異世界巨大迷宮攻略大作戦 part 8

 俺はウクレレを弾き鳴らす。

その旋律はまるで荒れ狂う大海のよう。

それに呼応するようにして周りからマグマが集まってくる。

蛸の足のようにうねりながら俺の目の前のボス女エルフへと迫っていく。

そのマグマの激しい勢いで辺りの木々が薙ぎ倒される。

そのままの勢いでマグマは女の元へと突っ込んでいく…が、マグマは女の数メートル手前で見えない何かに遮られるようにして阻まれてしまった。


「『崩壊風陣』!!」


「なーるほど…風で壁を作ったってわけか」


「何人たりとも私に触れることはできない」


いくつものマグマの触手が女へと迫るが、そのどれもがことごとく見えない風の壁に阻まれてしまう。

しかもその壁は女お得意の熱を奪う風魔法でできている。

触れたマグマの熱がことごとく奪われてしまう。


マグマは冷え固まっていくが、冷えた先から新たなマグマが後続より寄せてくる。

そのためいくら時間が経ってもマグマの攻撃の手が止まることはなかった。


「無駄よ無駄無駄。いくら熱を奪ったってマグマはいくらでも湧き出てくるのさ」


「…だがこれでは貴様は私に指一本とて触れることはできない」


「あ、そう…そんならこんなのどうかな?」


両手で持っていたウクレレの指板と呼ばれる長い板の部分を、左手で掴みそれを横に振るう。

すると、ウクレレの穴の空いた胴体が長く伸びてゆき、形状が変化していく。


それはまさしく炎の剣。

うねるような形の刀身は炎を纏い高い熱を放出し、金色に輝く装飾は炎に照らされ光り輝く。

その武器はフランベルジュ。

波打つ刀身を持ち、それが炎の形に見えることからフランス語で炎を意味する言葉からつけられた名前だ。

ちなみにこいつは片手剣だが、両手剣タイプのツヴァイヘンダーという体験も存在する。

俺は剣を頭上へと掲げながら高らかに声を上げる。


「見よ!我が手の炎の化身をその目に焼き付けよ!これぞ炎神すら焼きつくす獄炎の剣なり!」


俺が剣を足元へふるうと、振るわれた地面に炎の線が発生した。

そして剣を右手に移して両手で持ち、腰を落として剣を構える。

それを見た女は先程よりも更に多くの魔力を練り上げた。


「オラアアアアアアアア!!」


そして、女の背後に一際大きな魔法陣が現れた瞬間、俺は剣先を女へと向けながら突っ込んでいった。

剣を女の胸に突き立てんと真っ直ぐに突き出す。

女の胸に剣先が触れる寸前、剣は掴まれたかのように空中で静止してしまった。


「ああん!?往生際が悪いぞ?」


「黙れ!貴様如きが私に触れることなどできるわけがない!」


「その割には苦しそうな顔が見えるが?」


四方八方からのマグマによる攻撃に加え、俺の件による突撃を防いでるおかげか、女の表情は苦しいものだった。

マグマは先程防がれた時から少しも女へと近づけていないが、押し返されることもない。

防いでいる剣を押し返そうとしているようだが、こちらも1ミリも動くことは無かった。


「これぞ膠着状態ってな…このままお見合いを続ける気か?」


「…フン…貴様も私には手を出せないが?」


女が鼻を鳴らして俺を見下すようにして言うが、俺はそれに対してさらに馬鹿にするようにして女の顔を見上げた。


「そいつぁどうかな?…そのナイスバディに違和感が無いわけないよな?」


「なに…!?」


すると、女の目がカッと見開かれた。

そしてその表情がさらに険しくなっていく。


「貴様…!」


「俺ぁよお、頭がいいからなあ…気づいちまったんだよ。お前の魔法の種がな」


あたりが炎に包まれ出した。

空気は熱を帯び、マグマはうねりたける。

俺は剣を押し込みながら続けた。


「テメェはさっきこの魔法はものと言った。では無く、だ…ここがミソだぜ?」


冷やすでも無く凍らすでも無く、消すでも無い…熱を奪い去ると言った。

という事はつまり、奪った大量の熱がどこかに存在しているという事だ。


「奪った熱はどこにいったのか…そいつはきっとお前の中にあんのさ…魔力ってえな形でな」


つまり、この女は魔力で魔法を使って熱を奪い、その熱を魔力に変換してさらに魔法を使う。

お手軽永久機関ってわけさ。


「魔法ってのは魔力を術式やら魔法陣に流して使うもんさ(《小声》少なくともこの世界ではな)」


この風の魔法が、


魔力→(注入)→魔法陣→(施行)→魔法→(抽出)→熱


という手順を辿っているとすれば、その手順を単純に逆にすれば…


熱→(注入)→魔法陣→(変換)→魔力


ってな具合にできるはずだ。


「もちろん、俺は魔法の専門者じゃ無いんでな。今言った内容が全部あっては無いだろうが…少なくとも熱を魔力に変えてるってところは当たってるだろ?」


「…」


「沈黙!それが正解ってか!?ケケケケケ!」


俺は笑うが、女の顔は険しいまま。

つまらん女だ。


「あー全くもって話甲斐のある女だこと!…だが、こっから先はおしゃべりする暇もなさそうだ!」


俺は体内の熱を一気に解放する。

身体中から熱気が解き放たれ、辺りの空気が揺らいでいく。

体内の熱を移動させ、腕から手へ、手から剣へと移していく。

大量の熱が送られた剣は赤く光り輝き、抑えきれない熱気が炎となって溢れ出る。

そして熱気や炎は出たそばから女の魔法によってどんどん失われていく。

こうして失われた熱も奴の手によって魔力へと変わっていくのだろう。


「無駄な事だ…こうしている間にも貴様の力がどんどん失っていくだけだ」


「そいつはどうかな?…自分の体のことは自分がよくわかるだろ?」


「…!…まさか…!」






ピシッ…







女の頬にヒビが走った。

そこから少しだが血が漏れ出した。


「なっ…これは…」


「エルフってのは魔力操作に加えて魔力の貯蔵にも優れてるって聞いたが、それでも上限ってのはあるもんさ」


さらに女の手にもヒビが入る。


「魔力が枯渇した奴は見た事はあるが、魔力を大量に取り込んじまったやつってのは見た事ねえなあ?」


「くっ…」


女が頬のヒビに手を当てる。

その表情は憎々しげに歪んでいた。


「どうなっちまうんだろうなあ…そのままバラバラに崩れちまうんかな?それとも風船みたいに膨らんで弾け飛んじまうんかなあ?」


クックック…と俺が笑っていると女は一気に魔力を高まらせ、風魔法の威力を上げてきた。


「ならば一息に殺すまで…!」


どうやら出力を高めて一気に蹴りをつけるつもりらしい。

先程よりも十倍近くの量の熱を奪っていく。

しかしそれでも俺の持つ熱は一向に減っていかない。

堂宇やらそれに困惑しているようで、女の表情は変わらない。


「残念だったな!さっきも言ったように今の俺は燃料を無限に供給されてんだ。供給源を潰さねえ限り、俺が止まる事は無い!」


そしてその供給源とは地脈そのもの。

その膨大なエネルギーを消し去ることなど不可能!


「さあさ好きなだけやりゃあいい。山火事にコップ一杯の水がどれほど役に立つかな?」


そう言う間にも女の体にどんどん亀裂が走っていく。

亀裂は傷となり、そこから血が吹き出す。


「ぐうう…があぁ…」


「さてさて、そろそろクライマックスといこうじゃあねえか!」


あたりの空気が一瞬揺らいだ。









「『炎羅晩餐剣_インセノレイト・バーベキュー_』!!」










この剣は真っ赤な刀身の中央に黄色く光る波紋が浮かぶ。

その見た目から、仲間内からは『ベーコンソード』と呼ばれている…


…別にどうでもいいか、この話は…




決めシーンと思って回想でも入れようかと思ったが、特にそう言った思い出もなにも無かったわ。














波打つ刀身が深々と女の腹へと突き刺さった。

剣の半分ほどまで刺さったところで止まってしまったが、それでも致命傷となり得るだろう。


「ぐ…剣の鍔、から…炎を吹き出して…」


「ご名答!炎で簡単お手軽ジェットさ!」


女が痛みで苦しそうに顔を歪めるが、まだまだ元気が余っているようだ。

腹を貫いている剣を素手で掴み、これ以上刺さらないように押し留めている。

しかし剣を掴む手に加え、身体中から血が吹き出している。


「そろそろ諦めてポックリ逝っちまったらどうだ?」


「だ、誰が…き、貴様なんぞ…に…」


「あっそう、じゃあ死ね」


剣から、女の腹から炎が湧き上がる。

炎は女の体にできた亀裂を伝い全身に回る。

女は炎に包み込まれ、服が髪の毛が燃え上がる。


「お゛…が…があ…」


「エルフのステーキの完成だ!」


さらに剣を深々と突き刺すと、女の口や目、身体中の穴という穴から炎が吹き出した。

女は苦しそうにのたうちまわり、1分もしない内にぴくりとも動かなくなった。

女の腹から剣を抜き、血を払うかのようにして剣で空を切ると、灰や炭のようなものが辺りへと散らばった。

それを合図とするかのように、燃え尽き炭化した女が崩れ去った。


「綺麗な女もこうなっちまえば見る影もねえや…さてと、次だ次」


俺は剣を肩に掛けながらぶらりぶらりと歩き出した。

目的地は…俺のハーレムとなるはずだった女どもだ。











*****************************











 炎が辺りを包み込む。

燃え盛る炎で空気が熱され、息をするだけでも肺が焼けそうなほどに熱い。

熱気が全てを包み込み、最早ここはエルフの安息の地では無い。


地獄であった。





下の階へと降りる出口は燃える岩によって塞がれた。

地上へ出ようにも世界樹は燃え盛り、近づくこともできない。


出口付近で大勢のエルフが肩身を寄せ合い、固まっていた。

その多くは女子供、老人で、それを守る若いエルフが数名。

この出口付近の地面の窪んだ場所にエルフ達が固まっている。

エルフ達が魔法で仲間を守るため障壁を張るが、その範囲も徐々に狭まっていく。


最早これまでと思われたその時、この場所を見下ろすようにして一人の人影が現れた。

エルフの民達はすがるようにしてその影を見上げた。

明るく光る炎に照らされ、その影の姿があらわになる。





それは地獄の権化であった。






黒き岩のような肌と角を持ち、花の描かれた服を身に纏っていた。

その体は炎に包まれていたが、それをものともせずに一つ目を煌めかせていた。


「おーおー、美人がわんさかいらっしゃる!」


その悪魔は肩に担いだ剣を天上へと掲げた。

すると剣の先から赤い光が伸びていき、それが天井まで達した瞬間、大地が大きく揺れだした。


次の瞬間天井が崩れ落ち、そこから大量の溶けた岩が流れ出した。

それはこの空間を覆い尽くさんとばかりに溢れ出す。

周りのありとあらゆるものが覆われていき、燃え盛り、溶けていく。


エルフの人々にも炎の魔の手が及ぶ。

体に火がつき、悶え苦しむ人々。


そしてそれを、悪魔が見下ろす。





悪魔のその目は、ただただ楽しそうに笑っていた。


酷く楽しそうに…






エルフの姉妹は抱き合い、身を寄せ合っていた。

そこへと溶岩の魔の手が迫る。


姉妹はただひたすらに思った。


なぜ自分たちがこんな目に合わねばならないのかを。


なぜ全てを奪われなければならないのかを。



なぜ…なぜ…






なぜ…





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