役に立った!」
というではないか。
「――ちっ、違う、そういうことじゃ!」
体型のことを揶揄したつもりはなかった。だが、そういう意味にとられるのならば訂正したい。
「体のことではなくて! あの、合歓さんだから安心してしまって、あったかくて、気持ちよくてだから嫌なんかじゃな……っ」
もう気持ちはぐちゃぐちゃだった。自分の「安心」のために、貴方を利用したのに。せめて、嫌ではなかった、貴方は安全なのだと伝えたくて必死に言う。
「……?! 気持ちよい……気持ちよいとかそんなの言っちゃだっ……」
合歓さんは顔を覆って「あーーー!」と言いながら立ちあがり、ごそごそと動く。
パッ、と部屋の明かりがついた。リモコン片手の合歓さんがぜえはあ肩で息をしていた。
「もう夜です! 夜ご飯だよっ、静留くん!」
明後日の方向を向いた合歓さんが叫ぶ。時計を見れば、既に十八時を過ぎていた。
「そ、そーですね…?!」
さっきまでの空気が変わり、いつものおどけた雰囲気になる。なにが食べたい? 笑う合歓さんに、さっきまでのぐちゃぐちゃな気持ちが平らになっていく。
いつまでこの「安心」に甘えていいんだろう。そう思う自分の心を、見ないふりしつつ、なんでもない日常の空気に戻っていく自分がいた。
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