第12話 唐突なことは予言されたこと
シリウスさんが事故に遭った。
そのニュースを聞いたのは、昨日のように図書館に向かったレオくんだった。彼の不思議な変身と、その活躍はもうこの街では知らないものはいない一大ニュースになりつつある。彼が街中を歩けばライオン紋の王子様と呼ばれ、彼はコンベアーに乗りながら笑顔で手を振る。テレビ記者が彼に会いに来ると、彼は気分よく、ハキハキと答える。
私はそれを夜のニュースで知り、テレビ画面に映している。レオくんは街中の野次馬もテレビ記者の違いもわからない。彼はライオンの尻尾をもう誰にも隠さなくなっていた。
「骨折しているだなんて」
私はどうしても呟かずにはいられなかった。この街では車は必需品ではない。むしろ不要なのだ。コンベアーで移動手段は確立されているために、交通事故だって起こらない。
病院に駆け込んだ私とレオくんに、医師はその原因について多くを語らなかった。ただその症状だけを説明するだけだ。シリウスさんの病床には私たち以外に座る人はいない。彼はたった一人で海を越えて、たった一人で暮らしてきた。海の向こうの彼らの家族は向かってきているらしいが、到着は今日の未明となるらしい。
「携帯端末で床にいても『元気だ』と伝えられる。良い時代になった」
シリウスさんは事故に遭ったその時を覚えていない。気づいたら病床に寝かされていたのだ。レオくんはシリウスさんを心配そうな目で見つめる。その目から何度も涙を流して、ときおり何故か、ごめんなさいとしきりに謝っている。
「きみはシリウスさんの骨折りには、まったくの無関係でしょう」
「同感だ。私が悪いのだ」
「シリウスさんが悪いんじゃないんです。運が悪かったんでしょう。きっと階段で転んだんですよ」
私が彼の心を推し量ることはできない。けれど事実確認をきっちりしておけば、彼がその心を痛め過ぎずに済むだろう。
シリウスさんはシワシワの手でレオくんの頭を撫でる。
レオくんは、まだごめんなさい、ごめんなさいと謝るばかりで、シリウスさんが彼を抱き寄せると、彼はその涙がシリウスさんの服を濡らすのもお構いなしに大声で泣き出した。
「お前が、どうして背負ってしまうのだ。罪を背負うべきは私と、この街に生きる全ての人々なのだ」
何故と聞いても、シリウスさんは私には答えを教えようとはしない。
「君はきっと全て分かっている。分かっているのに見ようとしない。自分には関係がないと、ただ目を背けているだけだ」
レオくんを優しく撫でながらシリウスさんの私を見る目つきは、とても冷ややかだった。
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