異世界巨大迷宮攻略大作戦 part 10

 ガデリオン平原巨大迷宮の地上部分。

今まさに、悪魔達が迷宮攻略をし、そのバックアップ要員が地上に貼られたテント内にいた。

悪魔達が攻略用の仮拠点としているテント内に、誰かのスマートフォンの着信音が鳴り響いた。

それぞれの悪魔が顔を見合わせる中、シルクハットをかぶっった一人の悪魔…次元の悪魔ディメが懐からスマホを取り出した。

そのまま流れるような手つきで通話ボタンを押し、スマホを頭の耳があるであろう部分…頭に身mkらしき部位は無いが…に当てた。


『話がちげえぞこのすっとこどっこいがあああ!!!』


スマホ越しにそんな怒鳴り声がテント内へとこだました。

周りにいた他の悪魔も何事だと視線を移す。

ディメはうるさそうにもう片方の耳に手を押し当てスマホを顔から遠ざけたが、気を取り直してスマホを再び耳元へと運ぶ。


「…何か問題でも?モル…」


『問題もヘチマもありゃしねえ!聞いてた話と違うってんだ!』


「…ちゃんと最初から話さないとこっちも言っている意味が理解できないんだが?」


ディメはやれやれとため息をついたが、通話先のモルデはそんなこと御構い無しに喋りだす。


『俺はなあ!たくさん人間を殺せるって聞いたから今回の仕事を受けたんだ!』


殺人の悪魔モルデは殺人が趣味であり快楽であり、存在意義でもあるため、しょっちゅう殺人を犯している。

あまり目立たれるのも困るため、犯罪者などの悪人を狙うように言いつけてはいるが、その言いつけを守っているか怪しいところである。


『だが蓋を開けりゃあ相手は魔法使いばっかりだ!これじゃあ思いっきり殺せねえじゃあねえか!』


「…魔法使いばっかり?本当か?」


『ああ!俺はこの目でしかと見たぜ!』


それを聞いて、ディメはため息をついた。


「それは悪かったとは思うが、今回ばっかりは諦めてくれ」


『なんだと!?』


「事前調査をした時の調査報告には”亜人がたくさんいる”としか報告されてなかったんだ」


そうディメが口にすると、モルデはさらに不機嫌な声になった。


『一対誰だその調査したって奴は!』


「パラレル」


『…』


ディメがある悪魔の名前を口にした途端、モルデは押し黙ってしまった。

スマホのスピーカーからはしばらくの間、無音しか流れてこなかった。

しばらくして、ため息と共にモルデが話し出した。


「今回のことは貸しにさせてもらうからな!」


『はいはい、わかったわかった』


先ほどの無言の間に何を思ったかはわからないが、モルデは何かを理解してこの話を切り上げた。

ディメの方もその反応は予想済みだったのか、特に気には止めずに会話をしていた。




『それでよお、今豪華な門みてえなやつの前にいるんだがよお、こうなってくるとこの区画のボスも魔法使いだと思うんだよなあ』


「まあ、十中八九そうだろうな」


『別にこっそり殺せーとか、路地裏みてえな狭い場所ならいいんだがよ…広い場所で魔法使いと戦えってなると、俺にはキツイってもんだ』


「だろうな」


二人は次の話題に移っていた。

その会話の内容から察するに、どうやらモルデはダンジョンの担当した区画をほとんど攻略したようだった。


『というわけで…チェンジで!』


「わかった…となると誰にやってもらおうか…」


何やら話が纏まったらしいディメは、スマホを顔の横に当てながらテントの中を見回した。

電話をするディメの様子を伺っていたトモ、ルイン、マァゴに恋の悪魔ラブユーとそれぞれ顔を見たのち、最後に視線を折り畳みのテーブルに足を乗せ、帽子を目玉頭の顔に乗せて寝ていたファジーへと向けた。

じっとディメがファジーの顔を見つめていると、その気配に気付いたファジーが帽子を持ち上げ顔を上げる。

ディメに見つめられていることに気がつくと、何も思ったのかディメへとガンを飛ばし始めた。

その様子を見ていたディメも何を思ったのか頷くと、そのまま通話へと戻った。


「ちょうどいいのがいるからそっちに送るぞ」


『サンキュー』


そうして通話が終わると、ディメはテント内の広めのスペースに視線を向け、指を鳴らした。

するとそのスペースに扉が現れた。

それは鉄製の扉で、アパートの貸し部屋の玄関扉のようだった。

覗き穴や郵便用の四角い穴が開いており、ご丁寧にドアノブの上には鍵穴とチェーンが設置されていた。


その扉のノブが回され、扉が開くとそこを潜り抜けて誰かがテント内へと入ってきた。

色あせたコートを見に纏ったその男はテント内に入るや否や、近くに置いてあったパイプ椅子へと腰を下ろした。


「はーやれやれ、こんなに走ったのも久しぶりだったよ」


「モルデお疲れー!…なんか顔違くない?」


労いの言葉を男へとかけたマァゴが思ったことをすぐに口に出した。

それに対してモルデと呼ばれた男は、首を回しながら自分で自分の肩を揉んでいた。


「途中でマスクが燃えちまってよお…新しいやつ貼り直すのも面倒だからそのままだったわ」


そう言ってコートのポケットから何かを取り出した。

それは端の方が焦げてしまっていたが、顔の皮のようなものだった。


「ふーん」


聞いておきながらすぐに興味が無くなったマァゴが、聞いているのかいないのかよくわからない返事をした。

そしてそのまま会話は終了し、今度はディメが話し出した。


「じゃあファジー、あとはよろしく」


「は?」


騒がしさに目を覚ましたファジーは、訳がわからないという顔をした。

何か話そうと声を発するよりも先に、その姿が消えることとなった。


足元に現れた外開きの扉の中に落ちていく形で。















「痛え!!」


俺が気がついたときには、石でできた床にしこたま背中をぶつけていた。

さっきまで寝てたってのに、今の衝撃で完全に目が覚めちまった。


ったく…あのクソシルクハットが…戻ったらタダじゃおかねえ…


背中の痛みに顔(目玉)をしかめながら辺りを見渡す。

そこは石造りの壁や床で構成された縦横十数メートルの通路だった。

どうやらディメの移動用の扉によって強制的にダンジョン内へと連れてこられたらしい。

地下にあるためか石でできた壁や床がひんやりとした冷たさをしており、寒気のようなものを感じさせていた。

いや、もしかしたらこれは今まで誰もここへと辿りつかなかったってことを表しているのかもしれない。

その証拠にこの巨大な扉の前の通路には、壁や床に少しの傷や汚れも無かった。


いやただ単にここのボスが綺麗好きって可能性もあるか…


しょうもないことを考えながらファジーは立ち上がると、服についた埃を払った。

そのままシャツのシワを伸ばし、帽子をかぶり直してコートの襟を正すと、遠慮なく門へと近づいた。


その門はどうやら金属でできており、そこそこ重そうではあった。

真っ赤に塗られたところを見るに、どうせ『血塗られた恐怖の門』と考えてそうだなとまたもやくだらないことを考え出す。

その考えを振り払うようにして扉に手をかける。

そうして力を込めて門を押すが、一向に開かなかった。

おかしいなと思い今度は取手をつかんで引いてみるが、それでも門は開かなかった。

そのまま横や縦に押したり引いたりしてみるが、門はマッタクモッテ開く様子を見せなかった。


これはおかしいとファジーは門を睨みつける。

するとやはりというべきか。

門にはなんらかの魔法が施されていた。

魔力の流れや魔法陣を読み解くと、どうやら鍵がなければ開かない仕組みのようだった。

この門には鍵穴のようなものは見当たらないが、多分ICカード的な何かが必要だろうとファジーは適当に判断した。

とどのつまり考えるのがめんどくさかっただけである。


鍵がないと開かねえ扉だってのにその肝心の鍵がねえじゃねえか!

今から探すのも面倒だが、もしかしたらモルデが似たようなものを持っているかもしれねえ。

だが無理やりここに送られたってのに、そんな乗り気な態度をとっちまうのは俺のプライドが許さねえしな…


そうしてファジーは一つの結論を出した。


ファジーは門へと背を向けて歩き出した。

門から少し距離を置いたのち振り返り、手を銃の形にしてくっつけた人差し指と中指を門へと向けた。

指に光が灯り、徐々に高音を発し始める。

そして光が最も高くなった瞬間、その指から光が放たれた。




「おら吹っ飛べ」









爆撃でもされたのかと思うほどの爆音と、ダンジョン全体が揺れたのかと思うほどの衝撃。

辺り一面に砂埃が舞い、ガラガラと石の通路の壁や天井が崩れ落ちてくる。

そんな瓦礫や砂埃舞う中、歩みを進めていく。

門があったであろう場所は代わりに門よりも巨大な穴が開いていた。


その穴をくぐり抜けていくと、先ほどの通路の何倍もの広さの空間にたどり着いた。

そこには石でできた柱が並び、壁には天井にも届きそうなほど巨大な鎧を身に纏った戦士の石像が等間隔で並んでいた。

一眼見てボス部屋だとわかる空間だった。


その最奥。

豪華な布が背もたれにかけられた、石でできた玉座に誰か座っていた。

貴族が来てるような金の刺繍が施された黒い上着を着ており、半ズボンを履いていた。

しかし靴はこの中世の世界には似つかわしくない、スニーカーを履いていた。

パーマのかかった金髪のそいつは小学生くらいの年端もいかない子供にも見えたが、先の爆発を見ても平気な顔をしてることから考えても堅気ではないだろう。


俺はズボンのポケットに手を突っ込みながら部屋の中央まで足を運ぶ。

そして中央へとたどり着くと、気にくわねえが玉座を見上げた。


「テメエがここの区画のボスだな」


俺がそう声をかけると、ガキは面白いものを見るような目で俺を見下ろし、そしてフッと小さく笑った。


「そうだよ、僕がこの区画の支配者、サーソさ」


「ケッ…こんなガキが幹部だなんて世も末だな」


「…それはどういう意味だい?」


俺の言った言葉に対して目に前のサーソとかいうガキが反応した。


「そのまんまの意味だよ。ガキをこんな高い玉座なんかに座れせて、将来どんな傲慢な野郎に成長するのかねえ?」


「それは、僕にこの区画の支配者としての役職を与えてくださった、ヒロシ様に対する侮辱かな…?」


どうやらなんらかの逆鱗に触れたようで、なんで怒ったのかは知らんがその小柄な身体からから魔力を立ち上らせた。

石製の玉座から身を乗り出したその顔は笑ってはいるが、何やら剣呑な雰囲気が下の方にいる俺のところまで漂ってきた。


「それと、僕はでは無い。訂正してもらおう」


「あ?お前女なのか」


そう言いつつ俺はガキの姿を改めて見直してみる。

…言われてみれば確かにその年の男よりも小柄だ。

声も高かったし、確かに女のようだった。


「あーそうかい…だが悪いが訂正はしねえ」


俺は背中に回した右手に魔力を集める。


「だがそうだなあ…こうすれば問題ねえだ…ろ!」


俺は素早く右手をガキへと向けた。

ピストルの形にした指からはさっき扉へと放った魔法と同じようなものが放たれる。

魔力でできた弾丸は真っ直ぐに玉座に座るガキへと向かっていく。


弾丸が着弾すると同時に爆音と衝撃がこの大広間を揺らした。

砂埃が晴れると、そこには粉々になった石の玉座の残骸があった。

しかし、攻撃を喰らったはずのガキの残骸はどこにも見当たらなかった。


俺はその事実に特に驚きもせず、玉座のあった場所の上…広間の天井へと視線を向ける。

そこにはあのガキが中に浮いて俺を見下ろしていた。


「大人を見下ろすなんざ気にくわねえガキだ」


「よく言うよ、いきなり攻撃してきておいて」


どうやら俺の呟きが聞こえているようだ。

魔法の力か、はたまたスキルとかいうやつの力か…


まあんなこたどうでもいい。


「降りてきたらどうだ?これじゃ顔も見えやしねえよ」


「嫌だね。会話の最中に攻撃するような無礼な奴に見せる顔なんてないね」


いけ好かないガキだ。


「そんな君にはこれをプレゼントしてあげるよ!」


そう言うガキの背後に巨大な魔法陣が現れる。

ガキの低い背よりもはるかに大きい魔法陣。

それがさらに三つほど重なって展開される。


魔法陣の複数展開…おまけに重ねて使うってことは、魔法の効果の倍増狙いだろうな。


俺が適当に当たりをつけていると、ガキの魔法陣が一層輝き出した。

そして光が収まると、そこには炎を纏い、身体が雷でできたドラゴンが地上の俺へ睨みを聞かせていた。


「上位魔法『竜の雷ドラゴン・サンダー』と『不死鳥の衣フェニックス・ローブ』の複合魔法…その名も『雷炎魔竜創造』!!」


ガキが高らかに叫ぶ。

そのガキの叫びに合わせるようにして魔法で生み出されたドラゴンも咆哮をかます。

うるさ…


「この魔法の素晴らしさが頭の悪そうな君に理解できるかわからないけど…まあ、くらってみれば嫌でもわかるかあ!!」


なんだか急にテンションが上がっている。

これはあれだな。

ハンドル握ると人格変わる連中と同じ匂いがする。

つまりはめんどくせえタイプってわけだ。


「さて、遺言は何かあるかい?特に無ければこのままこの魔法の威力テストをするけど?」


自分の魔法に相当自信があるのか、かなり上から目線でものを言いやがった。

俺はそれに頭にきた。


「そうか、なら俺の魔法とお前の魔法を比べてみるか?」


「はあ?君の魔法と僕の魔法を…?…ククク…アーハッハッハ!!」


ガキが急に笑い出した。

さもおかしそうに腹に手を当ててひと笑いすると、より一層高飛車な態度を取り出した。


「君はさっきただの魔力弾で攻撃してきたよね?僕だったらあの時より高度で効果的な魔法を、さらに素早く気づかれないように撃ててたよ!」


「本気で撃ってなかったからな」


「まあ君が本気であろうとなかろうと、手を抜いてる時点で君の強さはたかが知れるよ」


ガキが腕を指揮者のように動かす。

するとガキの後ろで飛んでいたドラゴンが、そのゆったりとした腕の動きに合わせるようにして空中を舞った。


「この魔法はヒロシ様にも認めてもらえたものなのさ…これに張り合えるほどの魔法を君が使えるのかい?」


俺を見下ろすガキの顔を見上げながら、俺は両手の掌を合わせた。


見たけりゃ見せてやるよ。

魔法を…な








「『笑うInnocent女児angel』」



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