第47話 いつかみんなで渡る日に

体のあちこちが痛い。


牙も片方欠けてしまった。


口の中には血の味がする。


「私は何か間違えたのだろうか」


ニーグはそう言う。


「いや、ニーグ、君は間違えてはいないはずだよ。多分、タイミングが良くなかっただけなんじゃないかな」


ぼくはそう返した。


「タイミング、タイミングか。人の一生は星からしてみれば取るに足らない一瞬だ。あまりに早く過ぎてしまうために価値などないかのように思えてしまう。だがそれは違った。人の営みというものはその早さとは別の領域にあるのかもしれないな」


「そうだね」


「星の子よ。お前さえ良ければ、私の宇宙の旅に付き添ってはもらえないだろうか」


ぼくは答えて言った。


「ぼくはいいや。みんなが居る街の方が好きだし、君の提案には乗れないな」


ニーグの背中は寂しそうだった。


「私にも出来るだろうか。本当の『友達』というものが」


「君には、もういるじゃないか」


そこまで言ってはみたものの、ニーグの背中まで来てしまったから、帰り方が分からない。ニーグの開いた穴から見えるのは裂けた先の街の景色ではなく、どこか知らない宇宙の景色を映していた。


どうしようか、と思っていたら、お腹の辺りが青く光っていることに気づいた。


「『友達』が呼んでいるぞ」


「うん。じゃあね、ニーグ」


「さらばだ、レオ」


転送が始まり、青く染まってゆく世界の中で、ニーグの声が置き土産のように、残響していた。

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