異世界巨大迷宮攻略大作戦 part 7

 俺は目を覚ました。

どうやら数十秒の間気絶していたようだ。

しかし目が覚めて瞼を開けても目の前は真っ暗なままだった。


一体全体どうなって…

………



…頭が何かに埋まってる…?



俺は地面か何かはわからないが、俺の頭が埋まっている何かを両手で掴み、自分の頭上(頭下?)へと来るように押し上げた。

すると掴んだ何かは動かずに、代わりに俺の体が動き、見事頭がすっぽ抜けた。

もちろん俺は地べたへと放り出された。


地べたに座りながら頭についた石のかけらのようなものを手で払い、顔を上げるとそこには壁があった。

ただの壁ではない。

木や森や山や空が本物と寸分違わぬほどのリアリティで描かれている、壁だ。


俺は立ち上がり、首を傾げながら壁へと近づき手で触る。

…うん、何の変哲も無い壁だ。

軽く叩いてみると、コツコツと軽い音がなった。

こりゃ石か何かでできてるな?

視線を左右に動かすと、俺頭より下あたりの壁にえぐられたような穴が空いていた。

触ってみると、白い石のかけらと黒い石の欠片がこぼれ落ちた。

ははーん、俺が地面に潜り込ませた鎖はここにぶっ刺さったんだな?


エルフに危うく殺されそうになった時、俺は足から溶岩でできた鎖を伸ばして背後にまっすぐに地面を潜らせた。

何かで鎖を固定してから俺の体をリールがわりにして一気に鎖を巻き上げれば速攻で戦線離脱できるって寸法だ。

まあ鎖の先の楔が刺さるくらい頑丈でかつ俺よりも何倍も重いものがなけりゃできない様な思いつきの作戦だったがな。

それでもあんのボス女エルフがしたみたいに相手を煽って時間を稼いだおかげでこうして成功した!

ざまみろだぜ!


にしてもあの風の魔法は厄介だ。

どんな技を使っても熱を奪われちゃあ戦力ガタ落ちだ。

俺が火山の悪魔だから耐えれてたが、人間じゃあ10秒も持たねえな。

不意打ちでもするか?

うーん…


…にしてもなんだこの壁は?

俺は徐々に視線を壁に沿って上へと向けた。

すると、壁は徐々に俺のいる空間側へと沿ってゆき、そのまま何十キロ先で再び地面にくっついた。

つまりこのダンジョン空間は丸いドーム状になっていた。


ふむ…てことはこの先は地面…つまり土やら岩だらけの地中ってことだよな?

…いいこと思いついたぞ

だがこれを実行するとこの区域丸ごとぶち壊すことになるなあ…

まあいいか!

ここを俺だけのエルフハーレムにしようと思ってたがやめだやめ!

あんの腐れエルフどもをギッタンギッタンのグッチャグチャにする方が先決だ!

それに女なんてこの世にゃ星の数ほどいるんだ!

今更何百人か死んだところで変わりゃしねえ!


そうと決まれば実行するのみだ!

俺は体内に残った僅かな熱エネルギーを右腕にかき集め、その右腕を目の前の壁へと思いっきり突き立てた。

腕は壁を砕き、溶かしながらズブズブと壁の中へと入っていった。

そのまま腕が肘くらいまで壁に埋まると、俺は手に神経を集中させる。

すると壁の向こうの遠い場所に、何かを感じ取った。

俺は感覚だけでソレを探り当てた自分を褒めてやりたくなった。


作戦名は…そうだなあ…


”質より数作戦”だ!











エルフクイーンであるシグレは木々を見下ろしながら飛んでいた。

ツユ達には、他の仲間達の最下層への避難の手伝いを支持しておいた。

今頃無事な仲間とともに怪我をした仲間の介護や、非戦闘民の避難誘導を行なっているはずだ

そう考えるシグレ頭は、ロープのようなものでどこかへと悪魔が引っ張られていった方角へと向いていた。

背中からは妖精のような羽を出し、風魔法で加速して飛びながら、下を見下ろして悪魔の姿を探していた。


(確かこっちに行ったはず…)


あの悪魔は私の魔法には勝てない。

私の『崩壊の風』はありとあらゆる”熱”を奪う魔法。

生物にとって熱とは命に等しいもの。

それを奪われれば動くこともままならない。

これは私達がまだ地上で暮らしていた時、森に人間たちが火を放つ事件があった際に顕現したスキルのようなもの。

これを使えば森についた火も、人間の命の火ですら消し去ることができる。

私はこの魔法で女王の座へと君臨した。

この魔法で同胞たちを守ってきた。

今回の襲撃でたくさんの仲間達の命が奪われてしまった…

それは一概に私の実力不足のせいでもある。

だから、私はもっともっと強くなって仲間たちを守り、私達を救ってくださった我らが主人のムトウ様のお役に立ちたい。


そうして自分の心の中の決意を確かめていると、このダンジョン区域の壁まで到達した。

眼科の壁を見渡してみると、ある一点に目が止まった。

そこに、あの悪魔がいた。

そいつは壁に有家を突き刺して何かをしていた。


(まさか…壁を破って仲間でも迎えいれようとしている…!?)


そう考えた私は急いで地上へと降り立った。

私が悪魔の後方に着陸すると、悪魔は首だけ動かして私の顔を見た。


「おうおう遅えじゃねえか?あんまり遅いもんでのんびりしてたとこだぜ?」


「お黙りなさい、悪魔め…さあ、観念することね」


「そいつはできねえ相談だな」


「あなたの意見を聞くつもりはないわ」


私は相手に反撃の隙を与えぬように、事前に詠唱をしていた魔法を唱えた。


「『崩壊の…』」


「…ビンゴ!」


すると私の言葉にかぶさるようにして悪魔が叫んだ。

その途端、悪魔が腕を突き刺している壁に、大きな亀裂が走った。

その亀裂はどんどん大きくなり、枝分かれし、広がっていった。

亀裂はこの空間の天井まで達した。

天井や壁にできたヒビや割れ目から、細かい石の欠片が落ちてくる。

私はその様子を驚愕の表情で眺めていた。


ヒビが天井まで達した直後、悪魔の腕を突き刺してできた割れ目から光が漏れ出した。

その割れ目から何か液体のようなものが漏れ出し、それが地面へと落ちると、何かが書けるような音を立てながら煙を上げた。

それと触れた草に火がつき、真っ黒になってゆく。


(あれは…溶岩?まだあんな力が残っていたっていうの?)


悪魔が割れ目から徐々に腕を引き抜いていく。

手首が見えてきたあたりで、腕が何かに引っかかったようにつっかえていた。

悪魔は壁にもう片方の手を当ててなんとか引き抜こうとする。

私はそれをチャンスと捉え、再び詠唱した魔法を解き放った。


「『崩壊の風』!!」


私にはなった魔法が悪魔へと襲い掛かる。

魔法の風が悪魔を包み込むかと思われたその時、悪魔の右腕が割れ目から一気に引き抜かれた。

それと同時に割れ目から石の欠片や砂がこぼれ落ち、それに続くようにして溶岩が溢れ出した。

他の割れ目からも溶岩が溢れ出し、重力に従い下へとこぼれ落ちてゆく。

溢れ落ちた溶岩は煙を出しながら土を、草木を、空気を焼いていく。


しかしそれよりも何よりも目を引いたのは、悪魔が手にしているもの。

引き抜かれた右手でつかんでいたのは、真っ赤に光る瓢箪のような形の胴体に、長いツノが一本生え、胴体の真ん中には穴が空いており、そこには空洞ができていた。

よく見ればツノの先から胴体の穴をまたいで糸のようなものが数本貼り付けられていた。


シズクはそれと似たものを過去に見たことがあった。

それは主人であるムトウに連れられて東国へと遊びに行った時のこと。

そこで悪魔が持っているものと似たような楽器を見たことがあった。

それは木でできており、弦と呼ばれる糸を弾くことで音を鳴らすものだった。

それはハープとは違った音がしてシズクはあまり好きではなかったが、ムトウがそれを聞いて楽しそうだったためシズク自身も楽しくなったことを覚えている。


しかし、悪魔が持っているそれは決して木でできているようなものではなく、全体から熱を放ち、溶岩を滴らせ所々で炎が燃え盛っていた。

とてもじゃないが人間には扱えるようなものではなかった。


「ん?そんなに俺のウクレレを見たってやらねえよ」


悪魔がそう言ってそのウクレレという楽器を抱えるようにして両手で持って体の前に構えた。

左手はツノのように長い部分に、右手は胴体の穴の空いた部分に。

それぞれ弦に手を当てながら構えた。

悪魔がゆっくりと弦を弾くと、小気味良い音が鳴った。

それぞれの弦が音を奏で、辺りに響く。


「さあ、今こそ顕現せよ!常夏召喚…『来たれ夏』!!」


悪魔がそう叫ぶと同時に、手にしたウクレレの弦を一気に弾いた。


すると、地響きとともに壁の中から轟音が響いた。

壁や地面の振動が徐々に大きくなっていき、辺りに広がる壁の亀裂が少しずつ大きくなっていった。

そして一際大きな轟音が壁の天井から鳴り響くと同時に、あたりの亀裂から真っ赤に輝く液状のものが溢れてきた。

それが壁から溢れてくるたびに、大量の熱がこのダンジョン空間に流れ込んできた。


「これは…溶岩!?」


「その通り」


壁や天井から視線を外し悪魔に目を向けると、何やらウクレレで軽快なリズムの音楽を奏でていた。


「俺の『常夏の権限』はあくまで溶岩やマグマの大雑把な操作しかできない」


悪魔の指がウクレレの弦を滑らかに弾いていく。

明らかに長い年月、それを扱ってきたことがわかる動きだった。


「しかーっし!このウクレレを奏でている間は、まるで手足やその指先のように溶岩を自由に操ることができるのだ!」


悪魔がウクレレの弦を一際強く弾いた。


「こんな風にな」


突如として壁から溢れ出るマグマが動き出した。

蛇のようにのたうち回り、あたりの木々を薙ぎ払いだした。

薙ぎ払われ吹き飛んだ木々に火がつき、それが他の木にぶつかり火が燃え移る。

それはまるで蛸のようにうねりながら大暴れをしていく。


「貴様…!」


「お怒りかね?ん?自分たちの住処が滅茶苦茶になってよお?」


「こんなことをして何になるというのだ!」


「意味なんて無いぜ?いろんなものが景気よく燃えるのを見ると楽しいからなあ!」


「この下衆が…!」


「ほらほら、そんなこと言ってる間に…ほらよ」


悪魔がウクレレを弾きながら顎で私の後ろを指し示した。

そちらに目を向ければ、世界樹の幹に作られたエルフの村に火の手が迫りつつあった。

村の家々はその多くが木で造られており、よくて石やレンガで造られている。

このままでは村は壊滅的な被害を受けることになるだろう。


その村の近くで、仲間のエルフたちが何とか村を守ろうとしているが、マグマの物量に押されつつあった。

水や氷の魔法で相手をしているが、それらすべてがことごとく溶け、蒸発してしまっている。


「さっさとあんたお得意のマジックでも披露したらどうだ?お仲間の数がどんどん減ってってるぜ?」


悪魔の話す通り、仲間のエルフたちがどんどんと倒れてゆく、

ある者は体に火がつき、ある者は折れた大木に押し潰され、ある者は熱気に覆われ息が出来ずに力尽きた。

倒れていく仲間たちの多くは苦悶に満ちた表情を浮かべ、どんどん命を散らしていく。

私は血が出るほどに両の手を握りしめた。


「…二度とその減らず口を叩けないようにしてあげるわ」


私は体内のありったけの魔力を練り上げた。

すると、私の背後に巨大な魔法陣が浮かび上がる。

魔法陣は光り輝き術式が刻み込まれていく。

この魔法陣は並の魔術師には扱えないほど複雑なもの。

もし未熟なものが起動しようものなら、一瞬にして魔力が枯渇するだろう。

しかし、エルフや魔族のような魔力操作に長けた種族の我等ならばたやすく扱うことができるだろう。


「その愚かなことをしか話せない口ごと朽ち果てるがいいわ…『崩壊の風』!!」


私は相手に反撃の隙を与えることなく、数秒で魔法陣の構築から発動までを行った。

あの悪魔は避けることも防ぐこともできないまま死んでいくことだろう。


私は最早あの悪魔に何の感情も持ち合わせていない。

早く私に目の前から消え失せればいい。




ただそれだけだ…














「あめぇんだよ」


「な…!?」


どうやらこの女は俺が平気な顔して立ってるのにびっくりしてるみてえだな。

そりゃそうか!

俺は今さっきまで手も足も出せずにいた魔法を喰らってるんだからな。


俺の体をアンポンタンエルフの放った魔法の風が包み込む。

身体中から熱を奪われる感覚があるが、それでも何の問題も無い。


「面白い顔してんなあ?そんなに不思議か?俺がピンピンしてることにヨォ」


「…一体どんな手品を使った…!」


「そんなに難しい話じゃない、簡単な話だぜ?」


俺はウクレレを弾きながら女の目の前を歩き出した。


「タネも仕掛けもありゃしない、単純明快明らか新たかアキレス腱ってな」


俺の歩いた後の地面が盛り上がり、そこからマグマが湧き出してくる。

そうして出てきたマグマは徐々に広がっていき、池のようになっていった。


「俺の身体には血の代わりにマグマが流れてんだ…さっきはコードレスで出歩いてたが、今の俺はワイヤレス充電式だ」


…何だか訳がわからないって顔をしてやがるな。

そりゃそうか、この世界にゃ電化製品なんてねえからな。


「ま、要するに今俺は動力源たるマグマ湧き出る地脈と繋がってんだ。エネルギーMAX!力使い放題!てなわけさ」


俺は片腕で力瘤を作った。

それを女に見せつけるが、何も反応されなかった。悲しいねえ…冷たい女だねえ。


「さてさて、果たしてお前にお前に俺が倒せるかな?」


俺は試すようにそう口にした。

俺の笑顔とは対照的に、女エルフの顔は険しいものだった。



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