異世界巨大迷宮攻略大作戦 part 12

 ガデリオン平原巨大迷宮、その入り口の存在する地上の草原にて。

迷宮攻略のために貼られたテントの内部では、悪魔達が思い思いに過ごしていた。

スマートフォンをいじる者、目を閉じ寝息を立てる者、暇そうに外の景色を眺める者。


そんな中、次元の悪魔ディメが何かに反応するかのようにして外へと顔を向けた。

そして徐に立ち上がると、ベストのヌメポケットからスマホを取り出し画面をタップする。

それを不思議そうに見ていたマァゴが話しかける。


「どしたの?」


「いやね、どうやら俺たち以外にも”ここ”に用のある連中がいるようでね」


ディメは手にしていたスマホの画面をマァゴへと向ける。

それを周りの他の悪魔達も覗き込むようにして画面を見る。


画面には、上空から撮影していると思われる映像が流れていた。

それはどうやら広い草原のようで、あたり一面緑色と土色が広がっていた。

そんな草原の中を、たくさんの人間の集団が大移動を行なっていた。

集団の誰も彼もが銀色に輝く鎧を身に纏っており、所々に上官と思しき馬に乗った人間もいるようだった。


「なにこれ?」


「多分この草原の近くにある国の軍隊だろう。目的は概ね迷宮攻略ってとこだろう」


スマホの画面を見ていた悪魔達はあまり興味のない様子だった。

すぐにまた自分座っていた椅子に戻る者いた。


「これどうやって撮影してるの?」


「ドローン」


「なるほど」


スマホを受け取り画面を興味深げに眺めていたマァゴが、画面を見ながらディメへと声をかけた。


「そういえば、ここは今僕らが攻略真っ最中でしょ?部外者乱入ってことじゃない?」


「そうなるな。となると誰かに排除してもらわんといけなくなるなあ」


ディメはそう喋りながら、顎に手を当てて考える素振りをする。

その様子をテント内の何名かは冷めた目つきで眺めていた。

ここまでくれば言われなくてもわかることだ。

その部外者排除を自分たちが行うんだろう、と。


いや、そもそも迷宮攻略にここまでの人員が呼ばれていた時点で嫌な予感はしていた。

ディメのことだ、こうなることがわかっていてバックアップ要因と称して余分な人数を集めていたのだろう。




「そういうわけだから、ラブユーとウームブ、あとついでにマァゴも、邪魔者の排除よろしく」


ディメは一つ目だけで良い笑顔を表現すると、さよならとでも言いたげに手を立てて横にふった。

呼ばれた悪魔達の反応はバラバラであった。


ラブユーはまるで素直な生徒のように、「はーい」と手を上げテントの外へと歩いてゆく。

ウームブはけだるげにため息を一つ、そのままなにも言わずに歩いて行った。

マァゴはというと、まるで遊びにいくかのように瞳をキラキラさせながら外へと走って行った。

手に持っていたスマホをほっぽり投げて。


その様子を見ながら、ルインはため息をついた。


「…いいのか?あの連中にそんな仕事をさせたら、目立ってしょうがないぞ?」


「別にかまわんさ」


ディメは軽く肩を竦めると、マァゴの落としたスマホを拾った。

そして折りたたみ式の椅子に座ると、スマホを横に構えた画面に目を向けた。


「こういう事は派手にやるのが一番さ」






 「ユービス様、前方から不審な人影が」


「ふむ…敵の斥候かも知れん、注意しろ」


鎧を見に纏ったこの一団、この草原を領地としている国の騎士団である。

草原に突如として現れたダンジョンの入り口。

内部に入り生還した冒険者の証言では、中には強力な魔物が多数存在していると。

その他知能の高い魔物や、幹部と思しき亜人の存在の確認などの証言から、国はこのダンジョンを魔王軍の拠点と判断しこうして軍を差し向けたというわけである。

しかもこれはただの軍ではない、本来ならば王都に居を構え、王族の身を守るために存在する騎士団である。

それを軍隊として差し向けるあたり、国が魔王軍をどれほど脅威に思っているかが窺えるというものである。

そもそもこの草原が王都に近いというものもあり、攻められる前に攻め滅ぼすという作戦を実行すべきと判断したのだろう。


そんな騎士団を指揮するものとして、ユービスなる者がいた。

彼女は女性ながら男ばかりの騎士団において団長として君臨していた。

それは家柄も少なからず影響していたが、最も大きな理由としてその実力にあった。

模擬戦において彼女に勝利したものはただの一人として存在しておらず、また頭脳明晰であることからも指揮官としての実力も高い。

まさしく騎士団最強の女騎士。

その称号に嘘偽りは無かった。




「そこの者達!止まれ!」


今、進行を停止した騎士団の前に、正体不明の者達が現れた。


一人は貴族の着るような白いシャツと黒いズボンを履く男。

肌は闇夜のように真っ黒で、頭からは角が生えており、一つ目がこちらを睨みつけていた。


もう一人は桃色や白や赤色の、フリルやらリボンのついた服を着た少女。

足取りは軽く、場所が異なれば街に繰り出した可愛げな少女にしか見えなかっただろう。


そして一人は、もはや人ですら無かった。

それはまさに心臓、巨大な心臓に手足が生えた姿は魔物にしか見えなかった。


そんな怪しげな三名が横並びになってこちらへ向けて歩みを進めていた。

彼らの外見は一人を除き完全に人外のものであり、魔族かはたまた悪魔…なんにせよ自分達にとって吉と鳴り得ないと判断するには十分な程の情報であった。


「止まれと言っている!聞こえないのか!」


先ほどから騎士団の一人が静止を促すが、歩く三名は一向にその歩く速度を緩めない。

奴らが一歩進むごとに、騎士団員達の緊張感が高まっていく。

私は馬から降り、騎士団員達の前に出る。

そして怪しげな者達へと声をかける。


「貴様ら!我らはガデリオン国騎士団である!これより我らはガデリオン平原巨大迷宮へと侵攻を行う!邪魔だてするならば容赦はしない!」


私がそう声をあげると、不審者三名は歩みを止め、その場で静止した。

距離にして騎士団から数十メートルの位置であった。


すると、三名のうち中央にいる少女が手を伸ばした。

伸ばした手の先に光が集まり、光が晴れるとそこには球体のついた棒のようなものが現れた。

それを口元に近づけると、遠くにいるはずなのにまるで近距離にいるかと思うような大きな声が聞こえてきた。


「みんなー!こーんにーちわー!!」


緊迫した状況下で、こんな気の抜けた声を聞いた事は無い。

私は自身の眉がひんまがっていくのを感じた。


「あれれー?声が小さいなー?こーんにーちわー!!!」


少女が再びそう話しかけ、耳の手を当てて音を拾おうと構える。

しかし、誰一人として声をあげる事は無かった。

いや、不審者のうち歩く心臓が愉快そうに笑ってはいた。


「どうやら今日の観客さんは恥ずかしがり屋さんみたいだね!」


少女は少し首を捻りながら、腰に手を当てた。


「でも安心して!恥ずかしがり屋なみんなでも、今日のライブの後には元気一杯になれるよ!マイク、パス!」


少女はそう話すと、手にした物体…おそらく声を遠くまで響かせる魔術の込められた魔道具…を、隣に立つ黒い男へと投げ渡した。

男はそれを受け取ったものの、一つ目を細め少女を睨みつけた。


「…なんのつもりだ?」


「決まってるでしょ!観客のみんなに挨拶しないと!」


男は怠そうに首を曲げ、あらぬ方向へ顔を向けた。

数秒思案するように目を閉じると、マイクと呼ばれた物体を顔に近づけた。

その様子は、このままゴネるのと大人しく従うのとで、どちらが時間を効率的に使えるか考えたかのようだった。


「…迷宮の悪魔、ダンジョー」


男はそれだけ口にすると、正面をこちらに向けたままマイクを投げた。

マイクは少女を軽々と飛びこし、山なりの軌道を描いて心臓の魔物の頭上へと向かって行った。

心臓は低い高度のジャンプをして頭上に飛んできたマイクをキャッチすると、着地と同時にマイクを体の中央へと構え、喋り出した。


「ぅ我こそはぁ!歌って踊れる神!その名もマァゴ!覚えとけぇい!」


心臓はそう高らかに叫ぶと、マイクを少女へと投げ渡した。

少女は投げられたマイクを受け取ると、マイクを口元へと近づけた。


「ということで!今日は個性的なメンバーでお送りするよ!」


少女はマイクを下ろし、我々騎士団を端から端へと見渡した。

そしてニッコリと笑顔を浮かべると、再びマイクを口元に近づけた。


「それじゃ早速一曲目に行くよー!」




「聞いてください…『初恋と劇毒』」





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The Demons !! かませかませ @wabisuke317

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