異世界巨大迷宮攻略大作戦 part 2

 テントの中に、ディメの声が響いた。


「本作戦の目的は、ガデリオン平原巨大迷宮…通称『ガデリオン・ダンジョン』の攻略占領、及び最下層の再奥に存在する『地獄門』の確保である」


そうディメが言うと、テントの真ん中にあるテーブルの上のプロジェクターが、ホワイトボードに映像を映した。

そこには、地下に広がる巨大な建造物の断面図が写っていた。

そこに、伸ばした指示棒の先端を当てて、ディメが説明を始めた。


すると、スウスウと寝息を立てていたトモが、目を覚ました。

キョロキョロと周りを見回した後、自分が寝てしまっtことに気づき、その上ルインの腕の中で丸くなっていたことに気づくと、顔を赤らめて慌ててその膝の上から降りようとした。

それを見ながらルインは、トモの脇の下を両手で持って持ち上げ、近くのパイプ椅子の上に下ろした。


「す…すみません…でした…ル、ルイン…さん…」


「…気にするな」


トモは俯いたまま申し訳なさそうに、小さな声で謝罪した。

それを聞いて、ルインは横を向いたまま答えた。


「…話を続けてもいいかね?」


ディメがそんな二人の様子を腕を組みながら見ていた。


「すまん」


「す、すみません…でした…」


二人がディメの話を遮ったことを誤ると、ディメは満足そうに頷いた後、再び後ろのホワイトボードへと視線を向けた。


「…今回の作戦の目標である『地獄門』。まずはこれについて説明しよう」


プロジェクターから映し出される画像が変わった。


そこには、骸骨や悪魔を模した装飾の施された、真っ黒で巨大な門が映し出された。

扉には宝石が嵌め込まれ、禍々しくそびえ立っていた。


「高さは大体10メートルくらいで、封印が解かされていて、設置された場所から動かすことができないから、外への持ち出しは不可能…こいつを手に入れる…というか、自由に使用できるようにダンジョンを制圧するってわけだ」


ディメがそう説明していると、回転の悪魔ロッティが手を挙げた。


「しつもーん!」


「なんだ?」


「その『地獄門』ってのを使ってさ、何をするんだい?」


そうロッティが質問すると、ディメは地面へと人差し指を向けた。


「地獄へ行ける」


「地獄に?」


ロッティは不思議そうに首を傾げた。

それに合わせるように、他の悪魔達も意図が理解できていないようで、顔を見合わせていた。

ディメは手を叩きながら、話し出した。


「いいか?この世界の神と呼ばれる存在の元へ行くための方法が、今の所発見できていない。となると、天界にそのための”道”があるとみていいだろう。そのためにも、この地獄…というより魔界へと行くことのできる『地獄門』を改造して、天国だか天界へのゲートにしようって寸法だ」


「そんなことできるの?」


恋の悪魔ラブユーが首を傾げながらディメに聞いてきた。

するとディメは、首を縦に振りながらファジーへと視線を向けた。


「改造といっても、門に施された魔法陣やら装飾を多少いじるだけだからな、うちには魔法に詳しい不良がいる」


「誰が不良だ」


テーブルに足を乗せて座っていたファジーが不良と言われたことに突っ込んだが、それに対して周りは誰も何も言わなかった。

その周りの空気に少し不機嫌になるが、ファジーは続けた。


「…直接見る必要があるが、おそらく転移系の魔法陣で作られたやつだろ…多分大丈夫だ」


「…だ、そうだ」


ロッティは「ふーん…」と漏らし、納得したのかしていないのかわからない返事をした。

周りもディメの方を向いて話を聞く姿勢になるが、一人だけ周りの悪魔達を見回している者がいた。


「…どうしたんだ、トモ?」


そうディメが声をかけると、周りに悪魔達も一斉にトモへと顔を向けた。

トモは周りから見つめられてビクリと肩を震わせたが、うつむいて視線を彷徨わせながら、なんとか声を絞り出した。


「あ…えっと…その…」





「か、神様に会って…な、何をするん…ですか…?」






今度はディメへと一斉に視線が向けられた。

ディメはキョトンとした顔で、自分を見つめる悪魔達の顔を見返していた。

ロッティが怪訝な表情を浮かべながら、ディメへと声をかけた。


「ええ…話してないの?」


それに合わせるように、ラブユーや迷宮の悪魔ウームブが呟いた。


「子供だからしょうがない…のかなあ…?」


「終わったら教えろ」


ラブユーはテーブルに頬杖をつき、ウームブはスマホを取り出し、弄りだした。

ファジーはため息をつき、マァゴはこれから何が起こるのかワクワクしながら足をぶらつかせていた。

ディメがよしきたとばかりに胸を張って話出した。










いいか、この世界を作ったのは誰かわかるか?

もちろん、自然に勝手にポンッて誕生したわけじゃない。

神と呼ばれる存在が創り出したんだ。


神は光や宇宙、星を作ると、今度は生き物を創り出した。

それは植物であり、動物であり、人間も誕生していった。


そして神は、世界を管理した。

眷属や子分を創り、それらは様々な次元の様々な世界へと散らばってゆき、その世界を管理し、全握などのバランスを保とうとしたりした。


だが、蓋を開けてみればどうだ?

争いは絶えず、生き物は死に絶え、苦しみ憎しみ悲しみは消えることが無い。

誰が悪いのか?

当然、この世界を創った神と、それを管理する神とその子分どもが悪い。


だから、俺は決めたのさ。

そんな糞食らえな連中を全員消し去って、世界のあり方に革命を起こすのさ。

神の連中を全員殺した暁には、リンゴマークの会社も真っ青な技術改革を起こして、世界に真の平和をもたらす。


それが俺の野望であり、この世界に見出した最後の希望、さ。



だから邪魔者は殺す。




神も、それに従う手下も、神に媚び諂う人間や多種族であろうとも。






世界すら、歯向かうのなら…俺の敵だ…











「そのためにも、こうしていろんな次元の世界の神をぶっ潰して回ってるってわけさ」


胸を張って高らかに宣誓し、気分良さげにディメはトモへと視線を向けた。

しかしトモはというと、ディメの剣幕に怯え、椅子に座るルインの後ろへと隠れてしまっていた。

一部を除いた周りの悪魔達は怯えるトモを見た後、冷たい目をディメへと向けた。

軽蔑するような視線を向けながら、ラブユーはディメを非難した。


「こんな子供を怖がらせるなんて…愛が足りてないね」


「子供相手に熱くなちゃって…大人気ないというか、なんというか…」


「声がでかくて寝れねえ」


「興奮するな、喧しい」


ラブユーに続くようにして、他の悪魔達も口々にディメへと冷たい言葉を投げつけた。

すると、ディメはムッと周りの悪魔達を睨みつけた。


「ええい、だまらっしゃい!これは俺の人生最大の野望であり、俺が唯一この世界に見出した最後の希望だ!この計画を思いついてなけりゃ、等に俺は自分で自分の命を絶ってたね!」


そうして不機嫌そうに腕を組んでそっぽを向いてしまった。

ディメの説明を補うようにしてるインはトモへと話しかけた。


「…俺たちは、そんなあいつの計画の手伝いをしている…もちろん、その対価として見返りを貰う約束でな」


そうルインが言うと、周りの悪魔達は頷いた。

その反応は、これから先全てがうまくいき、その対価を必ず手に入れることが出来る…と確信しているかのようだった。

それを見て、トモは怯え隠れながらも、この悪魔達ならば何かとても大きな事…世界を変えることすらいともたやすく行うだろうと感じていた。


ディメの手を叩く音がテントの中に響いた。


「ともかく!俺らはこうした関係の元、日夜俺の野望のために動いてる…今日の仕事もその一環だ…さっさと説明の続きをするぞ!」


そう言いながら、ホワイトボードの前で指示棒を手に握る。

それを横目で見ながら、ルインは後ろに隠れるトモの頭を撫でながら、小さな声でこぼした。


「…あいつは俺たちの中で一番強い、しかしその力で屈服させて従わせようとは殆どしない」


「そ…そうなん…ですか…?」


「ああ…あいつはあいつで、昔に何かあったんだろう…だからとは言わんが、あいつを嫌いにはならないでやってくれ」


そう言うと、ルインはディメの立つホワイトボードへと目を向けた。

トモは、説明を始めたディメとそれを見るルインをしばらく見つめた後、自分の座っていた椅子へと戻り、静かにディメの話へと耳を傾けた。












「『ガデリオン・ダンジョン』への侵入口は三つ。地上の洞穴に入って下へと続く階段を降りていくと広い空間の中央に出る、そこに三方向の通路がある…それが入り口だ」


ディメが指示棒で示す先には、プロジェクターから映し出された地下へと続く巨大な構造物を縦に切り取ったような断面図。

その上層部に、ディメの話す入り口があった。

そこから徐々に指示棒の先を下へとズラしながら続けた。


「それぞれの入り口へ入ると、それぞれ別の区画へと入る。そこから先、最深部の最終ゾーンまではこの三つは交わることは無い…ここが今回の厄介なポイントだ」


そうディメが言うと、プロジェクターの画像が切り替わり、様々な怪物の姿が映し出された。

トモがそれを見て怖がるのを尻目に、ディメは話を続けた。


「これがそれぞれの区画で出現するモンスターの一覧だ…これを元に、今回の作戦の人員の配置が決定した」


画像が切り替わり、先程のダンジョンの断面図が映し出される。


「このそれぞれの入り口から、それぞれ別の悪魔を送り込み、内部のモンスターを殲滅する」


それぞれの入り口に、見たことのある悪魔の画像が重ねて映された。


「虫系・植物系モンスターやエルフ・ダークエルフが出現するA区域は、火山の悪魔ヴォルケの担当だ」


「任しとけ!」


「ゴブリンやオーガなどの亜人形モンスターの出現するB区画は、殺人の悪魔モルデが担当する」


「いいよ、問題ないね」


「最後に、魔獣系が多いC区画は迷宮の悪魔、ウームブが担当する」


「…了解」


それぞれ名前を呼ばれた悪魔が、腕に力こぶを作って構え、ニヤリと不敵に笑い、スマホを見ながら答えた。

それを見て頷くと、ディメは説明を続けた。


「そしてそれぞれの区画を超えた先に待ち受ける最終ゾーン…ここにはアンデット系やそこに至るまでに出現したモンスターの強力な力を持った亜種が現れてくる…この区画はお前ら三人で攻略してもらうことになるが…場合によっては別の悪魔と交代してもらう。それぞれの担当区画のボスと戦う時もそうだ、計画を円滑に進めるためにも交代してもらうかもしれん」


「んなもん必要ないぞ?俺が全員ぶっ殺すからな!」


ヴォルケが高らかに宣言するが、ディメはそれを無視した。


「そして、最終ゾーンを抜けた先に関しては情報が無いので、そこから先はその時の状況に応じてメンバーの交代を行なっていくからな…しかしわかっていることは一つある、ここのダンジョンの主人は、異世界転生者だ」





プロジェクターの画像が消え、ディメの指示棒をしまう音が聞こえてきた。

ディメは自分を見る悪魔達を見回した。

その途中、トモと目が合うが、トモが視線をさっと逸らしてしまうと、ほんの一瞬、悪魔達が気づかない間だけ、どこか寂しそうな目になるが、すぐにまたいつもの感情の読み取れない目となった。

それに気づいたのはルインとトモだけであった。


「もう一度言うが、今回の作戦の最終目標は『地獄門』の入手だ。それを邪魔する可能性のあるものは、その一切を排除する…その方法は問わん」


ディメがそう言った時、周りの悪魔達の目が怪しく光った。

それは、これから起きることへ胸を馳せているような…子供のように無邪気にワクワクとしているかのようであった。

それが、ゾワリとトモの胸の中をかき乱した。

どうしようもなく落ち着かなくなり、顔を曇らせていると、ルインがその頭に手を置いた。

トモの顔を見ることはなかったが、それでもその煙のような手からはあたたかな温もりが伝わってきた。


そんな二人尻目に、ディ目は高らかに宣言した。




「ではこれより、ガデリオン平原巨大迷宮攻略殲滅作戦を開始する!各員配置につけ!」


「「「了解!!」」」







今まさに、滅びと恐怖の使者が、ダンジョンへと舞い降りんとしていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る